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その59.縛りプレイは苦手なんです。

「百合果さんに触るなコラァァ!!!」

 頼もしい掛け声と共に縁がダメ教師に向けて飛び蹴りを放とうとしているのが見えた。

 しかし渾身の飛び蹴りは簡単に外れる。

 ダメ教師は僕ごとくるっと回転して縁をあっさりとスルーしたのだ。


「ぬぇぇ!?」

 基本的に今まで百発百中だった飛び蹴りがいとも簡単に外れたのが予想外だったらしく暴力女は間抜けな声を出していた。

 そしてそのまま豪華な装飾品達に突っ込んでガッシャーン! とギャグ色の強い音を再び出していた。

 ……何だかなァ。


 それにもめげずに縁は立ち上がると今も僕を抱きしめた状態の教師にビシィ!っと指差した。


「その人を放せ変態教師!!」


「誰が変態だアホ生徒」

 特に怒る様子も無く縁の言葉をサラッと流す。


「何よ! アホっていう奴がアホなのよ!! このアホォー!」

 ……本人は真面目なんだけどなァ。

 ここは流石に突っ込んだら可哀想だな、うん。


 っていうかいい加減放して欲しい……

 勘違いも甚だしいわマジで。


「あ、あの勘違いしてるみたいですけど私はアナタの知っている人物ではありません……そろそろ放して下さい」

 恐る恐ると言った具合に言ってみる。


「……?」

 ダメ教師は少し距離を開けて、マジマジと僕の顔を見つめた。


「…………」


「…………」

 暫し僕とダメ教師が固まる。


「……おいアホ生徒ちょっと耳塞いでろ」


「嫌よ! 何でそんな事しなきゃダメなのよ!!」


「縁ちゃん! この部屋を荒らし過ぎて部屋の主のお化けが縁ちゃんを狙ってるようなの! 耳から入られないように両目と耳をしっかりと閉じて! 大丈夫になったら呼んであげるから!!」


「ぇぇぇぇ!? そそそそそうなんですか!? 速く塞がなきゃ!!」

 純粋無垢な縁は疑う事もせずに慌てて目をギュッと紡ぎ両手で耳を塞いでいた。

 ダメ教師よりも百合果という存在は、縁から偉く尊敬されているらしい。



「……馬鹿は扱い易いな」


「縁の事を悪く言うなダメ教師」

 女性らしい言い方でなく、いつも通りの素っ気無い言い方でダメ教師を睨む。


「やっぱりお前かへーじ、何姉貴のコスプレしてんだよ」

 コスプレはコスプレだけど断じて姉のコスプレではネーよ!!

 やっぱりコイツ姉貴と間違えていやがった!

 

「……状況を大体察してくれたんなら色々とスルーして欲しいんですけど」


「っつーか男に抱きついちまった……気持ちわる……」

 そう言いながらダメ教師は珍しく表情を変えてげんなりとした様子だ。

 僕の方が気持ち悪かったけどな!! このクソ教師!!


「その事に関してもスルーしてよ……後何でこの部屋にいたのか、とか突っ込まないからちょっと助けて下さいよ」

 どうせこのダメ教師の事だ。

 校長の部屋に入って何かやましいことでもしていたのだろう。


「ヤダね」

 ダメ教師は、へっ、と馬鹿にしたように軽く笑って見せた。

 ……この男が簡単に手伝ってくれるとは思って居ないけどドアの外には変態達。

 どうにかこの部屋を出るにはこの男の助けが必要だ。

 何とか手伝って貰わないと……!


「頼むよ」

 少し真剣に言った。

「……」

 その僕の声が聞こえているのか知らないがダメ教師は咥えていたタバコの煙を吐くだけ。


 やっぱりダメか?

 教師はタバコを校長室でポイ捨てするという有り得ない行動をした後、口を開いた。

「お前が何しようとしてるかは大体予想出来るけどよ、それはお前のお姫様の為だろ? だったら自分で頑張れよ。お前が決めた事だ、それぐらいの信念は通せよ」


 ダメ教師は顎で今も目と耳を塞いでいる縁を指した。

 自然と視線がそっちに行く。

 ……クソ。こんな時だけ教師面しやがって。



「アンタの言ってる事は間違いじゃないよ」

 少しだけ俯いてしまう。

  だけど勘違いだクソやろう。


 縁から再びダメ教師に向き直ると思いっきり睨み付ける。


「だけど僕の信念はそんなんじゃ無いんだよ、『どんな手を使ってでもこの子の為にやる事だ』汚れ役だろうが何だろうが知った事か。 何だって利用してやる。 自分の姿勢なんて二の次だっつーの。そんな縛りプレイ宜しくな信念なんざゴメンだっつってんだよ」 

 

 ダメ教師はニヤッと嫌な笑みを浮かべる。

「へっ言うじゃねーか貧弱男なクセによ」


 ダメ教師は新たなタバコを口に加えると、続ける。


「……だからってテメーの為に何かするかつったら別だけどな」

 このダメ教師がそれ位で心を動かすとは思っていない。

 想定内だクソ眼鏡。


「……ときに先生、さっき僕を姉貴と間違えて抱きついたって事は姉貴と上手くいっていない、もしくは最近会っていないんじゃない?」

 僕の言葉にダメ教師の目に一瞬戸惑った色が見えた。

 そこを僕は見逃さない。


「手伝ってくれるんなら姉貴との事も協力してやる、場合によっちゃ姉貴の写真だろうが何でも持って来ても良い、断るなら姉貴にはそれ相応の事を言う事になるけどね」

 ダメ教師の口からタバコが落ちた。


「て、てめェ!」

 ダメ教師が困惑しているのは中々珍しい。

 言ったろ、利用出来るものは何でも利用するって。

 姉貴でもなんでもな!!

 アンタが自分のお姫様(姉貴)を大事にしているのは良く解っているんでね!



 先程ダメ教師が浮かべた嫌な笑みよりもずっと嫌な笑みを浮かべて。

「取引だクソ野郎」

 

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