その44.戦いはここから
「……亜里抄」
多分『百合果』と呼ばれた少女。
白髪の少女の方をまた、スグに向いた。
あ、あの子と知り合いなの!?
茫然としている私のスグ後ろで亜里抄ちゃんがニコニコと笑っていた。
「私の大切なお友達にナーニやってんですか?」
私の方に敵意を向けた笑みを向けた後、百合果と呼ばれた少女の方に笑顔は笑顔でも好意的な笑顔を向けていた。
「百合果さーん? 駄目ですよォ? その人は人の弱みばかり握る最低の芋女なんですから♪」
可愛らしく言っているが、『芋い』という意味が『かっこわるい』、だという古い意味である事を知っている私としては頬が引き攣る思いだ。
上手く隠した様に、それも一般人じゃ解らなさそうな言葉で私をけなすなんて……中々グロったらしい子じゃない。
その黒い笑みに立ち向かう様に私も精一杯の笑みを見せる。
「誰が芋いってー? 確かにお芋は好きだけどサー!? どこぞのブリっ娘猫被り女よりかは芋の方がマシよねぇー!?」
そう言うと、表情は笑みのままだが、亜里抄ちゃんの頬の端がヒクヒクと動いているのが窺えた。
取り敢えず一矢報わせて貰った。
「あれれー? だ・れ・が! ブリっ娘猫被りですかー? 腹黒で性悪な水歩先輩!?」
「おやおやー? 猫の被りものが破けそうよー? 簡単に剥がれる大した事無い仮面付けるんなら最初から取っとけばー? もしくは取れないように張り付けといた方がいいんじゃない? 本性よりもブリっ娘の方がマシな性格してんだしさぁ!!」
私と亜里抄ちゃんはギリギリと睨み合う。
二人の視線の間に激しい火花が飛ぶ。
ふと冷静になった様に、亜里抄ちゃんは眼を細めた。
先ほどまでの感情の籠った声の色から、冷静な声に。
「……その人はわたしの物ですよ? 残念ですけど、その人は『あげません』」
合わせるように私も声をすぼめる。
「残念、決めるのはこの子、私達じゃ無くってよ? オジョーチャン」
皮肉を込めてそう言ったのに、亜里抄ちゃんは怒った様子も無く微笑むだけ。
「お、オネーチャン……」
隣でオロオロとしている志保には悪いけど、この子と相容れる気は無い。
志保もこの子の顔を叩いているんだけど……、この子はどこまでも人を嫌いになれないらしい。
「……もう良いから」
睨み合う私達の間に割って入ったのは白髪の少女。
凛と響く声と共に私達を交互に見た。
その蒼い瞳に見られれば流石に黙ってしまう。
きっと私と同じように亜里抄ちゃんも目を逸らしたと思う。
「行くよ、亜里抄」
その声に外していた視線を戻した。
百合果と言われた少女は亜里抄ちゃんの手を取っていた。
「あ……」
零れた言葉は無意識。
離れていく少女と亜里抄ちゃん。
私はその背を茫然と見ていた。
亜里抄ちゃんが振り返り、私に意味深な笑みを向けた。
まるで『選ばれたのは私でしたね~? アハハ! ザーンネーンでーしたー?』
とか解り易い程の言葉が脳内再生される程の笑み。
……は、腹立つ!!
私の考え過ぎかもしれないけどふっつうに腹立つ!!
振り向いていた亜里抄ちゃんは。
私が思ったのと同時にンベッと私に向けて舌を出して見せていた。
いや、考え過ぎじゃないだろ絶対! あの子ホンットいつか泣かす!!
