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最終防衛ライン・カゴシマ  作者: ユキトシ時雨
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凶兆

「鹿児島オタクのバカ女って……随分、個性的な罵倒文句だな」


 鹿児島オタクなのは認めよう。三度の飯より、かすたどんに奄美の鶏飯。一番好きな大河ドラマは「篤姫」と。地元大好き紅音チャンなのだと、自らに言い聞かせた。


「まっ……鋼太郎をイジるのもこのくらいにして」


 それよりも彼女には気がかりなことがある。窮屈なコックピットシートから身体を少し浮かせ、ある人物へと通信を繋いだ。


「聞こえる、西郷さん?」


『あぁ、聞こえているよ。君たち〈ケロベロス小隊〉の活躍は、僕もついさっき聞かせてもらったばかりだ。ご苦労だったね、紅音二等陸尉』


「はい、はい。そういうのは良いからさ、今回の吸血鬼の数って明らかにおかしいよね? それも出水市に現れるなんてさ」


 県内に迷い込む下級吸血鬼のほとんどは防壁を越えたとしても、砲台の防衛システムに被弾し、そのまま飛び続けた挙句に、鹿児島市や垂水市といった県の中心部へと墜落する。


「私ね、吸血鬼と戦うときは絶対に空に逃さないようにしてるんだ。あのグライダー状の翼は一度飛翔されると、かなりの距離を稼がれるから」


 だからこそ、県内でも端の方に位置する出水市に吸血鬼が現れることは極めて不可解であった。


「私にはさ、今回の一件で吸血鬼が飛来したというよりも、防壁に穴を開けられたように思えるの。それなら砲撃システムを掻い潜れたことにも出水市に現れたことも納得できる」


『はぁ……相変わらず、君の勘の鋭さにはいつも驚かされるよ。公式に発表するのは、まだ先になると思うが、君には先に伝えておこうか』


 通信の向こうで隆月は少し溜息をついていた。


『〈グラトニー〉襲来から本土の生存圏をほとんど失うまで、鹿児島県が積極的に避難民を受け入れていたことは君も知っているね?』 


「ウチにもそういう隊員が多いからね。当然知ってるけど」


『それと同時期に防壁の建造も行われたんだ。けれど避難民を受け入れる関係上、すぐに防壁で他県を阻むことはできなかった。主要な国道や、九州新幹線が防壁によって閉鎖されるのは随分とギリギリになってしまったんだ』


 出水市は九州新幹線の通過ルートでもある。


 ギリギリで封鎖工事を完了させたために、その周辺の防壁が他よりも脆くなっていることにも納得がいった。ただ、やはり解せない。


「いくら手抜き工事と言っても、防壁は鉄板とコンクリートを何層にも重ね合わせて、さらに〈聖塵〉も混ぜて作られてるんだよ。その辺りがいくら他より脆くても、吸血鬼の巨体が通れるほどの大穴を開けるには相応の時間も掛かる。……ていうか、西郷さんなら絶対に気付いて対処してるはずだよね?」


『あぁ、僕だって防げる被害なら、事が起こる前に対処したさ。ただ、今回はそれが間に合わなかったんだ』


 隆月が一枚の画像データを〈ハツキ〉へと転送する。探査ドローンによって撮影されたものであろう防壁の画像には、ひとつの大穴が開けられていた。


「……なにこれ?」


 紅音が眉を顰める。


 そこにあった穴は力任せに掘り進めたというよりも、何か熱によって溶け落ちたようなものだった。


 コンクリートは焼き焦げ、内に仕込まれた鉄板はドロドロに融解されている。


『まるでSF映画に出てくるレーザー兵器で焼かれたようになっているだろう。壁の内側に仕組まれている警報システムまでも焼き切られてしまったから、発見が遅れたんだ』


「冗談でしょ? 理性を失った化物たちがレーザーを作れるのなら、エノン先生はとっくにタイムマシンを発明してるんだから」


『確かに並の下級吸血鬼ならそうだ。ただ、上級吸血鬼の仕業ならだろうか?』


「それは、」


 紅音はしばし思案する。規格外の存在である最上級吸血鬼には及ばずとも、単体で充分な脅威を齎す上級吸血鬼なら、或いは────


『〈サツマハヤト〉のしばらくの方針としては、この大穴を開けたと思われる上級吸血鬼を特定し、速やかに殲滅することになる』


 隆月はその意地に賭けてでも、吸血鬼たちに遅れをとるわけには行かなかった。通信越しにでも、その覚悟と気迫は十分に伝わる。


『ひいては、君たち〈ケロベロス小隊〉にも調査のために熊本や宮崎へと遠征に出むいて貰うことになるだろう。そこで明日には、』


「げぇっ……どうせ、事前の作戦会議やら何やらにも、私も出席しろって言うんでしょ?」


 紅音は心底面倒臭いと言いたげに返した。


「西郷さん。〈ケロベロス小隊〉は新しい兵器をテストするための実験部隊だよ。増して隊長の私は〝狂犬〟だ。殺すべき敵は殺すけど、難しい作戦を考えたり、他の隊の隊長と議論を交わすのは得意じゃないの」


『そうは言ってもだな』


「とーにーかーく、私はそういう面倒臭いのには参加しないからね! それに明日の予定だってもう決まってるんだから!」


 向こうから、さらに一際大きなため息が聞こえた。


 紅音が無茶を言うたび、隆月はいつもこうやって頭を抱える。鋼太郎の噂を聞きつけ、隊に欲しがった時もそうだった。


『……一応、僕は君の上官でもあるんだけど?』


「私のとこの隊員も階級差とか無視してタメ口だし。それに私と西郷さんの仲じゃん」


『それなら、せめて君の用事を聞かせてくれ。その用事が果たして、大事な作戦会議を蔑ろにするほどのものなのかを教えて貰いたいんだ』


「別に良いけどさ。実はね────」

ここまでの読了、そして本作を手に取ってくれた事に感謝を。〈サツマハヤト〉一同、喜ばしい限りです。


気に入って頂けたなら、フォロー&コメントを是非! ユーザーページより、そのほかの作品を楽しんでもらえると、さらにうれしいです!

読了ツイートで拡散、宣伝なんかもして貰えると、もう感謝が尽きません。……っと、今回はここで幕引きです。

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