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 -5 『咄嗟の力』

 その魔法球の行方に真っ先に気がついたのは私だった。


「そっちは駄目よ!」


 反射的に立ち上がった私の視線が追いかける魔法球の先には、外れの草原で花を摘む小さな女の子の姿。


「……?」


 リルは私の大声に気づいて顔を向けたが、しかしもう襲い。彼女のつぶらな瞳に大きく映ったその魔法球が、一目散に自身へと迫っている。その恐怖にリルは怯えた風に固まってしまう。


 いくら痛みの少ない魔法球でも、あれだけの大きさであれば衝撃は激しい。それを打ち付けられて勢いよく地面に倒れたら大怪我だってあり得るだろう。


「リル!」


 もはや届かぬとわかっていても駆けつけようと私が手を伸ばす。


 せめてあの魔法球の軌道だけでも逸らせたら。でも大きなものを引っ張るなんて、あの書庫の時しかできなかった。こんな咄嗟にできるのだろうか。


 ――いや、やるんだ。


 刹那の逡巡。

 迷う自分を強く押さえつけ、私はがむしゃらに思いを飛ばした。


 リルを助けて、と。


 無謀にも手に力を込めて引っ張って見せる。途端、リルへと寸前に迫っていたその巨大な魔法球がかくりと折れるように角度を変え、リルの真横で激しい砂埃を巻き上げながらぶつかった。


 衝撃で草や花が飛び散る。

 風圧を受け、リルも尻餅をついて倒れ込んだ。散り散りになった草花と共に、魔法球も淡い光となって霧散する。


 そうしてやっと、


「うぇ……うぇええええええん!」


 状況を理解したリルの騒がしい泣き声が響きわたったのだった。


「リル、大丈夫?!」と私が大急ぎで駆けつける。事を目撃した他の生徒達や、魔法球を撃ち出した張本人である男子生徒も走り寄った。


「リルちゃん、大丈夫だった?」


 一番近くにいた他の女性とが真っ先に駆け寄るが、しかしリルは泣きじゃくった顔で私の姿を探すと、一目散に走ってきたのだった。


 飛びかかるように私へと抱きついたリルを、よろめきながら私も受け止める。


「ママあああああ!」

「ごめんね、リル。怖かったわね」

「うぇええええええええん!」


 泣きじゃくるリルの頭を抱え込み、優しく背中をさすってやる。そうするとしばらくして、しゃっくりばかり繰り返していたリルの泣き声も次第と収まっていった。


 どうやら傷などはないようだ。ただただ驚きと恐怖で泣いてしまっただけらしい。


 よかった、と誰もが胸を撫で下ろした。


 生徒の一部はリルを心配し、一人は魔法球を暴発させた男子生徒を叱りつける。


「やっぱりリズさんが一番安心するんですね」


 アリーが私とリルを見てそう微笑んだ。


「本当のお母さんみたいです」

「べ、別にそんなんじゃ……」

「いいじゃないですか。懐かれてるんですから。えへへ」


 そういうものだろうか。


 ふと、私の胸の中に収まったリルの顔を覗き見る。すっかり安心しきったのか、眠たそうに瞼をおろしかけていた。前髪がくしゃりと乱れていたのをそっとなおしてやると、リルがくすぐったそうに眉間を寄せる。


「まあ、そういうのも悪くないか」


 もうママと呼ばれてもいつの間にか抵抗がなくなっている自分に気づき、私は諦めが混じったような、なんともいえない笑顔を浮かべたのだった。


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