その24.昔に比べたら泣かなくなったと思ってたんだけどね。 所詮は私は子供らしい。 誰よりも……
私達は再び机を挟んで向き直った。
痛そうに頬を摩るへーじには申し訳ないと思ってる。
何で私はへーじを呼びとめたんだろう?
反射的にだった。
だけど自分が必死だったのは解る。
自分では解っていない程に、無意識に手を出していたらしい。
私は、何がしたいんだろう?
いつまでも喋らない私に痺れを切らしたのか、へーじが口を開いた。
「ねぇ、ミホ……君は一体どうしたんだ? いつもの君らしくないよ」
心配そうに私を見つめるへーじの瞳。
純粋に私なんかを心配してくれるへーじ。
その瞳を見て、私は何がしたいのかが……解った。
ああ、私はへーじに伝えたいんだ。
誰にも言ったことが無い『本当』を。
嘘つきな私の、仮面の裏の素顔を。
嫌われても良い、もう。『本当』の私をへーじは見てしまったんだから。
仮面を被る事が出来ない。
もう後戻りはできないんだ。
もう、逃げられないんだ。
「ねェ、『私らしい』って何?」
私は小さく零した。
私の言葉にへーじは少し眉を寄せる。
「ミホらしいって……元気で明るくていつも笑ってる感じ?」
間髪入れずに私はもう一度質問。
「じゃぁさ、今の私はどう見えるの?」
「今のミホ……? んー何か暗いっていうか、しおらしいっていうか……いつものミホとは違うかな?」
そっか。
やっぱそう見えるんだ。
へーじの言葉に小さく苦笑する。
「へーじ、私はね。嘘つきなんだ、皆にも自分自身にさえも嘘をつくような大ウソ付き……」
そこで一度言葉を切った。
へーじは。黙って聞いていた。
ううん、聞いてくれていた。
私は、ゆっくりと語り出した。
誰にも話したことが無かった事。
沢山の事を私は知っている、だけど私自信の事を知っている人はきっといない。
だって、誰にも喋ったこと無いんだもん。
初めて話す、自分自身の事。
覚束ない感じになってしまうけど、上手く喋れるか解らないけど。
私の話しを聞いて。
「私には志保っていう妹が居るでしょ?」
まず最初の口頭はその言葉から始まった。
そこから、私はゆっくりと、ゆっくりと語りだす。
あの子は、志保はとてもか弱くて、昔から心も体もガラスの様な子だった。
物心ついた頃から私は志保を守る為に、強い人間でいようとしていた。
シスコンって思われるかな? でもね。 私にとって宝物なの。
それが今にまで至って、皆、私がそういう人間だと、強い人間だと思ってる。
本当はね、本当はね? へーじ。
私はとても弱いんだよ。
怖い男の人が居れば震えるし、先生に怒られるのも怖いし、親の言葉にだってビクビクするような。
普通の女の子なんだよ。
もう、後戻りはできないけどね。
普通の女の子に戻るには、ちょっとやりすぎちゃったかな……ハハ……。
ちょっとね……今日は……もう疲れちゃったんだ。
強い自分を演じることに。
誰にもバレた事の無い事だった。
私は口を噤んだ。
本当の自分をへーじに見せた。
馬鹿馬鹿しいと言うだろうか。
変な奴と思われただろうか。
私の本当の姿。
こんなに好きほうだいしてたのに。
本当は弱い人間だったなんて、知ったらへーじは軽蔑するかな……。
私はギュッと目を瞑った。
もう逃げないと思ったのに、怖くて怖くて仕方が無くて。
何て言われるだろう……
沈黙が長く感じた。
早く何か言って欲しかった。
罵倒でも批判でも良いから。
しかし。
不満そうにしている私を一蹴するかのように。
へーじの言葉は以外だった。
「…………へー」
その間抜けな声に私は瞑っていた眼をつい開けてしまった。
目の前に居たへーじの表情は、呆れたような、苦笑したような表情だった。
「ナーニを深刻に言うかと思えば、そんな事かよ」
真面目に聞いて損した、という様にへーじはため息を零す。
「そ、そんな事って……」
私が必死で打ち明けたのに、何よ……その態度。
へーじは優しく微笑んだ。
その表情にドキッとしてしまい、私は何も言えなくなる。
「……あのさ。確かにミホは明るくて元気な子だけどね、別に女の子らしくしちゃいけないなんて事無いんだよ」
呆れたような言い方。
だけど、その言葉に悪意は感じられない。
……え?
私は心の中で小さな声を挙げた。
予想外の、その言葉に。
驚くように。
「まー、いつもの明るいミホも好きだけど、こっちのミホも可愛いと思うよ僕は」
そう言って、へーじはウンウンと頷ずいている。
ななな……何をいきなり……。
私の顔は一気に赤くなる。
今の暗い私をまさか……か、可愛いなんて言われるなんて……。
「ミホは確かに凄いし、明るい子だけど、凄いままでいつづける必要なんて無いんだよ。 そんなのいつか疲れるに決まってるじゃん。 僕はミホが暗くなろうが、君の事を軽蔑する様な事何て思わないよ」
へーじはそう言った後、最後に少し笑いながら付け足す。
「確かに最初は驚いたけどね」
……へーじは、やっぱりカッコイイよ。
普通ね。 そんな簡単に言えないよ?
だけどへーじは言える。
へーじだから、そんな事、何て言える。
どこまでも。
へーじは……。
私は安心してしまっていた。
嫌われると思ってたのに。
明るい自分でいなくちゃいけないと思ってた私は。
へーじのその言葉が、何よりも救いになっていた。
私は力が抜けた様に。
また、ポロポロと涙が零れてきていた。
「ぃ、ぃぃ!? ミ、ミホ!?」
突然涙を流し出した私にへーじは焦ったような声を挙げていた。
良かった……良かった……
嫌われるのを覚悟してたのに。
覚悟していても、へーじの言葉がとてもとても怖かった。
私は、泣き虫だ……。
月が照る帰り道、へーじに拒絶されたと思って泣きながら走った。
駅前でへーじに嫌われたと思ってまた泣いた。
シャワーで、へーじに呆れられたと思ってまたまた泣いた。
そして。
へーじに嫌われなくて、良かったと、私はまた泣いた。
「ひっく……ひぐ……」
嗚咽が何度も零れる。
何処までも、私はへーじが好きで好きで。
諦められない、やっぱり諦められない。
子供の様に泣く私と、オロオロとしているへーじの二人っきり。
きっとそれは、とても奇妙な絵柄だったと思う。
ぇー、溜めてた分が無くなりました。
そして今回の回、累計13回消しです。
結局最後の部分以外納得出来ない結果になりましたが。
何故ミホは今の暗い自分を隠していたかったのか、何故それをへーじに伝えたのか、色々な物を詰め込み過ぎた結果のミスだと思っています。
ミホの心が伝われば幸いです。
自分の作家としての実力の底辺ぶりに半ば泣きそうになりました(T_T)。
まだまだ勉強しないと行けないようです。
感想返信が遅れていますが、出来るだけ早く返させて頂きます。
感想が力になっています、言葉にならない程の感謝で胸がいっぱいでございます!
どうぞこの小説をこれからも宜しくお願いします!
どうでもいいことですが右手の指折りました(泣
い、痛い……
片手でタイプするのは結構骨が折れます(キリッ(文字通り)
今私上手い事言ったんじゃ無いですか!?(どや顔)