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 -6 『知りたい気持ち』

「ねえ、レニア。ちょっとお願いがあるのだけれど」


 私の秘密基地で書庫の本の解読を続けてくれているレニアに、私は申し訳なさそうに手を合わせながら言った。


「なに。面倒事なら勘弁してよ」

「うーん。ちょっと面倒事かも」

「じゃあイヤだ」

「話くらい聞いてよ!」


 むすっと頬を膨らませた私にレニアは呆れ顔を浮かべながらも、結局は読み解いていた資料を置いて顔を向けてくれた。


「実はもう一つ調べて欲しいことがあって」

「……さてと、続きを」

「ちょ、ちょっと待って!」


 また視線を戻そうとしたレニアを必死に食い止める。


「ワズヘイト家について調べてほしいの!」

「ワズヘイト? それって」

「そう。私の家よ」


 レニアは不思議そうな顔で私を見てくる。


「私が知りたいのは、竜の封印が施されたといわれる昔のワズヘイト家の話」

「……どうしてそれを僕に。キミの家のことなんだったらキミ自身で調べればいいんじゃないの? それこそ週末に実家にでも帰って聞けばいい」


「どうにも私の家には知ってる人がいないみたい。小さな頃にずっと昔の封印の物語について尋ねたことはあるけれど、お父様もお母様も昔のことはわからないの一点張り。どうやらワズヘイトのことは伝えられていないみたい」

「それはどうにも不自然だね」


 確かにそうだとは思う。

 けれど、お父様達が私に隠しているような雰囲気でもなかった。


 そうでないのだとしたら、


「――意図的に隠されている、か」


 レニアが口にした結論に、私も同じように思い至っていた。


 その当時はおよそ七百年前。膨大な月日が過ぎて記録も薄れていくのは当然だろう。しかし、竜の封印をしたという事実はしっかりと受け継がれているのに、その当時のことなどはまったくわかっていないのは不自然だ。


 これまで特に興味も持っていなかったから疑問にすら思わなかったが、こうして意識してみれば作為的なものを感じて仕方がない。


 そもそも、その当時のことがまず具体的に語り継がれていないのだ。子供への寝物語として和つい竜の話は伝えられているのに、その実体はわからない。唯一残されていたのは隠された書庫にあった文献だけ。


 本当に封印の事実なんてあったのだろうかと思うほどだ。


 明らかに、何かの、誰かの意志によってそれは伝えられていない。


「なるほど。確かに気になる話だね」

「学園長は、昔のワズヘイト家は魔法でも有数の家系だったって言っていたわ。私はずっと、代を重ねる事にその才能が薄れていったのだと思ってた。けど、最近はたまに、私が知ってる以上の魔法が急に出ることがあるの」


 重たい本棚を持ち上げたり、巨大な魔法球を引き寄せられたり。そのどれもが、クルトに地味な嫌がらせをするくらいしかできなかった私のそれとは思えない。


「私の固有魔法は『引き寄せる』魔法。でも、本当にそうなのかなって思ってきたの。だから、昔の私のご先祖様はどんな魔法を使っていたのか調べて欲しいの」

「なるほどね。それで、この文献にもしかするとワズヘイトの記述もあるかもしれない、と」


 ただ物を引き寄せるだけの魔法使いが、数百年と名を残せるほど偉大だったなんて考えづらい。本当は何か、隠されているものがあるのではないか。封印の真実のように。


「ちょうどいま、封印の記述にさしかかったところさ。そこを読み解いていけば、お目当ての情報も得られるかもね」

「本当?!」


「かも……ってくらいだよ。でも、面白いことがわかっていってるよ。あの本はどうやら日記みたいなものだったらしい。最初は当時の生活のことが書かれてた。その中に、封印された竜のことも一緒に書かれていたんだ」


 レニアが、部屋の隅でお昼寝をしていたリルを一瞥だけする。


「どうやら昔は、人間の生活の傍に竜がいることが当たり前だったらしいんだ。といってもその当時でも竜は非常に珍しい存在だったらしく、そこにいたのも一頭だけだったみたいだけどね。竜は強力な魔法を使い、とても聡明で、それでいて人間を守ってくれる守護者だったんだってさ」


 竜の存在なんて今となってはおとぎ話の中だけの存在だったのに、まさか本当に実在したとは。それだけで私は十分に驚きだったが、さらに疑問が募る。


「でも、それじゃあ竜は私達にとって味方だったんでしょう? それなのにどうして封印されちゃったの?」

「それはまだわからない。これから出てくるかもね」

「ああ、もう。もどかしい」


 ちょっとずつしかわからないのが焦れったくてムズムズする。けどそれ以上に調べられる方法もないから仕方ない。


 どのみち時間をかければいつかはわかるのだ。今の私には冷静に待つほかない。


「難しい古代の言語の解読はクルトが手伝ってくれてるから、読み解くのもけっこう捗ってるよ。近い内には伝えられると思う」

「そう。本当にありがとう、レニア」


 私の素直な感謝の言葉に、しかしレニアは気味悪そうな顔を向けてくる。


「なによ」

「いや。明日の天気が不安になっただけさ」

「私だって素直にお礼を言うくらいするわよ、失礼ね!」


 ぷんすかと語気を強めて私が怒ると、レニアはそそくさと逃げるように本を持って自分の本の山の向こうへと消えていったのだった。


 ――竜は人間を守っていた。


 だったらどうして、私のご先祖様はその竜を封印したのだろうか。


 良い存在であるはずの竜をワズヘイト家が無理矢理封印した?

 それとも、もしかしてその竜に何かあったのだろうか。


 ――私のご先祖様はどうやってその竜を封印したんだろう。ただ引っ張るだけの力で。


 私はまだまだ知らなくちゃいけないと思った。本当の意味で、リルをしっかりと育てるためにも。きっと、彼女のことを私はもっと知る義務がある。そう直感した。


 けれど私は気づいていなかった。


 その真実が、決して私達だけで収まるような問題ではなかったということに。


 知る由もない私は、口許を柔らかく緩めてすやすや眠る義理の我が子の寝顔を、ただただ愛おしく眺めるばかりだった。


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