04 何事も土台と腹拵えから
何故こうなったというくらいいつもの3倍の量で今回はお送りします。
後書き方については現在色々と試しているので不安定なところがありますが固まり次第他の話もそっちに寄せて、加筆修正していくつもりです。
「まずはやるべき事をやる。本来なら立地とかも視野に入れた上で近辺や人の出入りの多いダンジョンを見る。それを参考にしてダンジョンを作るべきなんだが情報の入手にかける時間が惜しい。だから今からダンジョンを作る」
「今からですね。ではこちらを」
ミーコが手をかざすと、幸仁の前に透明なパネルが現れる。
「ダンジョンコアとマスターのみが使えるダンジョン機能の1つにして基本であるウィンドウです。基本的な操作はタブレットなどと共通ですよ。ウィンドウというものの認識は自由に出し入れできるスマホやタブレット程度で大丈夫です。
この他に人間が使うことのできるステータスウィンドウもありますがあればあくまで情報を開示するだけで主だった機能はありません」
「これがウィンドウか。内容的にはダンクラの様式と全く同じだな。まぁダンクラ自体がミーコの言う通りダンジョンマスター探しだから当然っちゃあ当然か。取り敢えずはダンクラと同じ様にやってわからない部分があればミーコに聞くことにする」
「分かりました。ですがその前にご飯にしてはどうでしょうか?コッペパン1つではそろそろお腹が空いてくる頃です」
「それもそうか」
ミーコに言われて幸仁は自分が空腹であることに気付いた。
「だがここには何もないぞ?さっきのパンもそうだったが、どっか他の部屋にでも貯蓄とかあるのか?」
「いえ、貯蓄などはありませんよ。私もマスターと同時にここに来たので。ですが食料を得ることはできます。先ずはウィンドウでマスター登録だけでもしてください。そうすれば説明しやすくなるので」
「分かった。これでいいか?」
ミーコに言われた通りに幸仁はマスター登録を始めていく。ダンクラと同様に入力していき、最後の名前の所で指が止まる。
「名前か…向こうの世界では俺はほぼ死んだに等しい。こうしてダンクラがリアルにできる世界に来たなら俺はダンクラのマスターとして生きていきたい。だから育ててくれた父さんと母さんには悪いけど名前は変えさせてもらうよ」
名残惜しそうに名前の所に自分の名前ではない名前を書いていく。そして全ての情報を入力し、マスター登録が完了した。
「ダンジョンマスター登録が完了しました。マスター・ユヒト。私達は貴方の来訪を歓迎します」
「あぁ…これからよろしく頼む」
ミーコの口から出た感情を含まない無機質な言葉に対して幸仁…いや、ユヒトは言葉を返す。
「さて、マスター登録が完了した事で一部レベル制限によってロックされた機能以外の全機能が使用可能になりましたので説明をしたいと思います。
まずは食事についてですね。今回ダンジョンマスターとして呼び出された方々のこの世界での生活力は当然ながらゼロに近いです。更に初期のダンジョンには食料となるものは何も存在しませんから餓死する場合があります。その不安を解消する為、ダンジョンマスターには配給システムという食事支給がダンジョンマスターとしての活動開始2年間にわたって行われます。 あのパンはその配給システムの機能で出しました。マスター登録が完了していない私ではあれが精一杯だったので」
「意外としっかりしてるんだな。こっちとしては連れてこられてかは自給自足のアフターケアなしだと思ってた」
「初めは配給システムもなかったんですがない場合、大幅なダンジョンの拡大の遅れが生じる可能性がありまして。そういった事を改善する為に作られました」
「はえー、色々考えてるもんだな。それで何が食べられるんだ?」
「ダンジョンポイントとの交換ですね。だいたい1DP=10円と思ってください。ただしこの世界の基本的な文明レベルで再現可能な分だけかかるポイントは変わってきます」
「変わるってのは?」
「例えばこの世界では胡椒や砂糖は高級品ですが希少なだけで作れないわけではありません。そういったものはマスターが元いた世界のレートと同じになります。しかしこの世界では美味しい肉牛の育成は難しいです。その結果元いた世界のレートよりも割高になってしまいます。
そして冷凍食品、フリーズドライ、化学調味料などといったものはそもそもこの世界に技術基盤さえありません。そういったものは非常にレートが高くなります。元いた世界ではカップ麺は150円前後でしたがこの配給システムで出す場合は一気に跳ね上がり、10億円レベルになります。DP換算で1億DPですね。そんなのを配給システムで出せばダンジョン経営が傾きます。ですので食べられないものという認識で結構です」
「結局体に悪いカップ麺ライフは送らないと…
それで今のDPは幾つなんだ?」
「初回ボーナスで10000DP配布され、先ほどのパンで10DP消費したので残りは9990DPですね。これからの生活を考えれば一食あたり100DP以内がベストです」
