表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

3.話題独占 ダークブランド

「はい、私は今話題のオートリファームに

 来ておりま~す。見て下さい凄いでしょ~!

 そ~なんです! ビニールハウスじゃなく

 こちらオートリファームさんは屋内で、

 いわゆる水耕栽培をされているんですぅ~」


 テレビの新人リポーターの甲高い声が発した

オートリファームという言葉とテロップに、

繁華街を行く人々は、街頭のモニターに

目が釘付けになる。

画面には、背景を覆う緑の葉っぱの束の列と、

それを照らすUVライトの青い光がキラキラした

室内に、マイク片手に張り切る新人タレントが

映し出されている。


普段なら、この街の人達もこんな映像には、

大して気にも留めない所だが、

すぐ近くで生放送をやっているのかと思うと、

どうしても気になってしまう。

平日お昼の全国放送の番組に、N市の企業が

取り上げられる事は決して多くは無い。

しかし今このオートリファームは、男女問わず

幅広い年代から、注目を集めているのだ。


「早速お呼びしましょう、オートリファームの

 社長、大鳥居(オオトリイ)アイさんですぅ~」

「どうも~」


 リーポーターの声で、ダークブランドが登場し、

カメラの外にいるスタッフ達の拍手が鳴る。

街頭モニターに足を止めていた人々の顔も、

待ってました!といった表情に変わる。

ダークブランドの本当の名前は『大鳥居アイ』

勿論普段はボンテージファッションではなく、

ビシっとスーツを着込み、長い髪はくるくると

髪留めクリップで纏められ、知的さを演出する

メガネが印象的な美人社長として、

世間ではタレント並みの人気を誇る。


「いや~ほんっとお綺麗ですね~!!

 もうご存知の方も多いと思いますけど、

 お歳の方、教えて頂いて宜しいですか」

「あ、はい、41歳です」

「見~え~な~い!! すご~いっ!!

 41って私のお母さんと5つしか違わない!

 下手したら親子ですよ! 親子!」

「あははは」


アイがテレビに出るときのお決まりの展開だ。

「お幾つですか」「41です」「見えなーい」

毎度毎度この流れを通過儀礼のように、

冒頭でやらなければならない。

それでも毎回新鮮な驚きのリアクションが

スタジオやテレビの前で未だに起こる。

40代のタレントや女優にも、若々しく

年齢を感じさせない者は多数いるが、

アイの場合は、本来は一般人である事、そして

その秘訣を明らかにし、販売している事が

お茶の間の関心を掴んで離さないのだ。


「その、アイさんの若さと美しさの秘訣が!

 今、幻とまで言われている、こちらっ!!」

「はい、ダークブランドで~す」


 アイが取り出した皿の上には、真っ黒な

と言い現すが一番しっくりくる程に色が濃い、

妖しく輝く艶を放つトマトが乗せられている。

その名は『ダークブランド』

オートリファームが品種改良の末に作り出した

今誰もが最も食べたいトマトだ。

その濃い色から予想される通り、通常の物の

数倍のリコピンを含み、その強い抗酸化作用は

様々な健康、美容向上の効果を発揮するのだ。


「では、こちらへどうぞ~。

 ご試食頂ける用意をしていますよ~」

「うわ~この仕事やってて良かった~!!

 それでは私、幻のトマトを試食してきます!

