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 -16『過去より託されし力』

 私もレニアも、クルトまでもが驚いて学園長レグニスの話に耳を疑った。


「人形? でも、確か魔法学の授業では生命を作り出すことは不可能だと習ったはずですが」とクルトが真面目に聞き返す。


「うむ。確かに新しく作り出すことは不可能じゃ。ワシの場合はやや特別でな。昔の魔法の事故によって魂だけが体から飛び出してしまい、以来ワシはいわゆる幽霊のようにこの地をさまよっておった」


 そんなことまで魔法で可能なのか、と私は素直に驚いた。そういう固有魔法だったのだろう。


「そしてやがて、ワシはイビルの封印にやってきたワズヘイトの子と出会った。ワシはその子と親しくなり、そうしてワシのためにその子は体を用意してくれたのじゃ。その体はほとんど人間そっくりな人形じゃった。ワズヘイトの子はそこにワシの魂を引き寄せ、定着させたのじゃ」


「そんな不思議なことが」

「疑うかのう、クルトよ。じゃが真実じゃ」


 決して揺らがない学園長レグニスの声はとても重たい説得力があった。


「ワシの役目は、封印が解けたときに全てのことをワズヘイトの子に話すというもの。そして今、その懸念は現実の物となっておる。リズよ。その封印をキミに託す時なのじゃ」

「私が……封印を?」


 それはどんな冗談だ。

 私は落ちこぼれで、魔法の才能も何もないただの一般人だ。


 そんな私に突然そんなことを言われても困惑するばかりだった。


「私にそんなことができるはずが……。だって魔法だって弱いし」

「それは長い年月、封印に注がれておったからじゃ。じゃが封印が解かれ、そこにあった力は本来の持ち主であるワズヘイトへと戻っていっておるはず」


 言われ、私はふと思い当たる。


 隠された書庫で重たい本棚を簡単に持ち上げられたこと。魔法球の授業で巨大な魔法球を引き寄せたこと。


 全部、へっぽこの私だとあり得なかったことだ。


 封印からリルが解き放たれ、封じられていたイビルもいなくなり、封印の魔法の力がワズヘイトの血に戻ってきた。


「いずれ封印は弱まり、どのみちそう遠くないうちにイビルは封印を破っていたかもしれん。じゃが、今回リズがそれを解き放ったのはある意味では好都合じゃったのかもしれんな」

「どういうことですか?」


「昔のイビルはワズヘイトと対峙する前から大量の魔法を蓄えておった。じゃがどうやら今は封印によって全てを吐き出し、言うなれば腹ぺこのままじゃ。奴の魔法力は極端に弱まっておるのじゃろう」


 学園長レグニスの言葉に、なるほど、とレニアが柏手を打った。


「つまりイビルは、今は自分の魔法を蓄えようとしてたんだね。だからルーラを襲ったんだ」

「うむ。奴はまだ万全に力は得られていないということじゃろう」


 それはつまり――。


「リズ。先代にはできなかった完全なる封印。それを、今も今のキミならば可能かもしれぬということじゃ」

「私が……イビルの封印を、する……」


 やはり何度言われても実感がもてない。そのやり方も、何もかも知らないのだ。


 まるでいきなり全てのことを自分に丸投げされたみたいで、私は頭の中が熱暴走したようにのぼせてしまっていた。同時に不安が背筋に寒気を走らせ、気味が悪くなる。


 と、そんな私の前に寄り添うようにクルトがやってきた。彼は真面目な顔で私を見つめたまま、冷や汗で冷たくなった私の手を握って持ち上げた。


「リズ。突然のことで不安はあると思う。けれどお前には俺がいる。リルもいる。レニアやアリーだって。お前が難しいとこは俺達がカバーする」

「でも……よくわからないわ。私はあまり魔法がうまくないし」

「これまでだって、さんざん俺に嫌がらせをしてきてただろう。その時と同じ感じで、いつもみたいにぱぱっとやっちゃえばいいのさ」


 軽く言ってくれる。

 当事者じゃないからって好き放題だ。


 けれど私はそうじゃない。ずっと昔に世界を混乱に陥れた悪者の存在を知らされ、それをどうにかできるのは自分だと突きつけられた。


 そんなすごい存在に対して私はちゃんとできるのか。私が失敗したらこの世界は、イビルはどううなるのか。


 不吉なことばかりが頭を巡り始める。まるで繰り返しの呪詛のように。


「……まぁ……ま」

「リル?」


 いつの間にかクルトの背中で眠っていたリルが目を覚ましていた。半目をこすりながら、クルトの肩越しに私を見てくる。


「ママ、落ち込んでるの?」

「あっ、こら。リル」


 クルトの背中をリルがよじ登ったかと思うと、私とクルトの繋いだ手を伝って私の方へと抱きついてくる。そうして無理矢理に胸元へ収まって抱かれると、短い両の手を持ち上げて私の輪郭をなでてきた。


