戯れに多弁はつきもの
鋼太郎はざっくりと戦況を整理する。仮説拠点を取り囲んだ下級吸血鬼は、既に〈サツマハヤト〉の隊員たちと交戦状態にある。
駐在する〈FG〉の数でこそ吸血鬼たちに劣るもの、隊員の質ならこちら方が上だ。寧ろ今、一番警戒すべきは────
「お前が上級吸血鬼……ははっ。実物を生で見るのは初めてだな……」
上級吸血鬼の定義は大きく分けて二つ。〈吸血鬼症〉に罹患しながらも人の姿と理性を保ち続け、下位の吸血鬼を先導できること。
そして、何らかの超常的な固有能力を保有することだ。
「……」
これまでの断片的な情報を判断材料とすれば、彼女の能力自体は酷くシンプルなものであろう。
熱量の操作。その応用で防壁に穴を開けるほどのレーザーを放ち、蜃気楼で人を欺くのだ。
彼女が何を考えているかは分からない。
それでも上級吸血鬼には、理性と知能が残っている。それが〈サツマハヤト〉の仮説拠点をリスクも承知で襲ったのだ。そこには「何らかの目的」と「勝てる算段」があるのだろう。
「小夏センパイ。コイツを一人で殲滅するのはキツい。だから手を貸して下さい」
後手に回ることだけは明確な悪手だ。
姿形は人であれ、あれはもう化物だと。そう自らに言い聞かせた鋼太郎は、迅速に彼女を殲滅することが最適解であることを理解した。
『……分かった。……ただし、タイミングは私に合わせなさいッ!』
〈ミナツキ〉のカメラアイが二度明滅する。今のが合図だ。
二機の〈FG〉が息を合わせて同時に駆け出す。それぞれが目の前のターゲットから前後の退路を奪うようにして、互いの武器を構えた。
『挟み撃ち……か。集団である利点を活かし、吸血鬼を各個撃破する。〈サツマハヤト〉の中でも基礎的な戦術だな』
上級吸血鬼の両腕に赫灼に燃ゆる。
熱で大気を膨張させ、その圧で迫る鋼太郎たちを押し返した。
『フンッ!』
さらに彼女は指先で小銃を形作った。そこから狙い放たれるのは、一〇〇〇度を越えるレーザーだ。
『まずは勘のいい方を潰させて貰う!』
鋼太郎も咄嗟に回避行動を取る。敢えて推進器は用いず、最低限の〈刃血〉消費とコンパクトな動作でレーザーを避わした。
「コイツ! 下手に大きな動作で避わしたら、その隙を狙ってやがるなッ!」
周囲に設置されたテントや機材の類に注意を払う余裕はなかった。第二、第三のレーザーが休む間もなく放たれるのだから。
『なかなか上手いじゃないか。次はフェイトを織り交ぜてみるのも悪くないな』
彼女の口の端がうっすらと吊り上がる。
だが、次のレーザーが鋼太郎に向くことはなかった。
◇◇◇
彼女の鼻腔を突いたのは濃厚な〈刃血〉の匂いだ。
振り返れば、〈ミナツキ〉の構える大盾があった。分厚い装甲板を幾重にも重ねた彼女のシールドは、一部が展開し、そこから甘美な〈刃血〉の香りを放出している。
「これは……」
『ほら、来なさいよ? この盾は特注品でね、内側にはたっぷりと私の血が充填されてるんだから』
その盾はただ守るだけに在らず。────シールドの内側は、〈刃血〉で満たされていた。一部の装甲を開放することで、辺りに〈刃血〉の匂いを充満させ、吸血鬼たちのヘイトを強引に自分へと向けるのだ。
「チッ……」
吸血鬼は血肉を何より優先してしまう。その欲求に逆らえないのは上級の自分であっても同じだった。
『くたばりなさいッ! バケモノめ!』
彼女が盾の裏側からハンドガンを素早く引き抜く。それは万一、紅音の操るハンドガン故障した際の予備として、〈ミナツキ〉に積載された同型機種であった。
「どうしたって血に惹かれてしまう……煩わしいものだな、吸血鬼の特性というのは……」
焼けるような灼熱間とともに腕が吹き飛んだことを理解する。
けれども、この程度であれば再生は容易であった。
「だが、貴様らは上級を嘗めすぎだ」
瞳を艶やかに輝かせ、〈ミナツキ〉との間合いを侵略する。
熱操作の応用で気流を制御。その勢いに身を乗せたのだから、鈍重な機体での急回避も間に合わせない。
「捕まえたぞ、ご自慢の盾をな────!」
〈吸血鬼症〉の罹患以前に、猫を撫でたことがあった。それと同じ要領で盾の表面なぞれば、容易くに分厚い装甲版を破ることができる。
『嘘だろ……』
「ははっ! 〈刃血〉を浴びるのもいつぶりだろうなッ!」
破られた盾の内側から〈刃血〉が溢れ出す。
その血を存分に浴びた背中からは歪な翼が発現し、そのシルエットを禍々しいものに変えた。
「形態構築────クシザシ」
現した翼の一枚を自ら引きちぎれば、それは形を変えて巨大な槍を形作った。
槍先には陽炎が踊り、シールドごと〈ミナツキ〉の脇腹を穿つ。今の衝撃で、機体の姿勢制御装置を壊したと確信できた。
「それじゃあ……まずは望み通り、君から引導を渡してやろうか」
姿勢制御装置が壊れてしまえば「FG」はもう立ち上がれない。槍を振り上げ、操縦席を穿とうとした時だ。
背後から、研がれた殺気が迫る。
『────させるわけねぇだろッ!』
それは敢えての横凪であった。
きっと自分を〈ミナツキ〉から引き剝がす為の。互いが互いを救うために戦う姿は〈サツマハヤト〉らしい、高潔な精神の表れだ。
「けれどな」
それ程まで振りが大きくなれば、「カウンターが欲しい」と言っているようなもの。
お望み通り、鋭利な閃光とともに右のカメラアイを抉り取ってやった。
『この、クソ野郎がッ!』
「あぁ、そうだったね。血の匂いに釣られて、思わず君のことを標的から外していたよ」
ここまでの読了、そして本作を手に取ってくれた事に感謝を。〈サツマハヤト〉一同、喜ばしい限りです。
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