6・話はそんな簡単に進んでくれない
雷管というものを提案した事について、通貫は理解できたようだ。
ただし、爆発事故の話は来るが、雷管が出来たという話は今のところ聞かない。
「では、若さま、わが屋島の産業について・・・」
今日も火可弦能が教鞭をとっている。そう言えば、かの変人は山師でもあったななどと思いいたってしまった。
山師で発明家で作家だっけ?相当だな、おい。
で、屋島だが、何と凄い資源大国。ここから見上げた山の山腹はその多くが鉄鉱床らしいじゃないか。相当な量だな。億トンとかいうレベルを超えているんじゃないか?なんせ、山脈丸々一つなんだろ?
「このように、屋島南嶺山脈には鉄が豊富にあります。中央渓谷には伝承にもある鉱物が多く散見されており、北嶺山脈には銅や鉛、錫なども豊富に存在しております。長崎の鼻周辺の北端山塊には火石があり、その採掘もおこなわれております」
火石って何ぞと思ったら、どうやら石炭の事らしい。そして、伝承と呼ばれるものが東では重視されている。
鉄鉱石が見つかったことを契機に、屋島には神話時代から階丹氏が鍛冶を行っていたという。今でも階丹一族は鉱業の元締めを担っている。
「そして、初代様よりのご神託によって鍛冶を始めた階丹家には伝承の御業が伝授されたとされ、今でもその言い伝えに沿った鍛冶を行っております」
う~ん。よく分からん。鍛冶を神事としているというのだろうか?
「階丹氏は御業によって、高炉を作り、水車動力による鞴や鉄鎚を用いた大規模な鍛冶が出来ます。何よりすごいのは、高炉で溶かされた鉄を炭も無しに熱した状態で変性させる坩堝炉を持っている事です。この構造は秘伝とされておりまして、一族とごく一部の者しか知り得ない伝承の類です」
などと淡々と述べているが、何言ってるかイマイチ分からない。
「それは、アレか、階丹というのははるか1800年近く前から同じことをやっているという事で良いのだろうか?」
伝承やら御業やらご神託やらとあるが、それが鉱業技術ならば今ごろ産業革命どころじゃないだろうに。
「いえ、一時は『神の国』と呼ばれる発展を遂げたのだそうですが、1500年前に起きた大津波によって多くの技術や文献が失われ、生き残った一族によって再興がなされたものだという話です。東においても伝承の書は秘書とされ、今ではそれがどこにあるのか、誰にも分からないと言われております」
なんだよその超古代文明モドキな話は。
「その、階丹の作るものは凄いのか?」
「それはもう、非常に硬い鋼はもちろんの事、錆びない鋼すら作り出すことが出来ます。彼らには伝承の御業がありますから、作れないモノの方が少ないでしょう」
火縄銃の時代にステンレスらしきモノやら鋼材を作り出しているらしい。なんともすごい集団だな。
「ところで、火石は鉄を作るのにつかわれているのか?」
製鉄と言えばコークスだからね。まさか、コークス知らない連中がステンレス作ってるとは思えない。
「使われております。木炭の様に一度炭状に蒸し焼きにすることで石の炭を得て、それを利用しております。これを石炭と呼んでおり、煙も少ない事から暖房用や調理用にも使っておりますよ」
うん、あった。
「それだけのものがあるんだ、人力や水力以外で動く機械もあるんじゃないのか?」
ここまで来れば蒸気機関は間違いないと思って聞いてみたのだが・・・
「伝承には鉄でできた乗り物があったりするようですが、津波の後、その様な技術はすべて失われてしまっております」
残念な事にないらしいな。
「館の書物にあったモノを再現してみないか?」
俺はそう言って弦能に蒸気機関のメカニズムを教えてみた。
「なるほど、これは面白そうですな。ただ、これは水を使うものと同様にかなり圧力が無ければ動きそうにありません。蒸気にそんな圧力があるんでしょうか?」
やってみればわかると言って、はぐらかした。なんせ、詳しい事は知らんから。
そういえば、地球は丸い話はどうなったのかと思ったが、少し見ない間に調査していたようで、早くも大地が曲面であるらしいことを理解していた。流石にパネェよ、この変人。
物は次いでと火縄銃がどこから伝来したのか聞いてみたが、どうやら大陸から来ているらしい。それも玄ではなく、もっと南の島国である中という国だという。その南に基という国もあるそうだ。
では、伝承で武器はないのかと聞いてみたが、どうやら火薬と銃に関してはあったそうだが、これに関しても詳しいことは分からないらしい。
さらについでに周辺だけでなく、世界情勢に関しても聞いてみたのだが、文明レベルは大抵は中世あたりという話だ、所によって10世紀ごろかいなという地域や16世紀ごろという地域があるというのは、地域格差として当然だろう。
ちなみに、屋島で作られている船は木造船だった。ステンレスは船には向かず、鋼材の類はあるが、伝承としての「鉄の船」以上の話はなく、技術も無い、或いは失われている様だ。ただ、中では鉄の骨格を用いた船が作られているという話で、屋島でもそうした研究は始まっているとの事だった。