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その13.情報屋VSサイコメトラー   戦いというにはあまりにも一方的で

 廊下に突っ伏しながら涙をボロボロと流しているへーじは私と縁ちゃんのダブルパンチでノックアウトした様だ。

 取り敢えず床に突っ伏しているへーじの写真をもう2,3枚撮っておく。

 私のへーじベストショットコレクションがまた一つ増えた。


 うん、そこは置いといて。


 私はすぐ横でニコニコと笑っている少女の方を向いた。

 目は自然に、怒りを押し殺し笑顔の形に。


「悪いけど、うちんトコのへーじ誘惑すんの止めてくんない?」


 少女はケラケラと笑い声を上げた。

 その笑い声が、酷く馬鹿にしているようで、鼻にかかった。


「ええー? 私そんなつもりは無いですよぉー」

 高い声に余計にイラ立ちを覚える。


「アッハッハ! へーじ狙うなんて物好きな子だねー? ま、コワーイおねーさんに殺されてもしらないよん?」

 顔は無理に笑みを作っている。

 だけど、睨みつける目を、笑みへ変える事はできないみたい。


 少女はまた笑う。

 耳に障る笑い声で。


「そのコワーイおねーさんってさっきの人ですかー?」


 そんなのいわなくても解るでしょ。




「それとも……こっちのオネーサンの事ですかァー?」


「……!」

 その視線は私の方を向いていた。

 私が怖いおねーさん?

 アッハッハ! なーに言ってんのこの子ー?




 ……解ってんじゃない

 




 私は作り笑いを止めた。

 腕組みをして少女の方を、目を細めて見つめた。

 完全に敵意を込めて。


「どういうつもりなわけ? へーじに態々近付いて……目的は?」


「えー? 目的だなんて~……亜里沙は純粋にへーじさんの事が好きなだけだしー」

 私の言葉に少女はモジモジと体を揺らしながら言う。

 上目遣いで怯えたような態度を見せているが、それが演技である事はお見通しだ。


「君が一年生の……それも、あの悠馬君と通じる人間だって事は知ってるのよ」

 その言葉を出した瞬間に、少女の目の色が変わった。


 悠馬君が中学で有名だったのは知ってる。

 そして学校に入って直ぐに一年生内でグループを作り始めているのも知っていた。

 今日一日の始業式だと言うのに、動きが異常に早い……多分この高校に入る前からグループ作りは始まっていたんだろう。


 少し気になって一年生を全体的に調べたことがある。

 噂通り、組織化されているのは確かだったようだ。


 その一年生内のリーダーと思われる悠馬君が初日でへーじに近づいた。

 その次に悠馬君と繋がりがあると思われるこの子がへーじに話しかけてきたのだ。


 偶然とは思えない。



 この子は……いや一年生を調べていたときに名前も知ったんだ。

 この子、という言い方は的確ではないだろう。


 早乙女さおとめ 亜里沙ありさ


 かなりタチの悪い女で男クセも酷いとか。

 巧みな仕草や言葉で男をモテ遊び貢がれた品物は数知れず、その誘惑する上手さは人の心を読む事が出来るのではないか、と思われる程だとか……。

 この子の事はあまり的確な情報は無いし、この話しは全て噂でしか無い。

 噂話しに尾ひれが付く事なんてよくある事だけど、その中に真実があるのも確かだと思ってる。


 ……油断するつもりは無い。


「べっつにー? 亜里沙は本当にへーじさんの事が好きなんですよー?」

 頬を膨らませる仕草に無意識にイラっとしてしまう。

 何でこんなにムカムカするんだろう。

 私の脳裏にはへーじに抱きつく亜里沙ちゃんしか浮かばない。


 私だって……縁ちゃんだって自分からそんな事しないのに!


 それなのに……そんな突然出てきた子に……!


 突然亜里沙ちゃんがクスクスと笑い出す。


「な、何よ」

 笑われるような事はしてないんだけど……?

「いえいえー? オネーサンってば、ホントへーじさんの事好きなんですねー!」


 その言葉と共に。

 自分の顔が真っ赤になっていくのが解った。

 え、え!? わ、私……なんか変な事言ったっけ……?

 一言も言ってない。

 そんな素振りも見せてない。 なんで。何で!?

 困惑する私を見て、亜里沙ちゃんはクスクスと楽しそうに笑う。

「オネーサンってばすっごく可愛いーですねー♪ そんな素振りなんて全然見せないのに、心の中じゃへーじさんの事しか考えて無いんですもん」


 可愛らしい笑みで亜里沙ちゃんがコロコロと笑う。

 私は俯く。

 きっと私の顔は真っ赤だと思う。

 耳が熱い。

 どうしちゃったんだ私……落ち着こうよ……いつもの私だったらこんなの笑い飛ばして。


「好きだけど何もいえなくて、ついつい怖いオネーサンに譲ってばっかで、それ見て苦しいのが解ってるのに、それでもそのお節介を止めようとしない……オネーさんって変な人ですねー?」

 少女は馬鹿にしたようにケラケラと。


 また笑う。


 何で……知ってんのよ。


「最初から人に譲るんだったら好きにならなきゃ良いのにーほんっと変なのー!」

 馬鹿にしたように笑う。 


 私の思いも知らないで、何をペラペラと。

 いつもなら言い返しているのに、私は俯くしか出来ないでいた。

 頭には自分を自虐する罵倒が浮かぶ。


 さっきからずっとそうなんだ。


 ソレをまるで知っているのかのように亜里沙ちゃんは私の頭を見透かす。

 私が思っていることだから。

 何も言えないんだ。


 涙が。

 出そうになる。

 妹の前で。

 へーじの前で。

 こんな学校の中で。

 今迄仮面を被ってきた私が。

 こんな小娘に……!。

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