かさおんな
一昨日から小雨が降り続き、道行く人達の足下が汚れている最中、一人綺麗なままの靴の女性が、廃線となったバス停の前に居りました。
普通なら気にも留めないのですが、彼女は昨日の朝からそこに居たので、流石に気になって声をかける事にしました。
「あの……大丈夫ですか?」
彼女は傘を深くさしており、その顔は薄曇りの天気では見ることが出来ませんでした。
「……あの人を待っているのです」
「あの人、とは?」
廃線のバス停に佇む女性。唯でさえ気味が悪い天気の中、私は興味本位で彼女に問い掛けてしまいました。彼女は身動き一つ取らずに雨の向こう側を向いたままです。
「あの人待っているのです……」
私は確信しました。これは妖怪かあやかしの類いだと。
「なら、ウチで待ちませんか? ここじゃあ寒いですし、書き置きをしておけば大丈夫です」
「……」
私はすぐにバス停にメモ紙を貼り付け、彼女の手を引きました。そして家に連れ込み一夜を共にしました。あ、ここでいう『一夜を共にする』とは、指相撲の事です。指を絡めたり離したり。三回くらいしましたかね、気が付けば疲れて寝てしまい、朝目を覚ますと彼女は既に居りませんでした。
私は彼女との指相撲が忘れられず、また会うために雨の日になると決まってバス停の前まで訪ねました。そして雨が止むまで彼女を待ちました。
「どうかしましたかな?」
ある日、ゆったりとした足取りの老紳士が私に声をかけました。私はすぐにこたえました。
「あの人を待っているんですよ」