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最終防衛ライン・カゴシマ  作者: ユキトシ時雨
25/33

幕間

・ 八月二一日 午前一時

・ 水俣市 矢筈岳・防壁周辺


 これ以上、〈グラトニー〉を止めることは叶わない。既に幾つもの戦線は突破され、そこには大破した〈FG〉の残骸が残るだけだった。


 防壁が倒壊すれば、それで鹿児島は終わりなのだ。都市はあの巨大によって踏み躙られ、人々は雪崩れ込んできた下級吸血鬼の群れによって食い漁られる。そうなれば、ここはもう誰の居場所でもなくなるのだろう────


 最上級吸血鬼〈グラトニー〉の殲滅。それが温存された戦力に言い渡された命令であった。


 温存された戦力は正規小隊が三つと、行動予備隊が五つ。今も尚、戦闘を続けている部隊の数を合わせれば、少しはマシな数字になるのだろうが、それでも充分な戦力とは言い難い。


 だが、勝算が尽きたわけではない。温存された戦力はもう一つ。三ツ首の獣の如く、敵の喉元を食い破らんとする〈ケロべロス小隊〉が残されていた。


『いいかな、二人とも? 私たちの目標は上級吸血鬼・大久保利恵を殲滅し、この雨を止めることだからね』


 雨が止めば、狂っていた照準システムが回復する。そうなれば防壁に備えられた主砲の大火力によって、一気にこの戦況を押し返せる。


 いくら〈グラトニー〉が巨大といえど、主砲はただ撃てば良い訳じゃない。狙いを定め、その急所に〈聖塵〉からなる弾頭を捩じ込む。そのためにも照準の回復は不可欠であった。


 ◇◇◇


 〈ケロベロス小隊〉の〈FG〉はそれぞれが駐機状態のまま、防壁側面の輸送台に胴体を固定されていた。


 機体を固定するためのアーム部と、防壁のてっぺんに向かって伸びたレール部からなる輸送台は簡素な作りながらも、〈FG〉の巨大を上昇させ防壁の外へと送り出す設備だ。ただ、その有り様は高層ビルを清掃するためのゴンドラとそう変わらない。


「……本当にこんなので大丈夫なのかよ」


 防壁は堅牢であることを何よりも優先して建設された。主砲やこの輸送台も所詮は後付けの代物であり、見てくれも悪い。鋼太郎が不安を覚えるのも当然である。


『何ビビってんのよ? 前がレアなケースってだけで、防壁を超える遠征任務じゃ、この輸送台を使うことも珍しくないの。それとも戦闘機を使って空から降下する? 途中で撃ち落とされても知らないけど』


 通信の向こうから聞こえてきたのは、こちらを小馬鹿にしたような小夏(こなつ)の声だ。


「……センパイは相変わらずセンパイで、なんか安心しました」


『何よ、その含みのある言い方は? というか、あんたはもっと心配することがある筈でしょ。ぶっつけ本番の新型よ、ほんとにちゃんと乗りこなせるの?』


 鋼太郎に与えられた新たなるマシーン〈カンナツキ〉。そのコックピットには回収された〈フミツキ〉のパーツが転用されている。


 操縦桿の握り心地も、シートの硬さも、そのどれもが鋼太郎にとっては馴染み深いものである。チューブから〈刃血(じんけつ)〉を抜き取られる感覚さえも────


「…………」


 強いて懸念事項を挙げるのならば、装甲各部に積載される新装備を使いこなせるかどうかだ。


 鋼太郎の戦闘データを元に作成され、今の〈ケロベロス小隊〉に欠ける要素を補うための新装備は、当然自分だけのワンオフ品だ。ざっとマニュアルを読んだが、前例なんてない。使いこなせるかどうかは、ほとんど幸太郎のセンスにかかっていた。


 だが、選ぶ答えもすでに決まっている。


 景気付けとまでは言わないが、いつも愛食している携帯食料を口にしようとポケットを弄った。


「やるっきゃねぇだろ……ぶっつけ本番だろうと、なんだろうと。ここで死ねば、全部終わりなんだ」


『潔い良いね、鋼太郎くん。……けど、私はそういうのは好きになれないかな』


 会話に割りこんだのは紅音だ。彼女は二人の機体を交互に見遣る。


『慣れない分は小夏ちゃんがサポートしてもらいなよ。これは隊長命令だから、文句はいわせないよ』


『むぅ……そいが隊長の望みだと、言うのなら』


『任せたよ。……ところで二人とも。ちょっと上を見あげてごらん♪』


 その声を聞くだけでも〈ハツキ〉のコックピットで、紅音がニヤニヤとした笑みを浮かべている姿は容易に想像できた。


 頭上にまで配された計器類やケーブル。その隙間に出来上がる物陰に何かがある。簡単には外れないようテープで固定されているのを見る限り、彼女が故意的に仕組んだもので間違えはない。


『じゃーん! 鹿児島名物、かすたどん!』


 それは鋼太郎にとっても見慣れたお菓子であった。小綺麗な包装紙を剥がせば、そこには柔らかな生地でクリームを包んだ「かすたどん」がちょこんと乗っている。


『お腹が空いてはなんとやらってね! この状況なら君も食べる以外の選択肢は選べないだろう、鋼太郎くん?』


 少し、笑みが漏れてしまった。それが彼女たちに出会う前の自分でならば、「ふざけるな」と一蹴していたことだろうに。  


 鋼太郎は取り出した携帯食料をポケットの奥へと押し戻して、口の中に「かすたどん」を放り込む。


 ほんのり広がったのは優しい甘さだ。口元の食べカスを軽く拭って、通信越しに言葉を返した。


「一つじゃ足りません。これじゃあ、余計に腹が減りますよ」


『そう? なら、今回の一件が片付いたら、次はもっといっぱい用意しておくよ』


 ◇◇◇


『────それじゃあ、そろそろ行こっか』


 輸送台がゆっくりと上昇を始める。そのスピードは徐々に勢いを増し行き、全身には大きな重圧が乗し掛かる。


「このッ……」


 奥歯を噛み締めて、負荷を堪える。そして三人はそれぞれの操縦桿をキツく握った。


『電圧よし。油圧よし』


『エンジン回転正常。関節機構ロック解除っと!』


「OSプログラム起動。───アクティベート・スタンバイッ!」


 それぞれのカメラアイに淡い翡翠色の光が灯る。〈ケロベロス小隊〉が今、戦場に解き放たれたのだ。


ここまでの読了、そして本作を手に取ってくれた事に感謝を。〈サツマハヤト〉一同、喜ばしい限りです。


気に入って頂けたなら、フォロー&コメントを是非! ユーザーページより、そのほかの作品を楽しんでもらえると、さらにうれしいです!

読了ツイートで拡散、宣伝なんかもして貰えると、もう感謝が尽きません。……っと、今回はここで幕引きです。

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