十割
『こうやって話すのは、キミに〈ケロベロス小隊〉への配属を言い渡したとき依頼だね。島津鋼太郎・二等陸士』
その異様なまでに落ち着いた声は、この状況にそぐわなかった。
虎視眈々と機を伺っているであろう、あの迫力が通信越しにでも伝わってくる。
「そうですね、西郷隆月陸将補殿」
所詮、鋼太郎は一人の隊員に過ぎない。こんな土壇場で上層部と交渉するには、どうしても誰かに取り継いでもらう必要がある。
〈FG〉開発の権威とも言えるエノンなら、どうにか彼に繋げるだろうかと想定したが、なんとか必要な人物の一人を引き摺り出すことはできた。
これで第一の関門は突破した。
『要があるなら簡潔に頼む。こちらも切羽が詰まり切っていてね』
西郷が在中してあるでろう司令室も、防壁を崩されたことによって困惑しているのだろう。時折、通信には切迫した声が混ざり込んだ。
西郷自身も鋼太郎の声はサブモニターで聞いている程度だ。その証拠に、彼は防壁の復旧や航空戦力の配備に纏わる指示を出し続けている。
けれど、それではダメなのだ。既存戦闘機のスペックでは、この周辺を跋扈する下級吸血鬼に強襲され、堕とされてしまう。
「俺なら〈グラトニー〉を殺せます。ですが、その為には陸将補殿に人を集めてもらう必要がありまして」
鋼太郎は簡易的に、かつ重要な点に注意を払いながら、自分の考えを説明した。
『…………なるほど』
しばし、返事はない。
だが、代わりに通信に割り込んできたのは、他の上層部の声だった。
『ふざけるなッ! そんな作戦は馬鹿げてる!』
『そうだ、成功するわけがないッ!』
彼らも西郷に説明する傍で話を聞いていたのだろう。
鋼太郎自身にも無茶を言っている自覚があった。成功率やリスクに関してもご察しである。
「まぁ……そうなるよな」
どうやったら交渉できるのか。そもそも、今の自分にはそれだけの信用が備わっていなかった。
紅音や、それこそ大久保利恵ならどうだったろうか? 結果を出し続けた彼女たちならば、或いは────
『皆、少し待ちたまえ。鋼太郎二等陸士、君の発案した作戦だが、正直、上手くいく確率は何割程度だと思う?』
周囲を諌めようとする、落ち着いた声だ。しかし、そこには言いしれぬ圧があった。
西郷もまた紅音や利恵と同じ、結果を出し続けた人間であることを忘れてはならない。
「……五割。……いや、三割もないでしょう」
『そうかい、なら簡単だね。君の能力で、その足りてない七割を補うんだ。これで成功率は十割だ』
彼は「全責任はボクが持つ」「それから並行して、航空戦力の配備も進める」と付け加え、周囲を黙らせた。
『────それじゃあ、総員に命令を下そうか。現在戦闘中の全〈サツマハヤト〉隊員に注ぐ。〈ケロベロス小隊〉の元へ集結せよ、と』
ここまでの読了、そして本作を手に取ってくれた事に感謝を。〈サツマハヤト〉一同、喜ばしい限りです。
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