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その26.

 バァン!


 大きな音と共にサンドバックが揺れる。

 アタシの渾身の一撃を受けたからだ。

 遠心力と共に、大きなサンドバッグがアタシに向かって帰ってくる。

 腰を捻り右手を強く握った。

 迎え撃つ為の構えだ。

 ブツかる瞬間に腰の捻りで反動を加えた一撃を放つ。


 再び大きな音と共にサンドバッグは浮いた。


 アタシはそこでサンドバッグから少し離れた。

 グワングワンと揺れるサンドバックを無視して右手の甲を見ていた。

 手に巻いていたバンテージが破れたのだ。

 拳を守る為に巻いた包帯の様な物、私の拳の威力に耐えられずにバンテージが先に破れる事がある。

 スポーツ用のウェアが汗でズブ濡れになっている事に気づき、長袖のウェアだけ脱いだ。

 ティーシャツに染みついている汗が気持ち悪い……。


 膝に手を付き荒い呼吸を整えようとする。

 

 ここはアタシの家だ。

 ゴロゴロと並ぶ大量のスポーツ用具は何処かのスポーツセンターのようだけど。

 ここはアタシの家の一室に過ぎない。

 広いその部屋には、アタシしか居ない。


 定期的に体を動かしているアタシだけど、今日はいつもよりも調子が悪いな……。




「……水歩さん、大丈夫かな」

 誰もいない部屋に私は言葉を零していた。

 へーじの電話が気になっていた。

 慌てた様子のへーじは勝手に電話を切った、アタシの心配も知らずに。


 …………気にならないわけが無い。


 いつもよりも身が入らないのは多分そのせいだ。



「よう、相変わらず化け物みてーな威力だなオイ」

 その声の先に顔を上げた。

 そこには、馬鹿兄貴が居た。



「……何のようよ」

 アタシの素っ気ない様子に、兄貴は苛立つように頭をバリバリと掻いていた。


「……は? お前な……」

 アタシの言葉に兄貴は呆れたような表情を見せる。

 その表情の意図は読めない。


「今何時だと思ってんだよ! バンバンバンバンバンバンバンバン!! てめーのサンドバックを叩く音で寝れねーんだよ!!」

 ……そう言えば兄貴の部屋はここからスグそこだっけ。


「ウッサイ、じゃぁ寝るなバーカ」

 バンテージを剥がしながらアタシは適当な言葉を返した。

 ……今の時間は深夜の2時。

 確かにこんな時間にまで汗を流しているアタシは常軌を逸している。

 しかし、それでも体を動かさなければ気が済まなかった。


 だけど幾ら体を動かしてもへーじの事が気になって身に入らないという矛盾。


「……ミナミナの事が気になんのか?」

 兄貴は水歩さんの事を『ミナミナ』と呼ぶ。

 何でそんな愛称なのかは知らないけど、兄貴が言うとやっぱ似合わない気がする……。


「……」

 アタシは何も言わない。

 図星だったからだ。

 そんなアタシの様子に兄貴はため息をついて見せる。


「心配すんな、へーじが何とかしてくれるって」


 ……そうだ、へーじなら何とかする。

 へーじは何だかんだで頼りになる人間だと思う。

 それは知ってるんだけど……。


「ねェ兄貴」


「ンだよ」

 めんどくさそうな表情をアタシに向ける兄貴に少し苛立ちを覚える。

 でもここは堪える。


「……へーじはさ、もしも……アタシに彼氏とか、そんなの出来たら、何か思ってくれるかな」

 アタシは馬鹿兄貴に何を言ってるんだろう、

 でも誰かに聞きたかった。

 『この事』を知っているのは兄貴だけだから、兄貴に聞くしかない。


「……へーじは別にテメーの彼氏じゃねーだろ」

 兄貴にしては解り易く、そして厳しい言葉。


「うん、そうよね……解ってる、解ってるよ……」

 その言葉にアタシは反論せずに受け止める。

 何故か胸が苦しくなる。



 アタシの家はハッキリ言って金持ちだ。

 こんな大きなスポーツジムが家にあるくらいだから大きい家だと思う。


 アタシはまだ高校2年生なんだけど。




 お見合いの話しが……来ている。




 親のその話しを、出来るだけ聞かない様にしてきたんだけど。

 始業式の朝、見知らぬ男達に追われた……。

 その男たちが何者かは家に帰ってきてから解った。

 お見合い相手の男が、アタシの事を調べさせているという話しを、家のお手伝いさんが教えてくれた。



 ……。

 へーじは水歩さんの事を話した瞬間スグに電話を切った。

 きっと水歩さんを探しに行ったんだと思う。

 慌てて家を出ていくへーじが目に浮かぶ。



 もしも……アタシがお見合いがイヤで逃げ出したりしたら。

 

 ……アタシの時も追いかけてくれるかな。


 何があっても。

 探しに来てくれるかな。


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