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 -2 『お祭りの日』

 朝早くから祝砲のような音が何度も学園中に鳴り響いていた。


 いつもなら通学の生徒で賑わう校庭は、今日ばかりは多くの一般人も入り混じって混雑を見せている。


 町の方から学園に向かう校庭の中道には、道沿いに生徒達が営む出店が立ち並んでいる。それらの出店も色とりどりな飾りで彩られていて、場はとても華やかだ。行き交う生徒や一般人達はそのお祭り空気に身を投じ、にこやかに活気づいている。


 今日はまさにお祭り――二年に一度の学園の祭典、魔法大会の日だ。


 ついに待ちに待ったその日を迎え、学園は普段の授業風景から一変して活気づいた盛り上がりを見せていた。


 管弦楽部による出し物の演奏などがどこからか響き、お祭りムードに華を添えている。ひたすら賑やかなそのお祭りは朝から夕方まで開かれ、今日一日は生徒も先生も、部外の人も無礼講だ。


 魔法大会のメイン会場である大きな石造りのスタジアムでは、それぞれの時間ごとに初等部から高等部までの生徒による競技が行われている。初等部の子らは色の付いた魔法球を使ったダンス。中等部の子らは学級ごとに別れた魔法球のドッジボール。他にもリレーなどの魔法とは関係のない個人競技なども行われ、その結果に一喜一憂の歓声が巻き起こる。


 千人以上が収容できるそのスタジアムを埋め尽くした観客の熱気が地鳴りとなって響く中、私はその周辺をきょろきょろと眺めながら歩いていた。


 腕には腕章がつけられている。そこに書かれているのは『実行委員』という文字。


「イビルが魔法を奪うのに、多くの人が集まるこの魔法大会は恰好の餌場じゃ。もっとも注意すべきじゃろう。そのため、キミ達が動きやすくなるようにしておくべきじゃろう」


 そういう学園長レグニスの言葉によって、私は魔法大会の主催者側として巡回をすることとなったのだった。


「ミス・ワズヘイト。貴女の役割は敷地内でのトラブルがないように見回ること。そして、ゴミを回収することです」


 朝、登校してすぐ私にローズマリー先生はゴミ袋を押しつけてきた。間違いなく後者が本音だろう。


 良いようにタダで使われているような気もするが仕方ない。私としてもイビルを封印するために動向を探らなければならない。学園中を歩き回る口実としては十分だ。


「ママ、いい臭いする」

「お肉を焼いてるのね。あとで食べよっか」

「うん」


 ゆったりとした歩調でリルと一緒に会場を歩きまわる。生徒の出店が多く並ぶあたりは人混みも多く、それでいて食べ物の空腹を誘うおいしそうな香りが鼻孔をくすぐる。離れないようにリルと手を繋ぎながら、ゴミも拾いつつ色々と見て回った。


「せっかくのお祭りなのだからせめて楽しまないとね」


 私だけ気を張りすぎるのも損な気分だ。


「アリーにも持っていってあげるー」

「そうね。レニアは……今日は図書館に引きこもってるらしいし、いいか」


 アリーは念のためしばらく保健室で安静にしている。イビルに力を奪われた影響か、深く気疲れしたように体の重さがなかなか取れないようだ。


 あれから毎日のようにリルを連れて見舞いに出向いていたが、アリーは陰気を微塵も感じさせないほど健気に明るく笑ってくれていた。彼女の隣で静養しているルーラの方が容態は重かったが、彼女もあれから数日が経ち、順調に回復に向かっている。


「リズさんが私を引き留めてくれたのかもしれませんね」とアリーは私にそう言ってくれた。


 イビルに奪われてしまった彼女の『幸運』のおかげでもあるだろう。リズは比較的軽症だ。ある意味ではその場に私がいたのも幸運だったのかもしれない。


 ――アリーやルーラのためにも必ずイビルをなんとかしないとね。


 学園長レグニスの話によれば、奪われた魔法もイビルを封印さえすれば取り戻せるかもしれない。


 そのためにも頑張ろうと意気込んだ。


 とはいえ不服なことが一つ。


「なんで私だけがこんな奉仕活動的なことを……レニアのやつぅ」


 自分は体を動かすのが苦手だし人混みも嫌いだから、という理由でレニアは私に丸投げしてきた。


「まあまあ。館内は見ておくからさ」と言って図書館の方へ逃げていったレニアをすぐにでも追いかけるべきだったか。


 逃げられてしまった以上は仕方がない。


「――きゃあっ」

「ぐっ」


 足下のリルに意識を向けて歩いていると、曲がり角で人にぶつかってしまった。軽く顔が当たりよろめいてしまう。


「いたた……ごめんなさい」

「またお前か。気をつけろ」


 返ってきた不機嫌な声に顔を持ち上げると、私の前で口を尖らすバーゼンの姿があった。


「またって……私の台詞よ」


 私の不注意のせいもあるが、急にバーゼンが物陰から出てきたのも原因だ。それなのに自分は全く悪くないといった様子を見せている。


 どうにもバーゼンの不遜な態度は気に入らない。


 ――そっちこそ気をつけなさいよ。


 そう言おうとバーゼンをにらみ返したが、しかし彼はどこか虚ろな目をして遠くを見ていた。まるで私など視界に入っていないかのようだ。


 呆然としたその様子に拍子抜かされ、私は吐き出そうとしていた言葉を思わず呑み込んでしまった。


 私を無視するように前へと歩き出すバーゼン。彼の向かう先には小さな人の集まりができていた。


 校庭に出店が立ち並ぶ中の端の一角。袋小路の広場のようになったそこの、小さくできた人だかりの中心にクルトがいた。


 クルトはこれから行われる選抜競技の出場のため、私とはまったくの別行動をしている。こんなところで何をしているのだろうかと思ったが、どうやら足を引き留められているようだった。


