その42.コバルトブルーの瞳の少女
朝の学校への道。
校門が既に見える位置に今アタシは居た。
晴れやかな空の下、アタシの前を馬鹿兄貴とアズキさんが歩いていた。
何故大嫌いな馬鹿兄貴と、変態な先輩と一緒に学校に行っている様な形になっているかは
昨日の事が気になって、へーじに早く会おうとアタシは朝一に家を出た。
しかし。
別々で登校している馬鹿兄貴と途中で何故か鉢合せ。
暫し睨み合うも考えはアタシと同じらしく、昨日様子が変だったへーじに早く会おうとしていたらしい。
馬鹿兄貴と同じ行動をしている自分に何やらイライラする。
これが俗に言う同族嫌悪……。
そして何故か風紀でも注意視されている超変態なアズキさんも一緒に居た様で。
そして学校内の二大変態が前を歩きアタシは後ろから付いて行っている現在に至る。
「空から女の子降ってこないかな……」
アタシの目の前で変態が何か言いだした。
変態である事を誇りに思っているアズキさんは空を見上げて勝手にニヤけている。
噂には聞いていたけれど……アズキさんの変態っぷりはドン引き出来る。
そんな変態の突然な発言に意を返す事も無く。
アズキさんに釣られて隣に居る馬鹿兄貴が空を見上げた。
馬鹿である事を自覚していない馬鹿兄貴に合わせてアタシも空を見上げた。
当然、空から女の子が降ってくるなんて事がある筈も無く、朝から素晴らしい晴天を崇めれるのは良い事。
兄貴は解っているのか解っていないのか首を傾げる。
「朝っぱらから何言ってんだお前? 女が降ってくるわきゃねーだろ。 アレか?『親方! 空から女の子が!』 という名セリフが言いたいのか、止めとけお前じゃ飛行石は扱えない……」
肩に手を置くと、憐れんだ感じの目で兄貴がアズキさんを見た。
「……」
「……」
無言でそれ以上に憐れな目でアタシとアズキさんが兄貴を見ていたのは秘密だ。
「サク……お前はホントに馬鹿だな! あんな途中からモッサモサなズボン履く女の子に萌えられるかァ!」
アタシの視線はアズキさんに向き、憐れみよりも寧ろ同情の念の方が強くなってきた気がするのは気のせいではないだろう。
「あ!? 燃えるわきゃねーだろ! なー! 縁!!」
「ウッサイ! 知り合いだと思われるじゃない! 話し掛けんな死ね!!」
話しを振られたので取り敢えず思ったことをそのまま口にしてみる。
「ぇぇ!? 知り合いとかそれ以前に俺ら兄弟じゃ……」
何かギャーギャーと言っている馬鹿兄貴を無視してため息を零す。
朝っぱらから誰が解るか解らない様なジ●リネタを出されても突っ込み役がいなければ話はカオスに進んでいくだけらしい。
そう、へーじがいない。
なーんで朝っぱらから変態と馬鹿に会わにゃならんのよ。
まさか学校に行く道中でダブル変人に合うとは思っていなかったわけで。
しかもいつも居るへーじが居ないのならこの二人に価値は無いわよ……。
何て心の中で少しブラックな事を考えてみる。
そんな風にため息を零しつつ自然に視線は下を向いてしまう。
へーじ……大丈夫かな……。
その時、ドン! と、思いの他思いっきりブツかった。
「ちょっと! いきなり止まんじゃ無いわよデカブツ!」
ぶつけた鼻を抑えながらちょっと涙目になりつつ吐き捨てるように言った。
前を向いていなかったアタシが悪いんだけれど……ぶつかった何かが間違いなく無駄にデカイ馬鹿兄貴。
そりゃ文句も言いたくなる。
しかしいつもの馬鹿兄貴の言い返しは無く、進む事も無く立ち止まったまま。
不思議に思い兄貴の顔を覗き込んでみる。
兄貴の表情は固まっていた。
只一点を見つめ、食い入るように何かを見ていた。
隣に居るアズキさんも全く同じ表情で目を見開いていた。
先ほどまで騒いでいた二人が一瞬で黙る程の何か。
二人が向く方に、アタシは視線を向けた。
視線の先には。
一人の少女。
一人の少女が前を通っていった。
アタシは息を飲んだ。
無意識に惹きつけられる少女に固まったのはアタシ達だけじゃなかった。
その場の、全ての生徒達が黙った。
騒がしいハズの朝の登下校。
しかし、男も女も、全員がその子を見ていた。
たった一人の少女に。
晴天の空からその子にのみスポットライトが当たったかのように目が釘付けになる。
その少女の長い髪の毛は雪のように白く、春風に当てられて柔らかく揺れる。
青いコバルトブルーの瞳は自分が注目を浴びているのを解っていないのか視線は前のみしか見ていない。
スラッとしたスタイルに綺麗な顔立ち。
こんな完璧な少女がアタシの学校にいただろうか、と模索するも覚えが無い
こんな綺麗な人を今まで見逃していたとは思えない。
じゃあ……転校生?
いや、もっとあり得ない。
そんな大きな行事があれば風紀委員のアタシが知らないはずが無い。
必死に自分の中からこの少女のことを検索していた。
しかし、幾ら脳内を探してもこの子に関する検索件数は0。
そんな風にしている内に少女が通り過ぎようとしていた。
アタシ達の前を通り過ぎる瞬間、少女の前しか見ていなかったコバルトブルーの瞳がこちらを向いた。
その瞬間、私の頭の中は真っ白になった。
顔が熱い。
すれ違う視線がアタシと絡み合う。
女のアタシが照れるというのもオカシイけど、この人に見られた瞬間。
何も考えられなくなった。
すぐに少女の瞳は前を向いたけど、アタシは動くことも、頭の機能を動かす事も出来なかった。
少女が過ぎ去り、校舎に入って行った後、私を含む登下校中の生徒達は自分でも良く解らない重圧に安堵するように胸を撫で下ろした。
「い……今、目が合ったの、俺だよな!?」
興奮したようにそう言い出したのはアズキさん。
「ち……ちげーよ! 俺だよ!!」
すぐに反論し出したのはアズキさんの隣にいた兄貴。
口火を切ったアズキと兄貴を中心に他の生徒達も次々に動き出し、騒がしい何時もの朝へと戻って行った。
ただいつもと違うのが、誰もがあの見知らぬ少女についての事を口にしていた事。
まだ惚けてるアタシの方を変人の二人が目を血走っている状態で同時に振り向いた。
「「なぁ! 今俺の方を見たんだよな!!」」
アタシはそこでハッ、と我に帰った。
「え……あ……さ、さぁ?」
そう言ってアタシは慌てて誤魔化すように零した。
今の二人に、言う言葉では無いから心の中で呟く。
あの少女は間違いなく兄貴とアズキさんを飛び越えてアタシを見た。
アタシを見た瞳に何か思いがあったかは解らないけど。
何か意味があった気がした。
何も感情を込めないような瞳。
誰かに……似てる気がした。
もうすぐモバゲーにも進出する予定ですw
友人がモバゲー小説でしか見ないから見れないとかメンドクサイ事を言うんで……(メンドクサ…)