40・キタンの将軍がやって来た
玄とキタンの停戦によって、ウルプの父が屋島へやって来るという話が持ち上がった。
俺は二つ返事でそれを了承した。
それからは色々準備を行った。特に、打管式銃や狙撃砲の売り込みの準備に余念はない。擲弾筒モドキも用意して準備万端だ。
あ、蒸気船についても性能が安定して、武装も陸上ほど重量を気にしない分、駐退器の性能にも妥協無いものを装備できたことで、これまで40ミリだったモノが50ミリに大口径化している。
さらに、ボイラーや缶の開発もあって出力も上がって外航船への搭載試験も始まっている。まあ、未だ蒸気船というよりは機帆船という奴ではあるが。そう、まさに黒船みたいな奴が出来上がっている。
こうしてみると、どんどん進化しているのが分かる。
そんな感慨にふけっていると、とうとうウルプの父親が来訪するという知らせが舞い込んできた。
あった第一印象はガチムチの武将然とした人だという予想を裏切って、その辺に居そうなイケメン中年だった。
「初めまして。ウッコ・ヤッテーンマキッだ」
という挨拶の声のトーンもやや高めで、威厳のある低めの声を予想していたのとは対照的だ。ただ、その声のトーンから、戦場でもよく通るだろうとは想像できた。
社交辞令をお互いかわして、儀礼的な式典をアレヤコレヤと行って、1日目が終わった。
無駄に疲れた。そして、何やったかまともに覚える気すらない。輝に任せていたのだが、夜、非常に怒られた。
次の日は兵器工房や港の視察となり、通貫や弦能、翔がウッコ氏を案内して回った。俺も付いて回ったが、明日の準備の事で頭が一体だった。
そして、夜、視察についてあれこれ音野に聞かれたが、明日の事で頭一杯で聞いていなかったと言ったところ、涙目で怒られた。
確かに、自分が主催した儀礼式典の内容を他人に任せたり、視察内容を聞いていなかったというのはマズい気はする。うん。
そんなこともあったが、とうとう本番である。
今回使用するのは打管式のハーフライフル銃、狙撃砲、擲弾筒モドキである。
打管式と擲弾筒モドキは装備する鉄砲隊による射撃実演が行われた。
狙撃砲は装備する部隊が無いので、ウルプが直接指揮する精鋭によって運用されることになった。
ウルプと部下がウッコ氏の前に出る。
「父上、これより私が提案した狙撃砲の実演を行います」
ウルプはサッと姿勢を正して敬礼し、そう言い残して、部下と共に狙撃砲の下へと向かった。
「狙撃砲とは何かね?」
ウッコ氏にそう聞かれたので、簡単な説明を行うと感心している。
「なるほど、小砲をもって直接敵将の陣を狙うか。ヤッテーンマキッの戦術には適した兵器だな」
そう言って感心していた。
「目標!第一の陣、よーっい。撃て!!」
ウルプの声が聞こえ、砲声が鳴り響く。
そして程なく、数百メートル離れた陣へと着弾し爆炎が上がる。
「ほう、爆裂弾を使うか。なるほど、それならば効果も大きかろう」
すでに俺から基本的な話は聞いているのでそこまで驚きはしていない。
「陣地転換!」
ウルプがそう叫ぶと四方に展開していた砲の足を折りたたんで二本の棒のようになった。神輿と言うか、担架だろうか?前後から兵が担いで早足で移動していく。
「ほう、小砲とは言え、反動も少ない上にあのように簡単に持ち運べるか」
その姿にウッコ氏も驚きを隠せないでいた。
「資村殿、この狙撃砲という武器は非常に有効ですな。今後の戦いでコレがあれば大なる事は間違いない」
そんなことを話しているうちにすでに百メートルほど移動して、砲の射撃準備が行われている。
「目標!第二の陣、続けて二発、よーっい。撃て!」
ウルプの声と共に間隔を置いて二発の砲声が聞こえる。
「元込め砲か。わずか二人でああも軽々と運べるうえに素早く撃てる。敵将の陣や輜重の集積所を狙うにはもってこいだ。して、アレが可能ならば銃にも応用できるのではないかな?」
ウッコ氏は気が付いたようだ。元込め砲があるなら銃もあると。
そして、その辺のイケメン中年ではありえない眼光で俺を射すくめてきた。
「出したくない理由は分からないでもない。小砲とはいえ、アレならばそう簡単に敵の手に落ちる事も無い。が、銃となると敵陣に斬りこむこともある故、敵に渡る危険は非常に高くなる。そう言う事ではないのか?」
あまりに的確な推測に俺は頷く事しか出来なかった。
「そうか。しかし、それは杞憂、いや、隠しても無駄というモノではないのか?屋島は今後の戦いにおいて銃を使う、すでに使っていると見ることも出来ようか。ならば、すでにこの地に尋常ならざる新兵器がある事は玄の知るところであろうな。ならばだ、それがいかなるものか知ろうとする。知れない場合は自ら知恵を絞る」
そう言って俺を見る。ウルプはと言うと、すでに第三の陣地へと移動しようとしている。
「たしかに、屋島の工房は簡単にまねの出来るモノではない。が、同じことは誰かが思いつく物でもあるだろう。資村殿は我らに旧式の銃を引渡すつもりだな?」
俺はそう問われて頷く。
「ならば、あの雷管というモノが玄や諸の手に渡るのは時間の問題だとは思わぬか?アレさえあれば、屋島ならずとも元込め銃を考え付こう。その時は、敵味方が同じ条件での戦いを強いられる」
言わんとすることは俺が以前考えていた通りだ。
「そもそも、我らがあの狙撃砲を手にすれば、その構造を習って銃を独自に作り出す可能性を考えたかな?私ならば、あのような優秀なものが手にはいるならば、すぐさま模倣しようと考える。すぐにできるかどうかは別であろうが」
なるほど、確かにそこまで考えが及んではいなかった。なんだかんだで俺は平和な地からやってきて未だに平和ボケが抜けきってはいなかったようだ。
「なに、そう思い詰めるような話ではない。娘からは様々な条件を付けられている。そう簡単に模倣を受け入れる気はないという態度だった」
そう言って、どこか俺を諭すような顔になっていた。
「そこまで思い至ってはおりませんでした。しかし、そうですね、貴国において容易に製造可能な方式の元込め銃を提案できなくはありません」
俺はそう返すのがやっとだった。
「そこは、『製造させるが工作機械を買え』という所ではなかろうか?」
ウッコ氏はそう言って笑った。
その夜、ウルプからこっぴどく絞られた訳だが、一般向けの打管式銃の販売は行う事となり、キタンでの製造を前提にスナイドル銃モドキの設計と工作機械の輸出も行う事となった。
やはり、ウッコ氏はウルプよりも一枚上手だったという事だろうね。




