その30.最初の印象が悪いからって、悪い奴と決め込むもんじゃ無いらしい
悠馬は僕に気付く様子は無い。
「……なんだ朝倉先輩か」
……わー気付いてたよ。
「やー久しぶり」
僕も取り敢えず挨拶を返す。
悠馬は眼を細め、少し苛立った表情を見せるもそこはスルー。
「今はアンタに構っている暇はないんスよ」
「安心してよ、僕も構られたくないから」
敵対するような言い方に反射的に僕も敵対した言い方で返してしまう。
悠馬は鋭い視線を僕に向けた。
だが。すぐに視線を外した。
空いているベッドに担いでいた少年をゆっくりと降ろしていた。
「朝倉先輩は俺の中でブッ殺したい人間ぶっちぎりトップだけどよ……今はヤル気はないんすよ」
え゛! 僕って、そんなに嫌われてたの!?
普通にショックを受けるガラスマイハート……。
「それに、そのアンタを更にぶっちぎるぐらいにムカツクのが二人程いるんでね、今回は見逃しますよ」
……?
そりゃまー助かるけど、僕以上にムカツク奴?
ヤクザの息子をここまで言わせるなんて、どんな命知らずだ?
まァ僕も人の事は言えないけどさ。
視線を悠馬からベッドに寝かせられた少年に向けた。
……殴られた後が目立つな。
喧嘩か?
「何、君がしたの? ソレ」
「なんで俺が仲間を殴んなきゃなんねーんスか、これは風紀と生徒会の奴にやられたんスよ」
ここ最近、風紀委員が忙しそうにしているのは良く目にした。
生徒会も手が回らない風紀委員の手伝いをしているらしい。
いまベッドで寝てる少年は風紀を乱し、生徒会や風紀の奴に逆らったという事か。
風紀を乱す方が悪いし、あの縁が居る生徒会に逆らおうとするのだからなお馬鹿だとしか思えないけど。
しかし、そんな馬鹿を悠馬は仲間と言い、怪我をした仲間をここまで運んだ。
……っはーん。
「何だ君、案外良い奴じゃん」
僕の言葉に悠馬は少し妙な顔をした。
その表情は苛立ち等の表情では無く、まるで本当にどういう表情をすればいいのか解らない、と言った具合だ。
「良い奴かどうかは、俺が決める事じゃない、朝倉先輩がそう思うなら、それでいいんじゃ無いですか」
妙に素っ気ない返しだ。
まるで言葉に迷った結果、それしか言えないような。
……最初、この子は縁や薫君と同じ部類だと思っていた。
自分の信念のみを信じる部類。
心のままに生きる縁や、自分のみを信じる生徒会長の薫君。
この子は、違うかもしれない。
悠馬に向けての考え方が少し変わった気がした。
悠馬は馬鹿二人に視線を向けて、少しだけ、ほんの少しだけ微笑んで見せた。
「朝倉先輩も大変そうっスね」
察してくれるか、この馬鹿二人の面倒を見るのがどんだけ大変だったかを。
僕も少しだけ微笑んで見せる。
「まーね」
……そういえば、何でこの子は僕の名字知ってんだろ?
今はあの時みたいに殺気立ってないし、今なら結構普通に聞けるかな?
ビビッてますともさ。
だってこの子刀離さないんだもん! そりゃ誰だって怖いわ!!
だから聞くなら今かなー。
「あのさ」
僕がそう切り出した時、突然部屋の外から大きな音がした。
バァン、という何かを思いっきりぶつけた様な音。
僕と悠馬は同時に立ち上がり、同時に廊下へ出るドアに向かった。
何が起こったのかを確認したいと思った僕に対し。
悠馬の表情は明らかに何が起こったのかが解ったような表情をしていた。
憎々しげな表情で怒りを露わにしていた。
握っている刀を今にも抜きそうで、殺気を曝け出していた。
このドアの先にはいったい何があるっていうんだ?
……取り敢えず不幸な事があるんだろうな。