その25.子供扱いされるのって何かヤダ。
「落ち着いた?」
「……うん」
鼻をすすりながら、へーじの優しい声に私は小さく答えた。
私はあの後、泣きっぱなしだった。
今は大丈夫だけど、オロオロとしているへーじを前にして10分くらいずっと泣いていたと思う。
多分……もう涙は出無いと思う。
多分だけど……。
私の前には今、温かいレモンティーが入れられていた。
へーじが私に入れてくれた物だ。
何か子供扱いされてるような気がするけど……。
ボーっとしながらその温かい湯気を見つめていた。
優しそうな短い笑い声に顔を挙げた。
「しっかし、ミホがそんな事気にしてたなんてね~?」
そう言って、へーじは少し悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「わ……私にとっては大変な事だったんだもん……」
拗ねたような私の言い方に、へーじは小さく笑みを浮かべながら、「はいはい」と適当に返されてしまう。
私はそんなへーじにムッとして、視線をティーカップに落とした。
子供みたいに扱われるのは、少しヤだ。
「まー、でも、いつも気張ってるよりかは、時々爆発させた方がストレスも溜まらなくていいんじゃない?」
へーじの中では私の中の鬱憤が爆発したのだと思っているらしい……現況はへーじ何だけド……。
まぁ……いいや。
私は両手で熱々のティーカップを慎重に持つと口に運ぶ。
……熱い。
少しだけ口に含んでスグに置いた。
そんな私の動作を、へーじは黙って見つめていた。
「な……何」
「べっつに?」
またその悪戯っぽい笑みだ。
……止めて欲しいんだけど。
あんだけワンワン泣いたら、子供扱いされるのは仕方無いけど。
いつも私が子供扱いする側なんだけどな……。
まるで日頃の仕返しみたい。
「ミホ、今の君は僕しか知らないの? 志保ちゃんも?」
その言葉の意味はスグに解る。
いつもの明るい自分じゃない暗い自分。
突然の言葉に私は困ってしまう。
しかし、ここまでぶっちゃけてしまったのでは後には引けない。
「う、うん、志保の前じゃ意地張っちゃうし……」
「ふーん? そっか」
少し考えた素振りをして見せた後に、へーじは再び口を開く。
「……皆の前じゃ明るくふるまっても良いけど、僕と一緒の時は無理に明るくしなくても良いよ」
……へ?
困惑している私を無視してへーじは話しを進める。
「そうすりゃストレスも溜まらないんじゃない?」
な……なんかソレ、すっごく恥ずかしいんだけど……。
へーじの前じゃ本当の自分で居ていい、って事でしょ?
誰にも弱みを見せないけど、へーじの前でだけは、素の自分でいても良い。
「ええっと……それってさ。 へーじと二人っきりの時は甘えても……良いの?」
「は!? 甘える!?」
へーじが焦った声を出したのに、自分がとんでもない事を言ったのに気付いた。
わ、私ってば何言ってんのよ!
「や! え!? ち、違うの! そういう意味じゃなくて……えと、や、そういう意味だけど……」
慌てて弁解するも声が小さくなって何も言えなくなってしまう。
「ま、まァ……別にかまわないけど……」
「へ!? 良いの!?」
予想外のへーじの言葉に私はつい大声を出してしまう。
へーじは若干顔を赤らめつつもまた笑う。
「言いだしたのは僕だし、確かにミホって誰にも甘えるイメージ無いもんなァ……」
その言葉にまた私はムッとする。
何よその言い方!
私だって甘えようと思えば甘えれるわよ!
半ばいこじになりつつも私は立ち上がった。
へーじは多少驚いた表情になるも動こうとはしなかった。
私は机を周り込むと、へーじの隣にストンと座った。
へーじとの距離は殆ど無い。
「甘えるわよ! 良いんだね!? 後で言っても止めないわよ!」
何故か強気に出ようとしてしまう私……でも心の中はドキドキ。
「や、何で強気なのさ」
へーじに呆れた感じに突っ込みを入れられてしまう。
「うっさい……」
私はそれしか言えなくて、へーじの肩にポンと頭を置いた。
甘えさせて頂くことにした。
もたれたまま。
時間が過ぎて行く。
私も……へーじも何も喋らない。
表情を見ようとチラッと視線を上げてみた。
へーじはソッポを向いていて表情を読みとることは出来なかった。
だけど。
耳が真っ赤になっているのは隠せてないみたい。
私はクスッと小さく笑う。
これで一矢報いたんじゃないかな。
私はそっと目を閉じた。
今日だけは。
今日一日だけは甘えさせてもらうおう。
今日だけは私だけのへーじだよ。
へーじ。
ありがとう……。
片手でも結構タイピングって出来るんですね……