「ようようようクルト。ついにやって来たな、今日が。すっげえ楽しみにしてたぜ」


 暑苦しいほど快活な声でクルトに話しかけているのは、体格の良い筋肉質な青年だった。赤いトゲ立った短髪と色黒の肌。制服の袖を捲ってノースリーブのように肩を出しているその青年は、自慢の筋肉を目立たせるように腕を持ち上げて拳を握りながら、意気揚々とクルトに笑いかけていた。


 そんなぐいぐいと食いついてくるようなその青年に、クルトはやや気持ちを引かせたように苦笑を返していた。


「今日も元気だな、ラクスト。大事な本番前に疲れるぞ」

「俺はこれが平常運転だぜ。お前こそ、もうすぐ学園一を決める争うが始まるってのにテンション上がらないのかよ」

「いや、別に。いつも通りやるだけさ」


 対比のせいで余計に冷静に感じるクルトの対応に、ラクストと呼ばれた青年はそれでも勢いを衰えさせずに絡んでいく。


「楽しみだろう、クルト。お前と同じ学年でよかったぜ。学級は違うが、正々堂々とお前とぶつかるのを楽しみにしてるんだ。いったいどんな競技なんだろうなあ」

「競技内容の発表はその時に学園長がするのが決まりだ。それまではおとなしく待って準備しておくしかない」

「そうだけどよ。楽しみすぎてじっとしてられないぜ。くはあっ」


 景気よく笑うラクスト。

 彼はルーラと同じ学級の同級生だ。


「俺の爆発魔法がいかされる試合だといいよなあ」

「お前の魔法は危険すぎる。加減を知らないからすぐに他人を巻き込むだろ。昔なんて、その魔法のせいで教室の椅子を何個か壊したって聞いたぞ」

「そうならないよう練習してきたんだぜ。俺だってちゃんと努力はしてるんだ」


 ラクストは不適に笑いながら、隆々とした筋肉質な腕を持ち上げて力こぶを作ってみせる。


 その大柄の体躯に恵まれた外見からわかるとおり、身体能力は類まれなる才能を持っている。それに加えて魔法の資質もなかなかで、学力以外の成績は常に上位を勝ち取る優等生だ。


 得意の固有魔法は『爆発』という物騒なもの。魔法球を爆発させることができる、この学園では彼だけが使えるものだ。爆発規模としては小さいが、その気になれば小さな石も壊すくらいはできる。


 もちろん彼も選抜の選手として選ばれていた。競技相手であるクルトに和気藹々とスキンシップを図る光景を、そんな彼らに羨望の眼差しを向ける一般生徒達が囲いこむように眺めていた。


 二人のやりとりを微笑ましく見つめる生徒達の外側で、一人だけ正反対に機嫌悪くバーゼンが鼻を鳴らす。


「はっ。余裕ぶりやがって」


 バーゼンはそう悪態をつくと、そのまま私を無視して立ち去っていってしまった。


 バーゼンも選抜競技が近づいていて余計に気が立っているのだろう。もともとクルトが入学するまでは学園一の天才と担がれていた先輩だ。


 バーゼンの家も、この学園の創立当時からある名の知れた家系だ。今日の選抜競技で一番を取ることは彼にとって相当な悲願だろう。


 それだけ選抜競技での優勝は栄誉あることだ。


「背負ってる人は大変ね」


 私としては他人事――という訳でもないか。


「私もワズヘイトとしてちゃんと封印をしないと」


 ずっと昔のワズヘイトは、竜を犠牲にしながらもちゃんとイビルを封印したのだ。封印が解かれ、その力も私へと戻ってきているはず。


 災厄の悪魔、イビル。

 その驚異を封印できるのは私だけだ。


「リズ、見回りお疲れ」

「あらクルト。話は終わったの?」


 いつの間にかラクストから逃げるようにクルトが私のところにやって来た。リルが「パパー」と駆け寄ってタッチしあう。迎え入れるクルトもすっかりお父さんのようだ。


「リズ。今のところは特になにもないけれど、これから祭りも佳境だ。気をつけろよ」

「わかってるわ。これでもちゃんと目を光らせてるつもり。それよりも、貴方こそちゃんと勝ちなさいよね」


 今まで散々、今日のために鍛錬を続けてきたのを私は知っている。途中からはリルのために時間を割いてくれていたけれど。


「わかってるさ。リズみたいにドジじゃない」

「なによそれ!」


 ぷくっと顔を膨らませてしまう私。だがそんな私をあしらうようにクルトは笑うと、リルの頭を一度撫で、もうすぐ始まる選抜競技のために会場の方へと歩いていったのだった。


「絶対に勝ってくるから」とだけ力強く言い残して。


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