その52.無駄に熱血 無駄に馬鹿 無駄に強い 無駄にヤバイ!!
「大体何でアンタが狙ってんのよ!! 馬鹿なんだから願い事なんて無いでしょーが!!」
縁のあまりにも決めつけな発言に流石にどうよ……と突っ込みたかったが、馬鹿かどうかは置いといて年がら年中幸せそうなサクに願い事があるとは思えない。
僕自身も気になった。
こんな行事にサクが参加するとは思えなかったからだ。
もしかしたら……サクにとって大事な事があるのかもしれない。
その疑問に答えるかのように、サクは口を開いた。
「なんで気になんのかなって思ったんだよ……確かに綺麗だよ、その人は、ただそれだけじゃない気がした。そして解ったんだ……」
ぼそぼそと零す声は聞こえ辛く、顔は伏せているせいで見えない。
サクはそこでッスと顔を挙げた。
「魔法微少女!カリリンに出てくる百合果タンとそっくりなんだよぉぉぉぉぉぉ!!」
ずっこけた。
「しかも名前まで一緒とかヤバ過ぎだろ! 絶対彼女は二次元からやって来たんだよ! 俺の愛が通じたんだ!!」
……熱いシャウトだった。
「まだそんな幻想を追ってるの!? 目ー覚ましなさいよ馬鹿兄貴!」
「俺は正気だよ! どんだけ幻想だろうが俺の思いは変わらねェ! 俺の夢は終わらねェんだ! 渡してもらうぜ……その人を!!!」
「何をトチ狂ってんのよクソ馬鹿!! 春なのは頭だけにしてくれない!?」
「ウルセー! 言ってろ!! 俺の愛は誰にも止められねー!」
「この人は、アンタには指一本触らせないわよ!! 守る為の力を舐めるなァァ!!」
「テメーが守る為ならば! 俺は追う為の力だ! 追い続けた夢が、後ちょっとおもいっきり伸ばしゃー届くんだよ!! 溜まりに溜まった思い(愛)! テメーに受け切れるかァァ!?」
「どうやら何言っても無駄なようね! アンタがそこまでの思いをブツけてくるなら!! 全身全霊を持って潰す!! その思いが消えるまで粉々に潰す! 一片の塵一つ残さずに潰す!! 全力で!! アタシの全力で潰してあげるわよ! 身内の恥は身内が消す!!」
縁の大きな瞳が思いっきりサクを睨み付ける。
「あんたの幻想……」
一呼吸空けて、縁はサクに見せつけるように拳を、強く強く握りしめた。
「アタシが! ブチ壊す!!!」
…………。
呆けている僕は蚊帳の外。
そこでッハ、と我に帰る。
あ…熱!
あっつ! 暑苦し!! ウザ!
草食系男子としては、この熱さにやられそうなんですが!!
なんなんだこの二人は……
春風まで吹き飛ばすような熱すぎる言葉の応酬。
二人共熱血タイプだからこんな風になるのか!?
しかし、両方共激しい動きをしながら良くもまァ舌を噛まずに戦えるもんだ……。
そう、彼らの先ほどまでの応酬は、すざまじい蹴りや殴り合いのさなかに行われた物だったのだ。
二人とも化け物だな……。
何て半ば人ごとながら二人の激しい戦いを目で追っ……
目で追えねェェェ!!
二人の速度がどんどん上がっている!
二人の異常なまでの速度は、喧嘩とかいう甘っちょろい物では無く、最早『戦闘』という感じだ。
縁はともかくサクがここまでの動きが出来るのは予想外だ。
サクは本気出したらやれば出来る子らしい。
しかし、こんなしょうもない事に本気出されても困る。
主に僕が。
必死に目を凝らすと何とか目で追えた。
これは……? 縁が圧されてる!?
サクの拳を後ずさりしながら何とか避けている縁の表情は険しい。
いくらサクが本気を出していても縁には敵わないと思っていたのだが……
相手は史上最強の女子高生だぞ!?。
っていうか、縁が負けたら僕どうなんの!? あんなムキムキ馬鹿に連れてかれたら……ど、どうなんの!?
そこで自分の状況がまず過ぎる事に気付いた。
縁が負けることは考えていなかった分、余計に寒気が走った。
戦っている縁が一瞬、そんな風に震えている僕の方を見た。
本当にそれは一瞬。
まるで怯えている僕を安心させるかのように、彼女は大声を挙げた。
「この! 馬鹿兄貴ィィィ!!」
縁に向けて飛んできた拳を縁は紙一重で避けると、無防備になった伸びきった腕を掴んだ。
体を反転させながら掴んだ腕を両手で持ちかえる。
「あんな綺麗な女性を、怯えさせてんじゃ無いわよォォォォ!!」
声を張り上げると共に、サクの大きな体が一気に持ちあがった。
そのまま力任せに縁は宙に投げ飛ばした。
サクの巨体が高く高く宙を舞った。
一本背負い。
背負い投げで下に叩きつけるのではなく、宙に浮かせる馬鹿力は女としてほんとどうなんだ。
相変わらずの運動神経と力に物を言わせた無理矢理な技。
しかし、縁の攻撃はそれだけでは終わらなかった。
縁は軽く膝を曲げる。
次の瞬間縁の姿は僕の目前から消えた。
自分の最大限の瞬発力で縁は宙に浮いたサクを追ったのだ。
まだ浮いているサクに追いつくつと共に、勢いに合わせて縁は体を縦に回転させていた。
長い髪の毛が回転と共に舞う。
そのまま縁は回転と共に威力のついた踵落としを浮いているサクに振りおろした。
ッド! という鈍い音はサクに踵落としが突き刺さった音。
そのままサクの巨体と、威力をつけたままの全体重を掛けた踵落としがプラスプラスになり、重力に任せて大地へ落ちていく。
すざまじい速さで大地へと突き刺さると、地面を捲り上げ強烈な音を残した。
爆音と共に砂が飛び散る。
周りを揺らす程の音と振動に僕は一歩二歩と後ろに下がった。
土煙が巻き上がるも、スグにその煙は晴れていく。
芝生も土も弾き飛ばした窪んだ大地には、巨体のサクが倒れていた。
唖然としている僕の目の前に、縁は軽やかな着地をしてみせる。
顔を挙げた縁はフンッ! 鼻息を荒く、ご機嫌斜めなご様子だ。
いや縁さん、あそこまでやってまだイラついてるんすか……。
しかし縁が押されてるように見えたのは気のせいだったのか?
「ゆ、縁ちゃん大丈夫……? 圧されてるように見えたけど……」
一応聞いてみる。
縁は僕の言葉に暫し固まったが、すぐに口を開いた。
「ア、アタシが馬鹿兄貴如きに圧されるわけありませんよ! ちょっと遊んでやっただけです! アハ! アハハー!」
なにやらぎこちない笑みだが、僕の言葉は縁のプライドを酷く傷つけたらしい。
縁にとって馬鹿サクに圧されるなんてあってはなら無い事のようだ。
しかし縁も流石にやりすぎじゃないのか? 幾らサクが丈夫とは言っても……
それに今の騒音で他の奴等が来るかもしれない、すぐにココは離れた方が良いな。
……まぁ何にしても良かった。
一時はどうなる事かと思ったよ。
結局、結果は縁の圧勝で終わ……………たっ?
縁の後ろに、倒れていた筈のサクが立ち上がっていた。
更新遅れてすいませんでした。
今回は前話あるのでお見忘れなく。