ジェイソンくん再び
眠い目擦って書きました!
ジェイソンがにやけた面でゼンを見る。
「この人数相手にどうする気だぁ?やれ、ぶち殺せ!」
人の波がゼンに襲いかかる。
「こんなんで俺を取れると?」
流れるように次々と敵の攻撃を受け流し、急所へと確実に攻撃を叩き込む。
その戦い方は流麗かつ豪快。
時には荒々しく蹴り飛ばし、掴んで投げ飛ばす。
その反面、足捌きは流れるように最適な位置へと彼をいざなう。
時折、飛んでくるナイフも難なく弾き落とす。
ものの十分程度で手下の屍の山が築かれていた。
「くくっ、バケモノだなぁ」
「大丈夫、殺しちゃいないよ。さぁ、次はあんたの番だ。来なよ」
「舐めんなぁ。あの雑魚どもと俺が一緒だと思うなよ!」
片手剣を抜き構える。
隙のない構えでどっしりと攻撃を待っている。
これもスキルの効果だろう。
この均衡を破ったのはゼン。
低い姿勢からの強烈な飛び蹴りをお見舞いする。
「シャァッ!」
そのままコンビネーションに繋げる。
右、左、右。
流れるような連打がジェイソンのHPをけずっていく。
ように見えた。
何発喰らっても綻ばず、姿勢を崩さないジェイソン。
(くくっ、お前の種は割れてんだよ。お前の打撃は急所を狙いすましたクリティカルヒットの気絶が武器だ。逆に言えばそこさえ守ってしまえばスキルの使えないただのガキだぜ)
ジェイソンは不敵な笑みをうかべる。
「俺の勝ちだ。スキル発動"断頭斬"」
左手でゼンを押さえ込み、片手剣を振り下ろす。
もう逃げることは出来ない。
だがそれはジェイソンも同じだ。
振り下ろす直前、マウントポジションだったはずのジェイソンがくずれおちる。
「てめぇ......何を、しやがった!」
「ただの膝蹴りだけど、そのスキルってやつ痛みとか精神的な揺らぎに影響されるみたいだね」
腰の捻りが最大限にきいた一撃はHP以上の強烈な痛みを与える。
(クソッ、これを狙ってわざと低い威力で攻撃してやがったのか)
人体の急所を知り尽くしたこの男にはマウントポジションすら危険だ。
少しずつジェイソンが後退していく。
先程の一撃の痛みは彼の恐怖心を駆りたてるには十分すぎた。
そこを彼が見逃すはずもない。
追撃、追撃、追撃。
痛みが思考を遮る。
スキル発動の暇さえなく、気づけば完全にゼンのペースだった。
「くっそがぁ!」
無理やりな前進。
向かってくる彼にゼンは難なくローキックを合わせる。
骨まで響く打撃に思わず体勢を崩す。
視線を下げたところに飛び回し蹴り。
が、ここでジェイソンがその足を掴む。
「派手な技できやがって読み通りだぁ!形勢逆転だな!」
「いや、そうでも無い」
逆の足でジェイソンの頭を撃ち抜く。
驚異的なボディバランスから繰り出される飛び回し蹴り二連。
脳が揺れ、ふらつくジェイソン。
ゼンは掴まれていた足を振りほどき再び距離を取る。
武道家としての長年の勘が嫌な予感を感じとっていた。
「クソが、あんまり使いたかぁねぇがよ。本気出すぜ」
片手剣を投げ捨て、ボクシングに近い構えをとる。
「スキル発動"速度補正" 」
ジェイソンは一瞬で距離を詰める。
放ったのはジャブ。
避けるのは難しいが、当たったところで致命打にはなりえない。
「何してるの?」
返し技を繰り出そうとした時。
「痛覚蓄積"」
鈍痛が走る。
「なっ!?」
「痛みを貯金して放つ、俺の疲労もハンパねぇし痛てぇが。クルだろ?痛覚倍加も追加してるからな」
次々と放たれるジャブと絶妙なタイミングで来る鈍痛。
津波のように次々と拳がおそいかかる。
「ははっ!今度こそ終いだぁ!」
キメにきた右拳。
だが、ゼンはそれを捌く。
その後のジャブも次々と捌く。
(あ、当たんねぇだと!?)