 そのレポートはCMのあとで~」


 このダークブランドは、オートリファームの

企業秘密として、詳しい栽培法は秘密にされ、

1企業の社屋内でしか作られていない事で

圧倒的に需要に対し供給が出来ていない。

ネットオークション等では異常な高値が付き

幻の一品という付加価値が高まっている。

この状況で尚、人々が求めて止まないのも、

アイ自身の美貌が、品質の証明として

度々メディアに取り上げられるからだろう。


「み……見付けた……」


いつの間にか街頭モニターの前に出来上がった

大きな人混みを、掻き分けて進む男が現れた。

小汚い服装に、濁った眼をした異様な雰囲気に

思わずギョっとした人々は、身を逃すように

スペースを譲ってゆく。

モニターの前まで辿り着いた男は、まるで

張り付くようにして映像を見入っている。


「あぁ……ダークブランド様ぁ……」


ぶつぶつと何かを呟き、モニターにへばり付く

異様な男に、距離をおいていた人々も、

CMが明けると、その先が気になり苛立ちを

露わにしだす。


「ちょっと、見えないんだけど」

「あんた! 邪魔だよ!」

「どいてよー! 見えないでしょー!」


 集団の強みか、男を非難する声は次第に

増えていき、その熱量も高まってゆく。

しかし、男はそれらが耳に入らないかのように

尚もモニターに張り付きぶつぶつ呟いている。


「おい、あんた! いい加減に……いっ!!」


 見かねた1人が、その男の肩を乱暴に掴み、

モニターから引き離そうそしたとき、

ズルリ、ボタリと男の腕が肩からもげ、

地面に転がり落ちた。

骨と皮と腐った肉で出来た腕を、慌てもせず

男は拾い上げて振り向くと、モニターを

取り囲むようにしている人々の顔をギョロっと

ゆっくり見回した。

人々は息を飲み、背筋が凍り付いたように

その場で硬直しているしかなかった。

拾った腕は、男が肩に押し込むようにすると

やや湿り気を帯びたコクッという音と共に、

元あった形に接続された。


「これはこれは、驚かせてしまって……

 いやいや、本当に……申し訳ない」


そう言いながら自分の顔の皮膚をメリメリと

自らの手で引き剥がし、その下の悍ましい

頭蓋骨だけの顔を露わにしだす。

賑やかな昼間の繁華街は一瞬で地獄のような

悲鳴の波に包まれた。

こうなっては、もうテレビどころではない、

トマトを食べて、感想を口にしている

レポーターの呑気な声は、恐怖の叫びに

かき消され、あれだけいた多くの人々は

一人残らず消えてしまった。


辺りから誰もいなくなった事を見届けると、

骸骨男は再び向き直り、モニターに噛り付く

かのようにして、ぶつぶつと呟き始めた。


 ◆ ◇ ◆ ◇


 一方、外での大騒ぎなどは知る由も無く、

生放送は進行表通りに展開してゆく。

白い壁の明るい別室に移動し、用意されていた

テーブルに並ぶ、ダークブランドを使った

料理の数々を、リポーターが次々口に運び

バリエーションの無い感想を繰り返している。


「わ~最高、美味し~! トマトの味が濃厚!」

「そう、トマトの甘味旨味が凝縮され……」

(PPPPPPPPP)

「あっ、ちょっとゴメンなさいね」

「お~流石、今話題の社長ですね~! 

 こんな時にも、お仕事の電話でしょうか~?

 わあ~コレも美味しそ~!!」


アイは、試食を楽しんでいるリポーターを残し、

扉を出た所で、かかってきた電話に出た。


「ご出演中失礼します」

「分かってんだったら、何でかけてくるのよっ

 今、生放送中なの」

「超常凶悪事件の通報がありました。

 街にゾンビが現れたとのことです」

「はぁ? 噛まれて感染者が増えてるとか?」

「いえ、現れたゾンビは1体で、怪我人は無し

 そのゾンビはテレビを見ているそうです」

「何よそれ、超常現象ではあるけど、凶悪事件

 じゃないじゃないの、いい加減にして

 今は忙しいの! あんたが行きなさいよ」

「そうしたいのは、やまやまなんですが……

 生憎、今いる所が現場からとても遠くて

 それに……」

「それに?」


「何でもそのゾンビ、テレビを見ながら、

 頻りにあなたの名前を呼んでるらしくって」

「ど、どういう事?」

「ダークブランド様って……これって、

 トマトの事じゃなくてあなたの事ですよね」

「えっ……」

「なので、現場で調べてきてくださいよ。

 あなたの会社のホントすぐ近くの

 街頭モニターの所です」

「あそこに?」

「はい、ではお願いしますよ」

「ちょ、ちょっと!……まったく」


ジードからの電話は、一方的に話しを進められ

有無を言わさず、切られてしまった。

この勝手なやり方に、放っておこうかとも

思ったが、自分の名前を呼びながら

テレビを見ているゾンビが街に現れた。

そんな訳の分からない情報が、何故だか

どうしても気になってしまう。


 アイは、生放送中の番組をこっそり抜け出すと

メガネを外し、髪留めクリップを外すと

サラっと美しいロングヘアを靡かせる。

ネクタイを外し、すぱっとスーツを脱ぎ捨ると

話題の敏腕女社長大鳥居アイから、

魅惑の女戦士ダークブランドへと姿を変え

愛刀を肩に担ぎ、外へと飛び出し

現場へ向かって駆け出した。

ここ、オートリファームの社屋から、

ゾンビがいる街頭モニターのある場所までは、

歩いて3分もかからない所にある。


ダークブランドの活動は主に夜中、このような

真昼間に街中で活動するという事は稀だ。

アイは過去の悪の組織員という経歴が引っ掛かり

政府が公に認めるヒーローではない。

依頼がジードを含む、警察の一部からの物でも

ヒーロー法のお墨付きがあっての活動ではない、

闇の仕事なのだ。


 数秒で辿り着いた現場は、既に警察によって

野次馬等の統制はされており、がらーんと

人気が無い中、先程までアイも出演していた

テレビの音声だけが反響している。


「あぁ……ダークブランド様は……」


そんな中、そのモニターに1人張り付いて

番組視聴中の異形の男がアイの目に入った。


「アイツね」


アイの眉がキッと緊張感を増してこわばる。

今の今まで本人も気付いていなかったが、

テレビ出演のときの明るく、優し気な顔のまま

この場に飛び出してしまっていた。

冷たく厳しい戦士の目となったアイの視線に、

男が気付き、グロテスクな頭蓋骨剥き出しの

顔を、猫背のまま首だけでこちらへ向けた。


「おおお~これは、ダークブランド様ぁ」


 つづく

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