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最終防衛ライン・カゴシマ  作者: ユキトシ時雨
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折れた翼

「ぐっ……」


 鋼太郎はゆっくりと〈カンナツキ〉の上体を起こさせた。


 ドローンビットは一機が喪失。三機が木々にぶつかり大破するも、残った二機はまだ自分の制御下にある。


「……損傷率二〇パーセント以下……まだ、動けるな」


 雨に打たれ、泥と傷だらけになった機体の姿はとても万全とは言えないが。


 それに身体中の骨も鈍く痛んだ。きっと機体を弾き飛ばされた拍子に、全身を強く打ち付けたのだろう。


 モニターを見遣るも周囲に紅音たちの反応はない。ミニマップを見ても、自分一人だけが随分と、遠くまで飛ばされたことが分かる。


「どうする……? 隊長たちを探すか、それとも、」


 不意に鋼太郎を乗せたシートが大きく揺れた。今のは明らかにエンジンの振動じゃない。


 大地そのものが揺れ動くような感覚に、〈カンナツキ〉が転倒しかける。ブレーキを蹴って、踏みとどまるも機体のカメラアイは巨大なシルエットを捉えた。


 それは唾液の滴る顎だ。


 鋭利な牙が生え揃い、その向こうには大きく開かれた口内がある。────最上級吸血鬼〈グラトニー〉の下顎であった。


 鋼太郎はその迫力に思わず言葉を奪われる。


 下顎があれば当然、それと同スケールの上顎も。そして、額に埋め込まれた瞳がゆっくりとこちらを見下ろす。


「…………っ!」


 目が合った。


 それは恐らく鋼太郎の錯覚であろう。閉ざされたコックピットの中でモニター越しに外を眺める自分と、他を歯牙にもかけない化物の視線が交わるわけもないのだから。


 だが、鋼太郎はプレッシャーに呑まれてしまった。以前、シェルター内で遭遇した時以上の緊張が全身を震わす。


「マジかよ…………こんなのドンピシャ過ぎるだろ…………」


 鋼太郎の隣には紅音も、小夏もいない。それどころか、他の〈サツマハヤト〉の隊員でさえ。周囲に横たわるのは、執拗にコックピットを潰された〈フミツキ〉の残骸だけだ。


 雨が止まない以上は、砲撃による支援も期待できなかった。ここには自分以外、誰もいない。


 鋼太郎は孤独り、戦場に立たされる。


「…………」


 いや、だからこそであろう。目の前の災禍から時間を稼ぐのも、その心臓に刃を突き立るのも、いま、ここに居る鋼太郎にしか出来ないのだ。


 利恵との接戦で消耗した〈鬼灯一型〉のブレード部を、腰部に備えた予備へ換装。煌びやかな〈聖塵〉の刃をゆっくりと目の前の標的に向けた。


「何ビビってんだよ。アレは俺の仇だろうがッ! アレが俺の居場所を滅茶苦茶にしやがったクソ野郎だろうがッ!」


 まず、自分が何のために剣を握っているのかを考えろ。


 薩摩示現流は威力と速さに特化した実戦向けの複合剣術。八相に構えたブレードの質量をそのまま叩きつけるような一閃は、高い再生能力を誇る吸血鬼に対して、極めて有用であった。


 次に、最悪のパターンを想定しろ。


 もしも、このまま雨が止まなかったのなら。要は紅音が戦死した場合、防壁の砲台は狙いが定まらないままで終わる。


 このまま〈グラトニー〉が侵攻を続ければ、いつかは照準システムに頼ることなく、狙ったポイントに砲弾をブチ込めるまでの距離になるかもしれない。しかし、それだけの侵攻を許せば鹿児島もタダでは済まないであろう。


「……いや、それは違うな。……俺たちの隊長が負けわけねぇだろ」


 紅音は勝つ。この雨も止む。


 砲撃が始まった際、より迅速かつ確実に〈グラトニー〉を屠れるよう、鋼太郎はここで刃を振るうのだ。


「俺があの化物を、少しでも削ってやるよッ!!」


〈グラトニー〉もまた、自らに向けられる殺気には敏感であった。目障りな砂利を弾こうと、意識を向ける。


 現在。〈グラトニー〉の背から発現した翼に、飛行能力はない。


 自身の巨大を二枚の翼だけで飛ばすのは、体力の消耗が激しく、非効率と判断したのであろう。進化をやり直す過程で、翼という形を残しながらも、その内部はより攻撃的な器官にデザインし直されていた。


