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 -8 『不本意なわがまま』

 日が暮れる前ぐらいになって、クルトとレニアの文献解読もひとまず終わりとなったようだった。


「あとで纏めるとしよう。この段落ももう少しだ」

「さすが秀才と噂されるだけあって助かるよ」

「そういう飾った言葉は好きじゃない」

「言われ飽きたから?」


 茶化すレニアをクルトはそれ以上相手にせず、帰る準備を始める。


「それじゃあ私も帰りますー」と、二人を眺めながらお茶を飲んでいたアリーも腰を持ち上げ、カップを片づけだした。


「リルも手伝う!」

「じゃあ一緒に洗いましょうねー。近くの水道から綺麗なお水をいっぱい汲んできましたから」

「つめたーい」


 二人はきゃっきゃとにこやかに笑いながら食器を持っていき、残された私も片づけをする。いつの間にかアリーが持ち込んだ小さな椅子や掃除用具、それにレニアの本が散らばっていたり、部屋は好き放題にされている。


 私の、というより私達の秘密基地になってしまっている。


「さて、それじゃあまた……あっ」


 全員の帰り支度を終えて私とリルが三人を見送りに出た時、しかしふと、クルトが思い出したように顔を持ち上げた。


「リズ。今の時間ってわかるか?」

「え? そうね……五時くらいかしら」


 秘密基地に持ち込んだ壁掛け時計を覗き見る。


「そうか」

「どうしたのよ」

「いや。ちょっと修練所に取りに行くものがあってな。あそこは六時には閉館するんだ。その前に行こうと思っていたのを忘れてたんだ」


 修練所は校庭の隅に建てられた、生徒達が自主的に魔法の練習をする施設だ。


 基本的に、生徒が校内などで無断に魔法を使役することは良くないとされている。問題があるわけではないが、その魔法によって万が一にも事故に繋がりかねないためだ。


 先の魔法の授業で魔法球の暴走があった時のように。


 その懸念などを一切取り払い、どれだけ強い魔法を使っても誰にも迷惑をかけないよう頑丈に作られた建物が、その修練所だ。


 そこでは日夜、魔法の上達をはかる生徒達は足繁く放課後に通い研鑽を繰り返している。特に選抜競技の近い時期になると、それに出場する生徒ばかりになる。


「そういえばクルトさんも、ちゃんと選抜の推薦をいただけたみたいですねー」

「ああ、よく知ってるねアリー。つい今朝のことなのに」

「ローズマリー先生からお聞きしましたよー。自分の教え子が出るのが嬉しいみたいで」

「そういうことか」


 アリーが楽しそうにそう語っているように、出場選手以外にも選抜大会の注目は高い。なにしろ教師陣に認められた成績優秀者のみが出場できるのだから、他の生徒達からの羨望の目も厚いものだ。


「私も見に行きたいです、修練所。どんな人がいるのか気になります。ね、リズさん?」


 目を輝かせて言うアリーに、しかし私はまったく興味なさそうに首を振った。


「別に気にならないけど」

「ええ、なんでですか?!」


 ――だって落ちこぼれの私には縁のない場所だし。


「見に行きましょうよ。今度の魔法大会が楽しくなるかもしれませんよ」

「どうしてよ」

「あ、あんな人がいるんだな。あんな人が出るんだな。って楽しめるじゃないですか」


 どうやら転入して初めての魔法大会だから、アリーは随分と興奮している様子だった。私への口調もどこか鼻息荒くなっている。


 それに感化されたのか、足下で話を聞いていたリルも、


「いきたーい。ねえママー」


 私の制服の裾を引っ張ってきたのだった。おそらく、アリーのテンションを見て何か楽しいものがあるのだと勘違いしたのだろう。


「リル、行っても何もないわよ」

「いきたーい」

「寮に戻ったら夕食が待ってるわよ」

「いきたーい」


 どうやら譲るつもりはないらしい。


「強情さは母親似だな」


 クルトがこっそりと口許を緩めて陰口をたたく。


「聞こえてるわよ」

「空耳だろ」

「そんな訳無いでしょ!」


 クルトの膝小僧を蹴飛ばしてやると、痛そうに苦悶の声を漏らして私に怒ってきた。


 私はさっさと帰って夕ご飯を食べたい。今日の食堂のメニューは、毎月一回は出る寮の定番のグラタンシチューだ。たっぷり濃厚にとろけるチーズがのせられたそれは、こんがり焼けた香ばしさとシチューのまろやかさが際だつ絶品である。


 おそらく寮の食堂では一番人気だろう。これがある日はいつも行列ができている。


 ――私はそれが食べたい!


 早く帰らないと品切れしてしまうかもしれないから急がないといけないのだ。だからアリーに付き合うことはできないのだ。


「さあ行きますよリズさん」

「ちょ、ちょっと。引っ張らないでちょうだい。……っていうか、貴女けっこう力強いのね」

「リズさんが軽いんですよー」


 かたくなに思った途端、私の体はあっさりとアリーに引きずられ、そのまま修練所へと連行されてしまったのだった。


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