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5.激震 ジャスティス

 深夜のコンビニ前、数台のパトカーと

複数の警察官が辺りを取り囲んでいる。

周りにはぐるりと黄色い規制線が張られ、

店のウインドウには青いシートが張り巡らされ、

中の様子は外から伺う事は出来ない。

初老の警官が、若い警官を呼び止める。


「田村、どうだ? あいつの様子は」

「はい、妙に落ち着いてるんすよね~

 あんな事しでかした奴には見えないっすよ。

 今は高田さんが話しを聞いてるんすけどね、

 冷静って言うか、何て言うか」

「そうか、しかし超常凶悪の絡む案件だ、

 担当班はもうすぐ来るが、それまで決して

 油断するなよ。万一の時は放棄も許される、

 身の安全を第一だ。さあ、高田についてやれ」

「了解っす!」


 田村巡査はそう言われると、得も言われぬ

緊張感のパトカーに乗り込んだ。

中では、後部側に乗る高田巡査と男が1人

淡々とした受け答えを続けている。

その様子を暫し見守り、山崎巡査部長は

店内へと入ってゆく。


 レジカウンター付近は、酷く争ったようで、

近くに陳列されていたであろう商品が、

棚ごと辺りに散乱している。

店内のあちこちで、鑑識官が地を這うようにして

手掛かりをかき集めている中を更に進むと、

突き当りの壁のすぐ下には、男の死体が仰向けに

横たわっていた。

いや正しくは、体はうつ伏せ、顔は仰向け

首が360度後ろを向いて死んでいる。

激しい苦痛に捻じ曲がった壮絶な死相を見て

山崎は、深いため息をついた。


「遅くなりました、超常凶悪事件対策課

 堂山礼二警視正です」

「お疲れ様です」


 袋を被せた足で、グシャグシャと足音を

鳴らしながら現場に現れ、後ろから声をかけた

ジードを見て、山崎は背筋を正し敬礼する。

ジードもサっと敬礼で返した。


「これが被害者ですかぁ……これはこれは」

「ええ、首が真後ろです。事件の経緯は

 全部店の防犯カメラが撮影していました」

「見られますか」

「はい、こちらです」


 山崎は取り出した端末を手早く操作すると、

レジカウンター方向を撮影していたのカメラの

防犯映像が再生された。

そこには、被害者の男がレジカウンターを

何度も叩き付け、怯える女性店員に向かい

怒鳴りつけている様子が映っている。


「一体、何があったんですか?」

「どうも、店員がタバコを番号で注文するよう

 頼んだところ、突然激昂しだしたとか」

「何でそんな事で……」

「ええ、全くです」


 その後も男は、商品棚を蹴り倒したり、

散乱した商品を拾い上げては壁に投げつけたり

その行動をエスカレートさせてゆく。


「この男は何者ですか?」

「名前は比嘉信也、年齢は47歳、

 職業、自称暴力団員ですが、本当の所は無職

 一緒に住んでいる家族はおりません」

「自称暴力団員ねぇ、随分情報あるんですね」

「はい、もう何年もこの辺りじゃ、

 こいつ絡みの通報が続いていましてねぇ。

 何度も何度も相手させられてましたので」

「あ~、そういうアレですか……」

「多くは軽微な罪状なもので、報復を恐れて

 周りも手が出せない状況でしたからね。

 コイツも増長していったのでしょう」

「ったく……無敵の人ってやつですか」

「あっ、そろそろです」


 カウンター越しに比嘉が女性店員の手を掴み

無茶苦茶に引っ張り出そうとしている。

そんな店内へ、1人の男が自動ドアを開けて

入って来ると何かしらの言葉を比嘉にかけた。

それを聞いた比嘉は、女性店員を引っ張る手を

そのままに、男に対して怒鳴りだす。


しかし男は、自称暴力団員の激昂にも動じず、

つかつかと揉み合う2人の間に歩み出て

威嚇するように振り回す比嘉の拳を掴み抑えると、

もう一方の手で、店員を掴んでいる方の手首を

持った途端、比嘉は背を逸らせて悶絶し、

直ぐに女性店員の拘束を解いた。


比嘉と比べれば、凡そ半分程の体格の男は、

