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その98.聞こえる叫び、聞こえない叫び。 二つの心


 へーじが部屋を出て行った。

「…………」


 言葉は何も出てこない。


 一分。十分。どれだけその場に立ち尽くしていたのか、俺には解らない。

 ゆっくりと、口が開く。

 大きく深呼吸をして、

 言いたかった、溜め込んでいた言葉を。


 一気に吐き出す。

 へーじが出て行った先のドアに向けて。

 彼がもういない先に向けて。


「これ以上! く、苦しまないでくれよ! テメェが俺を友達だって言ってくれんだったらよォ! ぐすっ。 これ以上! 何もしないでくれよォォォォ! も、もう嫌だ! あんな光景見たくない! 銀行の時も今回も! 俺は何もできなかった! お前が傷ついているのを只見ているだけだった! 俺は強いのに! 強いのに何も守れねェ!! 俺は! 俺は俺は俺は俺はァァァァ!!!!」


 髪の毛を掻き毟りながら叫ぶ。

 自分の不甲斐なさに、自分の使えなさに。 


 ボロボロと涙を流しながら、嗚咽をこぼしながら、俺は泣く。

 その涙は、いくらででも溢れかえる。

 ずっと笑いながら、怒りながら。

 心で震えていた。

 へーじに吐き出せば。

 またアイツは俺の為に何かしようとするんだ、だから、だから……





「……でっかい声だなァ相変わらず」

 ドアの前に、僕はまだいた。

 

 何故か解らないけれど……動けなかった。

 どれぐらいドアを出てそのままだったのかは解らないけれど。

 頭で整理出来てなかったからなのかな……。

 そのお陰と言っていいのか、聞いてはいけなかったのか解らないけれど。


 サクの叫びを、心からの叫びを聞いてしまった。


  


 ……そうだよサクだって人間だ。

 しかもアイツは誰よりも友人という物を大切にする。

 僕がボロボロになって、こいつの心も酷く傷つけられていたんだ……。


 僕と一緒じゃないか。


 ……友達が消えるのが。


 怖かったんだ。



 僕は何も言えない。

 只黙ってむせび泣く声を聞くだけ。


 こんな時でも僕は何も出来ない。

 心の折れた彼に、縋ることなんて出来ない。

 なんだよ……頑張ろうと思った傍から僕はまた誰かにもたれようとしてるのかよ……。


「……それでも、僕は」

 言葉が漏れる。


「…………」

 一度口を噤む。


 通路の先に、人影が見えたからだ。

 サイドテールが小さく揺れる。

 いつもなら僕を見る目は、鋭い瞳を向けている猫目は弱々しく沈んでいるように見えた。

 まぁ……君も同じ家で住んでるしね。

 うん、会ってもおかしくないわな。


 あの病院以来だ。

 あれから何日か経ったけど、君は随分と顔色が悪くなったね。


「………」


「………」

 目線が交差したまま僕達は沈黙していた。



 先に口火を切ったのは縁だった。



「………目の前に、現れちゃったね」


 ああ………そういえば、僕は激昂して、二度と目の前に現れるな。そう言ったんだったね。

 今はもう冷静だけど、あの時の縁の言葉は忘れていない。


 『忘れていない』


 だから、僕は何も言わない。

 彼女の事だから、何か思いがあったのかもしれない、そんなのなく、本当に馬鹿にしたのかもしれない。

 実際そんなの解らない。


 だから接し方すら、解らない。


 ………クソ。クソ。僕も、おかしくなってる……。

 でも今は彼女とは、話せない。

 もう。頼らない、僕が頑張るんだ。


 何も言わずに、彼女の横を通り過ぎていく。


「………へー……じ……」

 小さな、嗚咽なような、言葉が聞こえた気がした。

 気のせいさ。


 ………気のせいさ。

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