傷がついた九ミリ拳銃
いつの間にか紅音に背後を取られてしまった。
彼女は鋼太郎と小夏の二人をそれぞれ交互に見渡して────
「いや、別にこうやって隠れて特訓してることを見られるのは構わないんだけどさ。それにしてもお二人さん。昼間はあんなに険悪だったのに、随分仲良しになれたじゃん」
「「誰がこんな奴と!!」」
二人の返答がピッタリ重なった。
そんな様子を見て、さらに紅音はニヤニヤと笑う。
「私は紅音隊長一筋じゃ! 本当のことじゃから、誤解せんどいてけぇ」
小夏はすぐに口調を鹿児島弁へと戻していた。先ほどの小生意気な標準語を話す彼女を見たあとだと、尚のこと違和感が酷い。
「はいはい、小夏ちゃんの気持ちは誰よりも、私がわかってるから」
「そんな勿体無いお言葉を! ありがとうござんます、紅音隊長!」
小夏の表情がパァッと明るいものに変わった。
「まぁ、明日も早いわけだし。今日の特訓はここまでにしとくよ」
紅音は先ほどまで握りしめていた二丁の銃をホルスターへ戻そうとして、そこで鋼太郎は妙なことに気づく。
彼女の握りしめる拳銃の片方は、機構の内部に〈刃血〉を注ぐことで貫通力を増した対吸血鬼用の特殊拳銃であり、〈サツマハヤト〉の隊員の標準装備でもある。だが、もう片方の拳銃は見慣れないものであった。
幾つもの小さな傷がついた九ミリ拳銃。それはまだ〈サツマハヤト〉が組織される以前に、自衛隊で用いられていた自動拳銃である。
「……どうして、アンタがそんな古い銃を?」
鋼太郎の視線はその九ミリ拳銃へと注がれていた。小夏もまた興味深そうに視線を送る。
「……あれ、そういえば小夏ちゃんにも話したことがなかったけ?」
紅音はしばらく、瞳を伏せて考える。
そして観念したかのように、少し寂しげな口調で語り出した。
「ねぇ、鋼太郎くん。君には以前、私のこの居場所が借り物だっていう話をしたのを覚えてる?」
以前に天文館へ出掛けたときも、彼女はそのようなことを口にしていた。
「これはね、私にこの居場所を貸してくれた人の。────前の〈ケロベロス小隊〉隊長の私物なんだ」
鋼太郎も小夏も決して、鈍い方ではない。
それだけ言葉でも、ボロボロな拳銃と、普段は決して他者に見せないであろう紅音の態度を見れば、その裏に隠された意味を読み取ることは容易なことだった。
「それじゃあ、その古い銃はアンタにとっての形見の品なのか?」
「……形見か……けど、それも少し違うかな」
紅音の口元が、うっすらと吊り上げられる。
それはまるで三日月の弧を描くかのように、鋭い歯を剥いて。
「これはね、言うなれば因縁だよ。私に〝狂犬〟とは何かを教えてくれた、あの人とのね」
ここまでの読了、そして本作を手に取ってくれた事に感謝を。〈サツマハヤト〉一同、喜ばしい限りです。
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