第2話 精霊ナディア
ーーー時間は遡るーーー
真っ白な空間には、俺の他に1人の女性が存在していた。ピンクの髪が足元まで伸びており、その美貌はどこか造られたものに感じられるほど荘厳な面持ちだった…
『私はお主の暮らしていた地球の神の友達【トート・イーレ】だ!別の世界の神をしている。お主は先ほど地球にて死んだ!しかし、地球の神からお主の魂を受け継ぎ、これから私の世界へ転生させてやろう!』
『ぐご~!ぐごー♪』
俺はお酒の力で魂レベルで解放されていたのだろう…気持ち良く寝ていた♪
『・・』
『ちょっと…起きて頂戴!』
『・・・・』
『なんで魂のみになってすぐにそんな熟睡できるのよ!?いい加減起きなさい!!』
トート・イーレは必死の形相で俺の肩を揺らす。先ほどの荘厳さは欠片も無くなっている…こちらが素なのだろう。。
『ん…?なんだお前。。髪スゲーな?』
俺はようやく起きたようだ…
『やっと起きたわね!!時間もないし、手っ取り早く説明するわね!あなたは地球で死んだ!これからあなたを勇者として異世界転生させるわ。その際、すんごい役立つスキルを付けてあげるから、頑張って魔王を倒しまくって頂戴!!よろしくね♪』
『・・』
言っていることのほとんど理解できない…が。。
『言ってることの意味がさっぱり分からん!!っが。。俺に何か面倒なこと強要しようとしてることは分かる。お酒が入って気持ち良く寝ている俺を起こしといて、くだらんことばっかりぬかすな!俺はしたいことは自分で決める!!誰だか分からんやつに口出しされる覚えはない!
これ以上くだらん話で、俺の酒を汚すんじゃない…俺はまた寝る!もう構うな!!』
そう言って本当にまた寝るのだ。。
トート・イーレは戸惑った…今までも何人もの人間を地球から同じように転生させたことがあるが、男も女も皆、私の荘厳さと美しさに言葉を失うものだ。転生の話も最初はびっくりはされるものの皆すごいスキルをもらえると分かると興奮して喜ぶものだ。
しかし、目の前の男は全て否定した。。このまま寝ているこの男を勇者として転生させていいものか…しかし、既に魂をこの世界に連れて来ているため、地球での転生の輪廻に戻すことはできない。そして、もうこの男の魂をここへ留められる限界が近い…
『仕方ない。この世界で一番存在してても害のない生き物へ転生させることにしましょう。。異世界から転生させるすべてのものにあげてるし、【言語理解】だけはあげとくわ。』
ため息をつきながら男を転生させた。。
言語理解・・どんな言葉でもすぐに理解できるスキル。
話すことだけでなく、読み書きも可能となる。
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森へ入ろうとしたところで俺は大事なことに気づいた。
(そういえばトロールって何食べるんだ?木の実?野菜?肉?…取り敢えず何か食べてみるか?しかし、ライターもないし火もつけられないな…食べるなら調味料も欲しいなー。。さっきリンダに分けてもらえば良かったな…この姿怖いらしいし人間の街に行くと大騒ぎになりそうだ。。やはり森しか選択肢ないか・・最悪腹へったら雑草か…)
選択肢がないため、森に入り、まずは川や湖を探すことにした。水辺には生き物が集まるし、自分の飲み水も確保できるからだ。
森に入って1時間ほど歩いたところで、不思議な植物?を見つけた。バナナが半分剥けたような見た目なのに顔があり、その剥けた皮を羽にして空を飛んでいる…これは植物なのか動物なのか。。疑問は尽きないが、取り敢えず捕まえてみるに限る♪
物陰からこっそり近寄り、虫取の要領で素早く捕まえる。
『ピギャー!!助けてー。』
と必死に逃げようとしている。
『ん!お前しゃべれるの?』
実は神がくれたスキルのお陰なんだが、神に会ったこと自体を全く記憶に残ってないこの男にはそのことは意味のないことだ。。
『トロール!?しかもなぜか私の言葉も分かるみたい。。まあいい…なぜトロールが私を捕まえるのよ!?』
鳥バナナは俺がトロールと分かると、なぜか安堵の表情だ…
『なぜって?めっちゃうまそうだから捕まえたんだけど♪』
といいながら俺は匂いを嗅ぐ…
『トロールが何の冗談よ!?あなたたちは、魔素さえ吸ってれば食べ物なんて必要としない生き物なんでしょ?』
(マジか?食べ物食べなくても生きていける生き物ってすごいな!?そういえば目覚めて半日お腹減ったりしてないな…しかし…魔素ってなんだ??)