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亜里抄の手を引っ張り、ミホ達が見えない所まで行くと手を離して振り返った。
「そんな風に見られるとキュンキュンするんですけど♪
亜里抄のテンションは高く、幻滅している自分としては疲れるだけなんだけど……。
「だってー? へーじさん超綺麗なんですもン♪」
亜里抄の言葉と共に、僕はズーンッと軽く項垂れる。
……コンバンワ皆さん、僕です。へーじです。
「誰に挨拶してるんですかー?」
「五月蝿いよ心勝手に読まないでよ、爆弾発言だよメタ発言だよ。だから無視して、気にしないでよ。」
良く解っていない様子で首を傾げている亜里抄に僕は大きくため息を零す。
蒼い瞳はカラーコンタクト。白い髪の毛はウイッグと呼ばれる物。
何故こんな格好をしているかというと、少し前に遡る。
昨日の夜、会長に申し出るのが一番だと思った僕は何とか会長と話せる体制を作りたかった。
それに関して、相談出来る相手、基良かったら会長と話せる人間。
前も言ったけど赤の他人に頼むわけも行かないし、ましてや僕の知人は全員会長の目の敵にされている。
しかし、僕が最近出会った人間で唯一可能性があるのが居た。
それが亜里抄ちゃんだ。
亜里抄ちゃんは心も読めるし最近入った一年生。
悠馬のような目立つ行動をしていない限りは会長も知らない筈だ。
……何か条件を突き付けられそうだったけど、僕は亜里抄ちゃんに電話した。
内容を簡潔に言うと以下の通りだ。
「亜里抄ちゃん、会長と交渉してくれ! 頼む!!」
『良いですよー?』
良いんだ!? 結構あっけからかんと了承されてしまった。
『でも条件がありまーす!』
ほら来た……絶対条件出すと思ったよ。
この子のそういう所は予想していた。
多少の苦しい条件は飲むつもりだ、覚悟はしている。
少しくらい金のかかる物程度だったら可愛いもんなんだけど……不安だ。
『わたしの事を次から呼び捨てにしてくれるって言うなら良いですよー?」
「あ、あれ? その程度?」
『?、はいそうですよぉー♪』
以外に簡単な条件だった。
名前を呼ぶっていうのはそんなに大事な事なんだろうか?
むぅ、それとも後から他に条件出すつもりか?
……まぁ良いや、それぐらいで済んだんなら儲けモンって考えよう。
『でもへーじさんと一緒じゃ無いとイヤです♪』
「……いや、だから僕は顔バレてるから」
だから君に頼んでんだけど……解ってんのかな。
それと君の心を読む力。
『変装すればダイジョーブです!」
電話越しにガッツポーズしてんのが目に浮かぶわ。
この子は無駄に元気だな。
「変装って……そんな上手く行くかなァ?」
『わたしー、変装のプロなんですよォー? まっかしてください!!』
という事でまかした結果がコレだよ! まさか女装とは思わなかったよ!
それで現在に至るわけだ。
驚くべき程に別人になったけど、確かに凄い変装だけど!
何か納得いかないよホント!!
「えー? だってすっごい似合ってますよー!」
そんな風にキラキラした目で言われても……。
「絶対に似合うと思ったんですよォー♪」
どっかで聞いた事のある言葉だなオイ。
しかしさっきのミホ達に見つかったのは焦った。
バレ無くて良かったけど……ていうか見られただけでもショックだわ。
まァさっきも縁に見られてショックで頭ガンガンやってたけど。(変態と馬鹿はどうでもいい)
この格好で名前なんて言えるわけもないし。
それにしても……。
「……百合果ってなに」
名前なんて言えるわけ無い中、助かったには助かったけど
亜里抄は僕の言葉に二ヒッと笑って見せる。
「アハっ♪ 私の好きなアニメでカリリーってのがあるんですけどー! それに出てくるキャラクターに白髪で蒼い瞳の人がいるんですよー?」
ってこの格好コスプレかよ!
どうりでウィッグとかカラーコンタクトとかヘリウムガス(声が高くなるガス)とか制服とか何でもう一枚あんのかなーとか思ったよ!
亜里抄が楽しそうにクスクスと笑っている。
「百合果さんの心の中ってほんとーに面白いですねー♪」
……勝手に心読むな!
っていうか僕の名前百合果で確定!?
僕は男だった時と同じようにいつものため息を零した。
こんな格好だけど……女装している僕と、亜里抄の二人で頑張って行きたいと思う。
会長は強敵だけど。
縁の為にもね。
彼女について書こうと思いましたが時間が無いのでまた次で。。。
次頑張って更新します!
ちなみに後書きに変な事書いてる時は基本的に時間があるか暇つぶしに書きこんでるだけです自己満足ですサーセンW