「そのスキルってやつ何個かのパターンしかないんだね。簡単に見切れちゃったよ」
「うるせぇ!」
やはり捌く捌く。
掠りもしない。それどころかカウンターを喰らう。
「これで終わりだ」
右の上段蹴り。
だが、寸前でジェイソンが躱す。
「バカがっ!最後の最後で外しやがった!」
天国から地獄、ガードが緩み攻撃姿勢に移る。
「こんな手に引っかかるなんてまだまだだね。じゃあ、せいぜい苦しんでよ」
死角からの一撃を難なくかわしたゼン。
そして放たれた最終手、三日月蹴り。
無防備な肝臓を狙いすました一撃は呼吸を忘れ、死を感じるほどの痛みを与える。
「君のスキルで僕の弟子が感じた痛みを思い知ってよ」
ジェイソンは呻き声を漏らして、悶えた。
「いい?次やったら今回みたいな遊びじゃすまないからね。じゃあおやすみ」
男はリトーと共に闇の中へ消えていった。
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僕が目を覚ましたのは自分の家のベッドの上だった。
「痛てて.......ここはどこだろ?」
「俺の借りてる宿だよ。リトーの宿はわかんなかったからさ。傷は大丈夫かい?」
そこには師匠がいた。
多分、この雑な包帯とかは師匠が巻いてくれたんだと思う。
「すいません、また迷惑かけて........」
そう言ってうなだれていると、師匠は僕の頭を撫で笑いながら言ってくれた。
「師匠ってのは一番大事なもんは弟子が育つまで代わりに守ってやるもんだよ。僕の師匠もそうだった」
いつかは自分で守らんないとだけどねと言いながら師匠は果物ナイフをくるくると回した。
そうしてる師匠はちょっとだけ寂しそうだった。
「僕絶対、強くなりますから!師匠見てて下さいね!」
師匠は窓の方を向いて。
「当たり前だよ。師匠だからね」
その時の師匠の顔は見えなかったけど、初めて師匠が年相応の青年に見えた気がした。
「それはそうと、不甲斐ない弟子は明日からメニュー倍だからねー!クエストにも連れてくし」
「任せてくださいよ!体力には自信ありますから!」
僕達の奇妙な師弟関係はまだまだ面白くなりそうだ。
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僕らは今日、森に住むマウンテンコングの討伐に来ていた。
「そういえば師匠、ジェイソンはどうなったんですか?」
ちょうどサンドウィッチを食べていた師匠はお茶で流し込んで多分もう冒険者は無理だと思う。と話してくれた。
「あれだけ痛いの叩き込んだし、あいつの戦術全部潰してから倒したからプライドズタボロだろうしねー。ついて行く部下ももういないと思うよ」
相変わらず強いなぁうちの師匠は。
それから僕らは山の奥まで進み、サクッとマウンテンコングを討伐した。
やったのはほとんど師匠だけど.......
落ち込む僕に師匠は、運足がまだまだだねーと普通にダメ押しをしてきた。
それからその場で特別訓練が始まり、すっかり夜になってしまった。
「もー師匠のせいで野宿する羽目になっちゃったじゃないですかー!」
悪ぃ悪ぃと笑う師匠が代わりに見張りは一晩中やるといってくれたので僕は遠慮せずに寝た。
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「ったく本当に寝る弟子がいるかよ......図太いというか、大物というか」
思わず呆れて笑ってしまう。
一人で考える時間は久々だ。
パチパチと燃える焚き火を見ながら茶をすする。
「いつかはこいつにも師匠のことを話さねぇとな」
ザクッ。
足音が聞こえる。
敵か?
構えを取り、音のした方を睨む。
「誰かいるのか?」
「た、助けて......」
くぐもった女性の声、罠かもしれない。
だが、彼の直感が行くべきだと告げていた。
「んー、弟子のお人好しがうつっちゃったかな」
鬼が出るか蛇が出るか、俺は森に足を踏み入れた。
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