『魔素ってなんだ??トロールについて知ってることあればもっと教えてくれないか!?』
『知ってること教えるのは構わないけど、私に何も悪さしないでしょうね?』
ジト目で見てくるバナナに苦笑しそうになる。。本当はちょっと味見したいくらいいい匂いだったんだが…
『情報を教えて貰えるなら、何もしない。約束する!』
彼女?は、【ナディア】というらしい。どうやら、バナナの精霊に当たる存在らしい。。
ナディアの話によると、魔素とは魔力の欠片であり、目には見えないが世界中に空気のように広がっているらしい。魔素は、濃度の濃いところと薄いところがあり、濃いところでは魔素を視認できる場合もあるらしい。
魔素が濃いところからは【魔物】や【精霊】と言われる存在が自然に生み出されることがあるらしい。本当に濃いところからは稀に【魔王】と呼ばれるような強力な存在が生まれてくることもあるらしい。
また、魔物は体内に多くの魔素を保有し、他の魔物を倒すことによりそれを吸収し、力を増すことができるらしい。それによって最初は大した存在でなくとも成長し、進化し、中には魔王に至るまで成長を遂げることもあるらしい。
では、なぜ魔物同士が必要以上に殺し合わないかといえば、魔物には共通の大きな敵がいるからだ。1人1人の存在は小さいが、とても数が多く、様々な武器や魔法を使い、魔物を殺しにやってくる【人間】という存在らしい。
人間も、魔物と同じく魔素を体に保有しているが、通常は少量らしい。しかし、兵士や冒険者など魔物と戦うための職業に就く者はそれなりに保持しているらしく、中には、稀に【勇者】と呼ばれる強い力を持った存在が生まれてくるらしい。これまで数千年、魔物と人間の争いは続いているらしい。。
らしいらしいと連呼したが、いまいちピンっとこない情報が多すぎて、『ふむふむ』と半分流し気味に聞いていたのだ。どうやらナディアにはそれがバレたのか…
『ちょっと!!人がせっかく懇切丁寧に説明してあげてるのに、ちゃんと聞いてるの!?』
俺は目を泳がせながら
『聞いている!半分くらいは理解してると思う…』
『は…半分ですって!?こんな常識も半分しか理解できないってレイってかなりの馬鹿なの?』
再びジト目でこちらを見てくるナディア。。
『レイ?俺のことか??』
話を逸らすため話を振る。
『レイでいいでしょ?ハシモトレイジだったっけ?長すぎるのよ!』
『あーもちろん。レイで大丈夫だ!』
と笑顔でいうと、ナディアも笑顔になった。こいつチョロい♪
『…で。。俺のことなんだが、トロールについて知ってることあれば教えて欲しい。』
ナディアは疑惑の目で
『…なんで自分の種族のことを、他種族の私に聞くのかしら…トロールといえば、さっきも言ったけど魔素があれば食料を必要とせず、他種族の命令に逆らわず、争わず、この数千年魔物の世界ではそう、奴隷扱いよ!』
(なるほど…それでさっきの雑魚たちは俺を奴隷扱いしてたのか。。しかし、トロールってそんなに弱くないと思うが…さっきの雑魚たちにすら、なぜ数千年も逆らうこともなかったんだ?)
『なぜ、トロールたちは逆らわないんだ?奴隷なんて嫌なもんだろ?』
ナディアは目を瞑って…
『そうね…本人の前で奴隷扱いは駄目ね。。嫌な気分にさせてごめんなさい。』
と謝ってくる。。
『いや!大丈夫だ。俺は奴隷ではないしな!ナディアはいいやつなんだな。ありがとう』
俺は思ったことをそのまま口にする。
『なっ!?何を不意討ちに!照れるじゃないの…』
ナディアは顔を真っ赤にさせている。
『で、なんで逆らわないのかなんて知らないわ。お仲間にでも聞いて頂戴!』
(それもそうか…やはり俺以外のトロールを探すしかないか。)
『そうそう、レイはこれからどうするの?』
『特に目的はないんだが、そのうち同族と会って色々と話を聞いてみたい。。くらいか?』
『特に急ぎの用がないなら、1つお願いがあるの♪聞いてくれる?』
ナディアはウインクをしてくる…
『内容次第だが、色々聞かせてもらったし、聞かないでもないぞ!どんな願いなんだ?』
ナディアの顔がパーっと明るくなる。
『ありがとう!!さすがレイ♪レイなら願いを叶えてくれると思ってたわ。』
『だから…内容次第だと言っている。。』
ナディアは言いにくそうに語るのだった…