 自ら皮膚を突き破り、鋭利な骨の先が露出した。それを筋肉の収縮と、血流の勢いで撃ち出す。言うなれば、対〈FG〉や対航空戦力を想定したであろう、カルシウムのミサイル弾頭だ。


「野郎ッ⁉ だったら、こっちも飛べよ、ドローン!」


 残された二機のドローンが飛翔。備えられたセンサーが弾道を観測、着弾点を演算する。〈カンナツキ〉は寸でのところで、迫るミサイルを避わしてみせた。


「周りの〈フミツキ〉たちは、アレでコックピットを潰されたのか」


 その狙いは精密であった。ドローンによる索敵能力と、鋼太郎の優れた五感を持ってしても、少しでもタイミングを誤れば、串刺しにされていただろう。


 撃ち出した骨を即座に再生しているのだから、弾切れもない。


 二射目、三射目と、次々に迫る質量塊をバックステップで避わすも、四発目が機体の脇腹を抉った。


 辛うじて〈刃血(じんけつ)〉が巡るコード類は破れなかったが、装甲を引き剥がされた。


「うぐっ……! 皮一枚が何だってんだよッ!」


 左腕を大きく振るって、重心のベクトルを変動。そのまま崩れかけたバランスを立て直す。


 このままではジリ貧であろう。だが、手にしたブレードで脚や外殻を斬りつけても、大したダメージは期待できない。


 叩くなら、脳天だ。


「イチかバチか……やってやるよッ!」


〈カンナツキ〉は自らの手首にブレードを押し当てる。そして滴る〈刃血〉を追随するドローンの装甲に付着させた。


「野郎の無尽蔵ミサイルは厄介だが、何よりヤバいのは、その狙いの制度だ」


 またも鋼太郎に向けて、ミサイルは迫る。こちらが機体を左に逸せば、その弾道も左に逸れた。アレには追尾性能も備わっているのだろう。


 では何を指標に、こちらを追尾しているのか?


〈グラトニー〉から見て、鋼太郎は文字通りの虫ケラだ。それを相手に、細々と狙いを定めているとも思えない。


 ならば、肝心な追尾の条件は何だ?


「機体の熱量? それとも、動くものに反応している? ……いや、どっちも違ぇな」


 目の前の怪物もまた〈吸血鬼症(ヴァンパイア・シンドローム)〉に侵された一個体に過ぎない。ならば、その指標も決まっているようなものだ。


刃血(じんけつ)〉を塗布されたドローンビットが割り込み、弧を描けば、ミサイルの軌道もそれに吊られた。吸血鬼の本能が、より芳醇な血の香りに惹きつけられるのだ。


 鋼太郎はモニター画面を指で弾く。ドローンの挙動をマニュアル操作で設定。思うがままに、飛来するミサイルを誘導する。


「思った通りッッ!」


〈カンナツキ〉は、ぬかるんだ足元を蹴って、大きく跳躍する。


 単機の推進器(スラスター)の出力だけでは、到底〈グラトニー〉の脳天には届かないであろう。


 だが、それも足場があれば別だ。


 それはまるで、曲芸のように。ドローンによって軌道を誘導されたミサイルを踏台代わりに、〈カンナツキ〉はさらに高く、跳躍する。


「────獲った!!」


 鋼太郎はブレードを構えた。その鋒の延長線上には〈グラトニー〉の頭部がある。外すわけがないのだ。


 直後、咆哮が耳を劈く。


「…………は?」


 四脚から二脚に、〈グラトニー〉がその巨体で立ち上がった。たった、それだけだというのに吹き荒れる風圧は〈カンナツキ〉を弄ぶ。


 警告を告げるアラートがなっているのであろう。機体内は真っ赤に染まるも、何も聞こえない。


 そのまま鋼太郎は空中で機体のコントロールを失った。

ここまでの読了、そして本作を手に取ってくれた事に感謝を。〈サツマハヤト〉一同、喜ばしい限りです。


気に入って頂けたなら、フォロー&コメントを是非! ユーザーページより、そのほかの作品を楽しんでもらえると、さらにうれしいです!

読了ツイートで拡散、宣伝なんかもして貰えると、もう感謝が尽きません。……っと、今回はここで幕引きです。


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