「じゃぁそれで出せるメニューの中で腹にたまりそうなのをピックアップしてくれ」
「分かりました」
ウィンドウの画面が切り替わり、約10品の料理の写真と説明文が現れる。
「その条件にあったのはこれだけですね。現状を考えますと更にその中の5品が1番適しています」
「やっぱり米はないな。この世界では食べられてないのか…」
「そうですね。米はあるにはありますが煮たり炊いたりして食べてもパサつくことから行軍中の軍の食料がなくなった場合に食べる最終的なものです。それにパンもそうですが主食に初めから味をつけておくという文化自体もないので尚更ですね」
「分かった。じゃぁこの鶏モモ肉のシチュー2つとバゲットをくれ」
ユヒトの注文は100DP以内であったが結構なボリュームで、ミーコは少し驚いていた。
「マスターは結構な量を召し上がるんですね。一応100DP以内ですが結構なボリュームですよ?」
「いや、俺が食うのはバゲット半分とシチュー1皿だけだ。半分はお前のだよ」
「えっ、でも私食事しなくても生きていけますよ?」
「俺が食ってるのに食わせないわけにはいかないだろ。それに1人で食うより2人で食う方が楽しいってもんだ。ほら、食べるぞ」
「ありがとうございます、マスター」
「本当なら机とか椅子とか欲しいところだけど贅沢言ってられないし。それじゃあ、いただきます」
「いただきます」
シチューの肉は予め焼いてから入れたのか、肉汁はそれ程出ておらず噛むと程よい旨味がシチューのスープと混じり合って口の中に広がる。異世界の料理ということもあって内心、調理も雑で不味いと思っていたが思いの外しっかりとした調理がされていた為にこれは嬉しい予想外だとユヒトは喜んだ。
「そういやこの世界で魔物の肉ってどういう位置付けなんだ。食えるの?」
「基本的には食用には向かないです。というよりもコストがかかりすぎます。そもそも魔物ですので倒すには一定の技量が無いと危険です。
ドラゴンの肉は最高に美味いなんて話はあるにはありますがそんなのが食べられるのは王家のみ。それにドラゴン自体最上級の冒険者数人が集まって漸く倒せる存在で肉の心配などされません。その上、上位竜種の鱗や皮膚は硬く、解体作業も一苦労。基本的に倒した後は必要な部位や素材だけ剥ぎ取って放置です。
まぁここ数十年は比較的大人しい魔物を家畜として引退した冒険者などが飼育し、貴族などに販売されています。市民層にも高級ですが祝いの日のメインディッシュとして人気ですね」
「ほーん、それじゃあダンジョンの方針としてはそれはアウトってわけか。肉ダンジョンなんて稼ぐ分には面白そうだと思ったんだが」
「肉ダンジョンは既に別の場所にいくつか点在してますよ。この付近にもあります。肉ダンジョンは他のダンジョンと違って市民や商人の受けが非常にいいダンジョンです。何せ肉が手に入るダンジョンですからね。目敏い大商人達はこぞってその近くに街を作ります。街さえ作れば流通路は確保され、目の前には金のなる木ですからね。商人の中では肉ダンジョンによる経済効果で巨万の富を築いたという伝説もあります。それに市民にとっては肉ダンジョンは付近の街に住めば通常よりも割安で肉が手に入る。冒険者に関しても肉さえ売れば普通に生活できる。一線を退き、安定した余生を過ごしたい冒険者にとっても生き心地のいい場所です」
「そのダンジョンを作ったダンジョンマスターはかなりやり手だな。人間に旨味を与えて継続的に人の出入りを確保してる。稼ぎは結構なもんじゃないのか?」
「はい、肉ダンジョン全てを統括しているダンジョンコアNo.3110とそのマスターは年間で100億DPを稼ぎ出しているダンジョンマスター随一の稼ぎ頭です。ですがそれと同時に他の肉ダンジョンを潰して乗っ取ったりもしている為、敵も多いです」
「乗っ取るってどうやって?」
「ダンジョンバトルの勝利報酬の1つです。ダンジョン機能にはサブダンジョンという機能があります。そのサブダンジョンはメインダンジョンと違ってダンジョンマスターの書き換えが出来ます。その機能を利用しているんです」
「メインダンジョン、サブダンジョンの両方でそっちの方向性は無しだな。敵がデカすぎる」
肉の話から派生して思わぬ話を聞けたユヒトは今後のダンジョン設計を寝ることにした。
なお、シチューもバゲットも肉ダンジョンの話が出たあたりで2人とも完食していた。
ダンジョンマスターとコアの一幕
ミーコ:ところでマスター、このユヒトって名前。何が元
になったんですか?
ユヒト:俺がダンクラで使ってたユーザーネームだよ。ダ
ンクラでは『U hit』って名乗ってたからそこから
ユヒト。まぁ元々俺の名前が幸仁でそこから一文
字抜いて語感をよくしたってのがこの名前の始ま
りだな。
ミーコ:マスターもマスター登録した時に名前を捨てたっ
て言ってましたけど、やっぱり自分の名前に思い
入れがあったんですね。