「さびしいの? よちよちしてあげる」

「……っ! リル」


 出会ったばかりの頃、私がリルにしてあげたそれを覚えていたのだろうか。リルはきっと私が何に悩んでいるかなんて知らない。けれど心から私を励まそうとしているのだろうということが伝わってきて、それが私の目頭を熱くさせるほど嬉しく思ったのだった。


「ほっほっほっ。その子も今は幼い姿をしておるが、元は人間を遙か昔から守ってきた竜じゃ。大切な人間が心配なのじゃろう」


 昔の竜はこの地の守り神だった。

 いや、ある意味では今でもそうだったのだろう。その身を封印に捧げてイビルを封じ込め続けていたのだから。


 けれど待ってほしい。

 そういえばイビルを封印するために竜の力が必要だった。それならばまた封印するとなるとリルはどうなる?


 また一緒に封印されることになるのだろうか。イビルの強大な力を押さえ込める人柱として。


「……あっ」

「どうした?」


 ふと思い至り、素っ頓狂に声を漏らした私にクルトが小首を傾げる。


「ちょっと思ったのだけれど、今のイビルって昔よりかなり力が弱まってるんですよね」


 私の問いに、うむ、と学園長レグニスは頷いて見せた。


「リルの竜としての力って今はどうなってるんですか」

「イビルやワズヘイトの力と同じようなものじゃろうか。封印の箱から徐々に解放され、次第にその子へと戻っていっておるよ」

「それじゃあ今は、リルは封印とは関係がなくなってるんですよね」

「ん? まあ、そうじゃな」


 胸元のリルと目があった。

 えへへ、と無邪気に笑んでくる。


 最初は戸惑っていたけれど、今ではすっかり見慣れた笑顔だ。


 星待ちの塔でリルと出会ってから、あまり長くはないけれど、いろいろなことがあった。いきなり目の前に現れたときや、授業中に勝手に入ってきたとき。思い出す度に、私の学園生活は大きく変わったものだと実感する。


 落ちこぼれの日陰者だった私とは違う、今。


「学園長。もし今のイビルを封印するとしたら、そこにリルの力は必要ですか?」

「お前、まさか……」


 クルトが気づいたのか、はっと顔を持ち上げて私を見てきた。そんな彼に私は毅然と頷く。


 学園長レグニスは神妙な面もちを浮かべ、私の瞳を見つめた。


「それは場合次第じゃ。ワズヘイトの力が戻っていっているとはいえ、それがどの程度かはわからぬ。それにもしイビルが魔法を急激に蓄えれば、キミ一人ではとても封印できぬかもしれん」


 つまりは時間との勝負ということだろうか。


「そしてなにより、キミが完璧に封印を施す必要がある」

「でしょうね」

「その自信と覚悟はあるかの?」

「自信はないわ。でも覚悟はある」


 私に前向きな生活を暮れたこの竜の子のためにも。


「私はリルを犠牲にせずに封印をしたい」


 それは固い決意だった。


 やれるかわからない。

 けれどリルのためだったらやりたいと思った。


 私の大切な――。


「まるで本当のママみたいだねえ」


 レニアが茶化すように言ってきて、私は咄嗟に恥ずかしくなった。


「パパもがんばらないとねえ」とレニアはにやけ顔で更にクルトを煽り立てる。


「ママじゃないわよ!」

「俺だって!」


 そう反射的に強く言い返してしまう私とクルト。だがそれを聞いたリルが「ママぁ、パパぁ」と寂しそうに声を漏らし、私達は一転して機嫌をとろうとリルをあやした。


 どうにも締まらないし、納得できないところもあるけれど。やっぱり私はリルをすっかり好きになっているのだと思う。本当に母性的な物を抱いているのかもしれない。


 だからがんばろう。

 どうすればいいのかわからないけれど、きっと私達ならやれる。クルトもいるし、レニア達だっているのだから。


「やってやるわ」


 私はそう、固い覚悟を握りしめたのだった。


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