その19.残酷で幸福で最悪で最高で幸せで不幸で。
寒い……流石に春になったって言っても少し前までは冬だったわけだし。
何でウチの学校は新学期になってスグに夏服の指定になるんだろ。
学校の無駄な規律の厳しさに憤慨しながらも自らを温めようと体を丸める。
既に電気を消されている暗い駅の前で私は座り込んでいた。
吐く息は白く、少しでも体を暖め様と膝を抱いて体を縮こまらせる、所謂三角座りと言った形。
もたれているコンクリートの壁は最初は凄く冷たかったけど、今はそうでも無い。
自分の体温がコンクリートを暖める程に時間が経っていたらしい。
昼間は賑やかな駅前でも、夜は暗く不気味に思う程の静けさ。
私以外の人間はいない。
携帯の電源は入っていない。
充電が切れていなければ怒られる覚悟で親に電話も出来た。
所持金は100円硬貨が数枚、電車に乗れる分だけしか持って来ていない。
今日はとことん腑抜けていたらしい……。
始業式だからこんな事を予想していなかったのが一つ。
そして、へーじに会えるって勝手にはしゃいでて……。
色ボケにしてもボケすぎだった……。
馬鹿だなァ……私……。
少し前まで途方に暮れていた。
いつもの私なら終電の事を忘れるわけが無い。
何だか亜里沙ちゃんと喋ったときから私は変だ……。
また、涙が込み上げてきた。
散々泣いたのに、まだ泣きたりないらしい。
どうせ誰もいないんだし……思う存分泣くのも良いかもしれない。
「ぐすっ……ひっく……うぇぇ……」
嗚咽が零れる。
自分の服の裾をぎゅっと握り締める。
三角座りのまま、顔を埋め、泣き声を挙げた。
ポロポロと零れる涙は止まらない。
冷たいコンクリートの地面に、小さな滴が落ちていく。
「へーじ……へーじぃ……」
なんでこんなに好きなんだろう。
なんで諦められないんだろう。
初恋は報われないと良く言うけれど。
ちょっとだけでも報われても良いじゃない。
もう関わらない方が良いのかな。
自分が傷つくだけなんだったらもう近付かなければいいのでは無いか。
そんな風に考えても、やっぱりへーじといたいらしい。
へーじといる空間が好きだったから。
甘いお菓子ばっか食べて、虫歯になったみたい……。
子供みたいな発想がッパと浮かんで苦笑する。
虫歯になってもお菓子を食べようとする私は、子供のようだ。
私は大人ぶった子供でしかない。
後悔しながらも甘いお菓子を口に運んで、痛みに泣きながら、嬉しそうに笑ってるんだろう。
傍から見れば只の『馬鹿』でしかない。
亜里沙ちゃんは、そんな私を見透かしていたんだと思う。
馬鹿だと解ってても止められない。
そんな時に、妙な音が聞こえた。
ペタン、ペタン。
間抜けな足音に顔を挙げた。
私の目の前に、へーじがいた。
ああ。
こういう時に限って。
君は来るんだー……。
頼んでもいないのにね。
荒い息遣と、赤くなった顔で、急いで走って来たんだと解った。
間抜けな足音の正体はへーじが履いていた物がスリッパだったから。
その間の抜けた姿は、きっと慌てていたんだと思う。
ゼーゼーと荒い息遣いをしながらも、へーじは喋ろうとしていた。
私に向けて口をパクパクと開いていたけれど諦めたように膝に手をついた。
何か言うよりも、取りあえず息を整える事にしたらしい。
確かへーじの家は駅から決して近いわけじゃ無い筈。
なのにスリッパで走ってきたのかな。
暫く待っていると、息が整ってきたらしい。
だけど、それでも声を出すのはまだ苦しかったみたいで。
へーじの口から洩れた言葉は掠れていた。
「バ……バカか君は……」
呆れた表情と疲れた表情と怒った表情と……色々な物が入り混じっていた。
へーじの、そんな姿が可愛くて、愛おしくて。
何故へーじがココに居るのか。
何故へーじが『来てくれた』のか。
ついつい私は期待してしまう。
そんな自分とはまた別に、後ろめたく思う自分も居る。
さっきまで諦めてたじゃない。
”はっきり”したって思ったじゃない。
止まらない。
止められない。
虫歯になるって、きっと後悔するって解ってるのにアナタは甘いお菓子ばかり。
どれだけ私を傷つければい気が済むのよ。
来てくれた喜びと、また自分が傷つくかもしれない悲しみと苛立ちと。
二つの私がそこに居た。
ねェ。
残酷で幸福で最悪で最高で幸せで不幸で。
『良い事と悪い事』が同時に来る気持ちが、アナタに解る?
解るわけないよね。
ありがとう。
へーじ……。
へーじは心で思った通りにしか動きません。
縁は信念通りに動こうとします。
志保ちゃんは心で思う事は多くても自分から動く事は少ないと思います。
ミホは。。。常に比喩や深読みで表現しようとします。
見る人には何を言っているのか解らないのでは? という心配もあります。
ミホの表現には基本的に意味があります。
深読みして頂けると幸いです。
私も伝わり易く、そして深読み出来る表現を研究中です。
っていうかミホの描写が私としても書くの一番苦手です(汗
ミホの時が一番直すの多いんですよねー……
サクは何も考えずに行動するので一番書きやすいです。
っていうか馬k(ry




