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その61.バレないのが絶対条件

「……私が何の得にもならない様な事をした事に戸惑っているようですね~? アッハ!」

 笑顔で言われても余計不振に思うだけなんですが……。

 ミホがアリサの事を嫌っているのを知っている分、連れてきたことが罠だとしか思えない。

 彼女は心で動く人間だが、自分の損得を考えるところもある。

 だからこそ疑ってしまうのは仕方が無かろう……いや今の彼女とは赤の他人なんだけどね。


 ミホはニコッといつもの笑みを浮かべると、僕に人差し指を向けてきた。


「じゃ~ぁ? 百合果さんとサシでお喋りしてみたいです♪ アリサちゃんも連れてきたんだしそれくらいは良いですよね~? アッハ! ほーら私の得だァ!」


 ……よ、読めない!

 この子の行動が読めない!

 僕を一人にする罠、いや罠だったらアリサちゃんを態々連れてくる意味は無い。

 安心させるため? 解らない……だからこの子とは敵対したくなかった。


「ど、どうしますか?」

 縁が僕の耳元で不安そうに零す。

 縁も罠である事を警戒しているのだろう。

 狙わないと言っても相手は嘘吐き少女、何処までがホントかも解らない。


 …………いや、多分、大丈夫。


「縁ちゃん、アリサと先に行ってて」


「良いんですか?」

 不安そうな言葉は変わらない。


「大丈夫。それよりも出口の確保の方が先だと思うの、私なら出てくる所を抑えるしね」

 もし罠だとしたら常識的に考えたらそっちの方が有効だ。

 ……性悪女が常識通りに動くとは思えないが。


 縁は小さく頷いた後、アリサを促して暗闇の先へ消えていった。

 最後まで不安そうな表情は消えなかった……。




「アッハッハ! やっと二人っきりですねー? まさか二人っきりになってくれるとは思いませんでしたけど~?」

 ミホからしたら罠だと考えて引き下がるのが順当な考えだったらしい。

 

「アリサを連れてきてくれたのは感謝しているわ、それに関しての恩は返させて貰います」

 普通に答えただけなのに、ミホは不思議そうに片眉だけ挙げて見せた。



「……アッハ。ずっと思ってたけど百合果さんって誰かに似てますよねー?」


 う゛! ヤバイ!?

 どこらへんでその誰かに似てると思ったか知らないけれど! ばれないようにしなければ!


「私と二人っきりになりたいと言っていましたけど、どんなお喋りをご所望ですか?」

 笑顔を浮かべながらそう言ってみる。

 ミホの言葉は聞こえなかったフリだ、取り合えずは即座に話しを変えなくては!!

 ミホは目を細めて探るように僕を見つめた。



「……私ってそんなに知らないことないんですよん? そんな私だったら学校ぐらいの広さなら最早知っている事しか無いんです」

 ……ミホは何を言い出したんだ?

 疑問に思う僕を無視して、ミホは更に続ける。

「そんな中で、この学校で知らないアナタに会ったんですよ? あなたの事を教えて下さい。私にとって『知らない』という事が一番プライドが傷つくんですよ、私が知らないなんてありえないんです。 だからアナタを教えてください」


 ……目、目が座っている。


 ダ、ダメだ! 迫力に圧されては素が出る!!

 言い返さなくちゃ!


「おかしな人ですね? 知らない事が傷つくことだなんて……では貴方は毎日傷ついているんですね」

 少し皮肉めいた言い方になってしまったが、僕の言葉にミホは嫌な顔一つせず、笑みを浮かべて見せただけだった。


「……そーなんです、だから学校内ではせめて、知らない事は『一つ』で良いんです」


 へー、一つはあるんだ。

 知らないっていうストレスは一つが許容限界らしい。


「じゃあ、これで二つ目ですね?」

 そう言って笑う。

 ミホは今度こそ表情を顰めた。

 でもすぐにいつもの笑みへと変わる。



「……アッハ、百合果さんはどォ~しても自分の事は言いたくないんだ?」


「ええ、個人情報の黙秘を訴えます」

 今の状況はバレ無い事が絶対条件! 

 ミホに百合果の正体が僕だってバレたら、学校中に一瞬で広まるわ!

 もしそんな事になったら……サクとか変態覆面達とか諸々に何をされるか解ったもんじゃない!! 何よりも恥い!


 ミホの探るような瞳は、呆れた瞳へと変わった。


「ま、無理矢理聞いても仕方ないですからね、別に良いですよ~……不本意ですけどねー?」

 ……った、助かったのか?

 い、いやミホにしては引き下がりが早すぎる! これも裏があると見たほうが良いのか?


「じゃー百合果さんの個人情報以外の質問とかはどぉーですか?」

 今度は開き直ったような良い笑顔を僕に向けてきた。

 やっぱ諦めきれて無いじゃないか……だが、僕自身の情報が露見しない程度だったら質問に答えても良いんじゃないか? 何よりもこれ以上僕がNOを繰り返したらミホが強硬手段に出かけない……

 ミホが何をするか解らない以上は安全策に出た方がマシだ。 ……多分。


「ええ! それぐらいなら構いませんよ?」

 ニコやかに不振な素振りなぞ見せずにミホに笑いかける。


「わ、良いんですかー? そうこなくっちゃ二人っきりになった意味ありませんもんね~?」

 僕の笑みに不振なんて感じないという具合の満面の笑みを返された。


 ……今のミホと僕は赤の他人。

 その状況下で僕自身を探らない質問のみが条件だ。

 そんな条件下なら質問もたかが知れているレベルでしかないだろう。

 

 大丈夫だ! このままバレずにやりすごしてしまえ!


「じゃー質問です!」

 ミホはいつもの笑みを浮かべながら、覗き込む様に僕を見つめる。





「へーじって、知ってますか?」

 嘲笑うかのような瞳が、寒気を思わせる迫力を出していた。




 ……え゛?

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