大して力を込めている様子には見えないが、

比嘉は掴まれた両手に走る激痛で立つでもなく

倒れるでもなく、もがき苦しんでいる。


「成程、たぶんこれは超人でしょうね」

「はい、そう思われます。

 しかし、不自然に感じる所も見受けられます」

「そうですか?」

「超人というものがどういうものか、

 分かっていないというのもあるのですが

 例えば、掴み方なのですが、肩や肘の

 関節を極めるわけでもなく、ただ掴んだまま

 急所でもない前腕と拳を握力にまかせて

 握りつけていますよね」

「素人くさいって事ですか?」

「ええ、あれだけの力と喧嘩早さを持ちつつ、

 まるで始めて喧嘩をするようなんですよ。

 それから……」


 映像の方では、両手を解放された比嘉が、

痛みで少し床に蹲ると、勢い良く立ち上がり

男に突進するや胸倉を掴んで押し倒そうと

何度も力を込めている様子が流れていた。


「おいおいおい、よせば良いのに」

「ここです!」


 掴まれた男は、顔を背け両手で比嘉の顎を

押し返し、そのまま首を真後ろに曲げてしまう。

首が後ろ向きになった比嘉は男から手を離し

そのまま数歩ヨタヨタと歩き、壁にぶつかると

ばたりと床に倒れ込んだ。


「なるほどね、それで顔が後ろ向きに」

「はい、今の所も力と行動に違和感が……」

「確かに、もみ合いの中、弾みでとも見える。

 最近超人化したとかか」

「やはり、そういう事はあるのですか」

「ええ、私もそうですから」

「え?」


「それはさて置き、取り合えずは、

 本人に聞いてみましょう。彼の様子は?」

「ああ、はいっ、落ち着いた様子ですので、

 話しは出来ると思われます」

「それは、良かった」

「今は車で、こちらの質問にもしっかり

 答えているようです」


 男が乗っているパトカーに向かう2人に、

防犯映像に映っていた店員が、涙を流して

縋り付くようにして立ちはだかった。

ジードのスーツを掴み、肩を震わせている。


「お願いします! あの人は、あの人はただ

 掴まれた私の事を助けようとしただけで、

 あの人が来てくれなかったら、私っ……

 私あのまま、どうなっていたかっ」

「大丈夫ですよ」


 襟を掴む店員の手を、そっと優しく包むと

錯乱気味の感情を、撫で落ち着かせるように

ゆっくりと優しく語り掛けた。


「貴女も本当に酷い目に合いましたね。

 その恐怖から救ってくれた、助けてくれた彼は

 間違い無く、正真正銘のヒーローです。

 大丈夫、彼はきっと大丈夫ですよ」

「お願いします、お願いします……」


 落ち着きを取り戻した店員は、山崎に促され

ジードのスーツから手を放すと、そのまま

店のスタッフルームへと向かい、

ジードは店を出ると、靴に被せた袋を外しつつ

パトカーの中で高田巡査と言葉を交わす、

男の横顔を瞳を大小させ眺めていた。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 眼下に光る、パトカーの回転灯の灯りを眺め

口元に不敵な笑みを浮かべる男がいた。

事件の起こったコンビニからすぐ近くに建つ、

あるビルの一室には、その男ともう1人、

女の姿があった。

2人は灯りも付けず真っ暗なその部屋で、

窓から事件の起こったコンビニを眺めていた。


「いよいよ、始まりましたね」

「ええ、ヒトが決して逃れられない快楽は

 アルコールでも、ドラッグでも無い」

「己の成す事が、絶対的な正義であると

 誰もが認め、それを人々から称賛される!」

「ヒーロー……彼らが世界の人々に見せてきた

 暴力による正義の執行……

 これが矛盾を孕んだものなのか、どうか」

「新たな秩序の中で、その有り様が果たして

 貫かれるのか、変化してゆくのか」

「見守りましょう……今は」

「はい」


 意味深なやりとりの後、再び2人の視線は、

深夜の街へと向かう。


 つづく

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