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4・ある意味でコロンブスの卵だったのかもしれないね

 矢を飛ばすのは無理だという。それは俺自身も分かっていた。火縄銃しかない時代の技術で、たった2センチ弱の口径しかない装弾筒サボ弾なんか作れるとは思えない。


「確かに、言われるとおりだ。ならば、羽根つきの羽根の様な弾ならどうだろうか?」


 通貫はさらに考えていた。


「若さま、羽根を鉄砲で撃ちだす意味は何でしょう?」


 その結果の疑問がこれだった。


「現在の弾はモノによって飛び方がバラバラではないだろうか。少しでも遠くへ飛ばすにはそのばらつきを減らす必要がある。羽根は承知の通り、種に付けた羽根によって素直な飛び方をする。鉄砲で同じような効果を出せれば、もっと誰もが遠くの的を狙えるようになるのではないだろうか?」


 まあ、これはもしかしたら理解の外かもしれない。丸球が当たり前の時代に他のモノを飛ばそうというのだから。

 ただ、ここで間違ってはいけないのだが、現代の銃弾や砲弾の様な紡錘状の銃弾にしてしまうと、これはまともに飛ばなくなる。

 ライフリングを施すことで回転力を得て安定する事であの形で飛ぶのであって、ライフリングのない火縄銃では難しい。銃弾の安定が無く、逆に弾があらぬ方へと飛んでいく「横弾」になってしまいやすい。


 解決策は、鼓型や銃弾型だが、釣鐘状に銃弾の内部を中空にして、重心を前方に寄せたフォスター・スラッグと呼ばれる形状が好ましい。

 スラッグ。そう、名前の通り散弾銃の1粒弾の事だ。ライフリングのない散弾銃において安定して飛ばせる弾として今でも使用されている。さらに改良された弾がライフルド・スラッグと呼ばれる弾に溝を切った代物だが、これは当初、この溝で風を切って回転するように考えられたものの、実際にはそのような効果はなく、銃身との摩擦を減らす効果のみが認められ、今でも使用されている。まあ、モノによってはフォスター・スラッグにも浅い溝を切った弾が存在しているが・・・


 フォスター・スラッグとはというのは、元を質せば、ライフル銃用のミニエー弾と構造は同じだ。重心を前方において、羽根の様な直進性を得る。そこにライフリングによる回転を加えるかどうかの差しかない。この回転の差が射程の差や威力に大きく影響はするが、いきなりライフリングを切るより、フォスター・スラッグから始めた方が無難だろう。


「言いたいことは分かりました。しかし、弾に羽根を付けても意味はありますまい」


 通貫は意図を理解してくれたらしい。やはり、香川の変人と同じ類の人かもしれない。


「そう、羽根ではそもそも、カルカで突けば潰れてしまうもの。なので、弾を釣鐘の様に作ると良いだろう。弾の後方の中空の部分が羽根の役割をしてくれるはずだ」


 通貫はそれを聞いて唸っていた。首をひねり何かをつぶやいていたのだが、ふと俺を見る。


「なるほど、鉄砲の事ばかり考えていては思いつかない発想です。そして、矢羽や羽子板の羽根などという全く別のモノから思い至るというのは、若さまの様に柔軟な発想が必要になりますな」


 そして何やら納得したらしい。



 そんなことがあってからも俺の日常はいつも通りだ。


 国の歴史についても教わったが、東といわれるこの国は江戸時代のような形態、或いは中世欧州の王制国家の形態というのか、封建国家として成り立っているらしい。


 俺が居るのは屋島というところだが、東本島から離れているため、統治は屋島の俺の家、高西こうざい氏が行っている。先の武将たちもいわば高西家の私兵という訳だ。

 島の大きさについては誇張や伝承的な類の話しかないが、端から端まで半月という事から、少なくとも500km程度の長さがあると思う。もしかしたらもっとかも知れない。


 俺の住む館がある街は屋島と呼ばれ、島の南東、大洋に面したところにある。山を挟んで反対は壇ノ浦で、そこにはキタン海峡がある。西へ行けば長崎の鼻という場所があり、そのさきを屋島海峡という。水道の内側は大陸があり、屋島と大陸の間にはキタン海という内海が広がっている。まあ、日本海みたいなもんかもしれんが、屋島が500km程度なら、キタン海の規模は日本海ほどではないな。


 ちなみに、キタン海峡とは言うが、対岸ははるか遠望する程遠い。それに対して、屋島海峡というのは対岸が見えるほどに近い。

 キタン海の対岸は概ねキタンという国の領土らしいが、屋島海峡の向こう側は玄とか言う国があるらしい。名前からしてヤヴァイよな。きっと元寇があるんだろうと予想が出来る名前だ。


 

 街へ出歩く事さえできないのでイマイチわかりにくいのだが、屋島は鉱物資源が豊富で、かなり栄えているという。

 鉱山があるのは島の中部で、山の中が大半らしい。そこから沿岸部へと運び出して製錬している様だ。

 山系がキタン海側がなだらかなので、主にキタン海沿岸に製錬所が並んでいるという。

 たいして屋島の街周辺は平野と言って良い地形であり、主に農業がおこなわれている。主要産物はジャガイモ、ソバ、麦類でコメはあまり作られていない。



 などという事を学んでいる間にフォスター・スラッグ擬きの弾丸が出来たらしい。


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