42・サヌカイトという名前なのに知らない鉱物な件
LEDモドキがある東はさぞ技術が進んでいるのかと思ったが、屋島と違って鉄鉱石などの鉱物資源が少ないそうで伝承はあるがそれを生かすことは出来ていないらしい。
何でも、産出した銅を精錬して何とか電線を作ることは出来ているが、鉄は砂鉄しかないので大きなものは作れていないのだという。そのため、発電機や磁石なども大規模とはいかず、何とか実験レベルの段階で、LEDモドキを開発はしたが、実用化には程遠いそうだ。
「ならば、屋島から鉄を送ればそれらのモノが作れるか?」
という俺の問いに喜々として喜ぶ平禄。
「そうしていただけると助かります」
という事で、早速東への鉄の輸出を始めることになった。そして、こちらでも発電機の開発を行う。そして、対価として鉱石燈を購入していくことになった。
あれ?電線あるといったが、被覆してんのか?
「平禄、電線はあるといったな?裸電線では感電するのではないか?」
平禄は実験で使ったLEDセットを持ち出して電線を見せてくれた。
「なんと、よくご存じで。ですが、感電の心配はございません。このようにカズラの皮を使い被覆しております。東の南岸、美馬に生育するカズラは皮に伸縮性があり、加工しても伸縮性を保つ上、熱によって容易に接着できる特性を持ちますので、このように」
そう言って電線を俺に見せる。うん、樹皮っぽい質感だが、樹脂やゴムとは少し違うがよく似た性質の被覆がされている。カズラって、アレだろ?つり橋の材料に使う奴。違うの?
サヌカイトが名前だけで別の鉱物だから、カズラが別の植物でも驚いちゃいけない気がする。ゴムの木が無いのに、ゴムっぽい材料あるとか、どんだけ恵まれてるんだろうね。
ちなみに、平禄に蒸気シリンダーや駐退器見せたら、シーリングに驚かれた。そりゃあそうだ、樹脂ではなく、金属と紙でシーリング作ってんだもんね。
で、耐油、耐熱処理したカズラ製シールがすでに東にはあるとかで、早速それを作って貰い、シリンダーの気密やら動作性やらが格段に向上したのは言うまでもない。
さらに、化学分野については東は相応に進んでいるらしいが、如何せん、屋島など他の島々との情報交換ができておらず、部分的な研究の状態で停滞しているんだとか。
「何?薬品の反応で電気を発生させるのですか?」
俺には色々分からない説明を弦能から受ける中でそんな話が耳に入った。
「はい、二つの溶液を反応させることで一時的に電気を発生させることが出来ます」
そういえば、機雷作ったなと思いました。
触発機雷の信管がどうなっているか知っているだろうか?
海の中で何か月も海水に浸かりながら故障も腐食もせずに起爆する信管。
しかも、触角に触れただけで起爆する信管。
どうなってると思う?
実は、あの信管の中には薬品が入っていて、触角が変形することで中の薬品が化学反応起こして電気を発生し、起爆させる仕組みなんだ。
そのため、薬品さえ劣化しなければ何年でも機能を失うことが無いんだ。
どうやら東にはその様な考えはなかったようで大変驚いている。
「なるほど、反応で発生させた電気で起爆ですか。そのような発想はありませんでした。どうなるかこちらで研究させていただきます」
流石に今まで考えていなかったものがいきなり出来上がる訳ないよね。でも、研究始めてくれるならより高性能なモノが出来るよね。
「ぜひやってくれ。だが、まずはシールの性能向上を優先させてくれ」
そう、シールはカズラを使う事でものすごく動きが良くなった。しかし、耐久性については何分初めてなので、思ったほどではなかった。そのため、まずはシールの性能向上と用途の拡大を優先してもらう事にした。
もう一つの発電関連だが、こちらは非常に順調だ。
なにせ、実験レベルでは完成しており、実用型を作ることさえ出来れば良かったので、今は実証機を作って実証試験が行われている。この試験さえ終われば鉱石燈の普及が出来ることになるだろう。発電機があるという事はモーターも出来るので、これも今、開発中だ。モーターがあれば様々な分野で飛躍が期待できるかもしれない。
そしてもう一つ、電気と言えばガソリンエンジンがある。
電気を使わないディーゼルエンジンもあるが、どうやらこの世界には未だ内燃機関の概念が存在しないらしい。
いや、それは正確ではないか。
内燃機関という発想はあるのだが、圧縮による熱効率に関する研究が行われておらず、内燃機関の実用化に至っていない。無圧縮で効率の低い模型しか作られていないらしい。
が、今、屋島においては蒸気機関も加圧して沸点を上げ、蒸気温度も飛躍的に上げて多段膨張機関の効率を向上させようとしている。
きっと弦能がやっている研究とうまく組み合わせることが出来れば、内燃機関も作れるのではないかと踏んでいる。まあ、完成はずいぶん先の話になってしまうとは思うが。




