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9・これ、狙ってやってるとしか思えないんだが、そう思ってるのは俺だけらしい

 何言ってんだこのおオッサンはと思ったが、口には出さなかった。


「して、名は」


 平伏するイケメンに問うた。


「はっ、恵夢志が息子、かけるでございます」


 歳は俺より多少上で18だそうだ。だが、階納一族であるため、すでに知識の方は10年、ウデの方も8年の経験があるという。そこら辺の鍛冶師よりも上らしい。


「今後は階納を離れ、屋島にて高西家が鍛冶師として働いてもらう」


 そう言うとさらに平伏した。さあ、終わりだ。


「では、私はこれにて」


 階納氏がそう言って下がる。翔には街に住居を与えて屋島の鍛冶場にてその一党を率いて働いてもらうことになる。で、残っている二人なんだが・・・


「それで、二人は・・・」


 まあ、領主の元へ「献上」されたわけだ、どういう意味か分からない訳ではないが、どうしたもんかね。


「私は恵夢志が娘、音野おとねでございます」


「私は卯照喜うてれきが娘、ひかりでございます」


 あ、ハイ。


「音野は鍛冶師であったか」


 以前、オッサンがそのように言っていた気がした。童顔でおっとりした感じだ。歳は同じようだ。


「鍛冶を習っておりますが、今は品位の確認が主であります。自らモノを作り出す術はまだ身に付けておりません」


 という。そうなると、兄とペアで扱った方がよさそうだな。


「輝は鍛冶が出来るのか?」


 オッサンの娘で連座させられるところだったらしい。きりっとした顔立ちで切れ長の目がなんだか「デキるんです」って感じだな。歳も17だという。


「鍛冶は出来ません。階納宗家のまとめ役として、書物の事ならわかりますが」


 うん、デキそうだが、キレが良すぎて怖いです。



 そんな訳で、音野を兄と同じ住居へ送ろうとしたら断られた。なんでも、自分は領主に差し出された身だからというのだ。


「ならば、屋敷住まいで、昼は兄を手伝うというのではダメなのか?」


 どうやら、それならば構わないらしい。ちなみに、輝も同じく屋敷に住む。そして、わが援軍だ。待っていろ書類ども、これでお前らも見事殲滅してくれる!



 そして次の日から書類に立ち向かう輝は凄かった。やはり、デキる上にキレるね。俺、居なくてもやっていけるんじゃね?というくらいの凄さだった。


「資村様、次でございます」


 うん、敵には更なる増援が居たようだ。




 それでも輝の大活躍で書類どもは殲滅できた。その上、いくつかの案件は各部署での自由裁量を認めることで完全攻略も果たした。

 それからひと月もすると執務の大半は要領よく回る様になり、階納流とでもいうのか、領主付きの集団が組織され、重要決済以外を各責任者の合議で決める様に改められた。


 そうなると、ようやく時間が作れるようになるわけで。


「さて、ここのところあまりできていなかった鉄砲の練習だな。で、通貫、アレはどうなった?」


 雷管の話をしてから数か月たつ、さすがに出来たころ合いではないかと思う。なにせ、直径数ミリ程度のお皿をプレスで作り、そこに雷汞を少量詰めればよいのだから、具体的な要領を言えば十分できるだろう。


「はい、出来ております。資村さま」


 そうそう、領主となった事で、若さまから資村さまと呼ばれるようになった。これが大きな違いだろう。

 側近やこうして直接関わる者たちは「資村さま」と呼び、少し離れると「権令さま」になる。その境界がイマイチわからないが、気にしても仕方がない。


 それはそうと。出来たと言って見せられたものを見て驚いた。


「何だ?これは」


 それはどう見ても雷管ではない。雷管というのは雷汞を僅かばかり詰めた小さなお皿、もっとわかりやすく言えば「キャップ」に過ぎない。直径が15ミリ程度あり、高さが10ミリある円柱。これは、サイズとしてオカシイ。どうすんだよコレ、ビスマルクの38センチ砲用の薬莢にでも取り付ける気か?ちなみに、大和の装薬は薬嚢、袋詰めの火薬である。大抵の国の戦艦では、袋やロール型に成型した火薬を砲弾の後に詰め込むんだが、ドイツは薬莢を用いたらしい。


「はい、その底面環状に雷薬を配置しております。その筒に火薬を詰め、弾で栓をして使えないかと考えております」


 いや、それは雷管じゃなくて薬莢ではないかね?リムファイヤ式と呼ばれる初期の形式である。

 一般的に知られる、装填した弾の真ん中を叩くのではなく、リム、つまり円柱の縁の部分を叩く事で起爆するタイプだ。鍛造技術がそこまで高くなかった19世紀後半、元込め式銃が出現した頃に作られた金属薬莢の雷管形式である。


 そもそも、金属のプレスと絞りで薬莢を作るのが難しかった時代、欧州の早合である「ペーパーカートリッジ」にそのまま雷管を備えた紙薬莢というのが薬莢の始まりだ。


 そもそも、銃や砲は元込めであれ先込めであれ、お尻にあたる尾栓をねじ止めして密閉しない限り、ガスが漏れることになる。そのため、大型砲では開閉式の尾栓にネジが切られ、しっかり密閉できる構造のモノが多いが、銃や小口径砲ではそうもいかないので、薬莢自体がガス漏れを防ぐ栓の役割を受け持ち、多少隙間の出来る尾栓を補う様に作られている。


 そのため、紙薬莢では、栓の役割を果たせず、後部からのガス漏れを防ぎきれず、すぐさま金属製薬莢が開発されることとなった。最初の金属製薬莢は、薬莢内に雷管を置き、雷管を叩けるように薬莢自体にピンを差し込んだ、その名もピンファイア式。普通は銃側にピンがあって、薬莢の底面にある雷管を叩く、しかし、ただプレスして絞った管でしかない最初の金属薬莢では、雷管の置き場が薬莢底面にはなく、内部に雷管を置き、ピンを薬莢に差し込む必要があったようだ。


 その次に生まれたのが、コレだよ。プレスして薬莢の底面にあるリム、縁の折り返してある部分の内側に起爆剤となる雷汞を仕込む方法。今でも一部の銃で使われているらしい。が、主流は薬莢の底面真ん中に専用の穴を作って、そこに旧来からある雷管キャップを仕込む方法だ。


 まあ、長々と説明したが、気が付いただろうか?

 

 薬 莢 を 使 え る の は 元 込 め 銃 で あ る 。


 例えば、銃床の先でパカっと折れる散弾銃。あんなのでもあれば、これが使えるかもしれない。だが、通貫が持ってるのはこれまで通り、銃口から火薬と弾を落とし込まなきゃいけない先込め式の火縄銃なんだよ?


「これ、どうやって使うんだ?」


 


 

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