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38・課題は克服した。しかし、新たな課題が待ち構えていたようだ

 とうとう?ようやく?


 蒸気船が出来たというので視察に行く事となった。


「ほう、これはなかなかのものだな」


 キタンの協力もあって船自体にも全く不安が無い。


「ありがとうございます」


 弦能がにこやかにそう言ってくる。


「しかし、問題は、この船ですとキタンにも貯炭所を設けなければ往復できません。砲の搭載を制限し、航海日数も最低限として、燃料庫を確保しているのですが、ボイラーはかなり燃料を食います。しかも、船自体は非常に丈夫に出来ているのですが、海が荒れた場合、水車の効率が極端に悪くなり、進めなくなることも考えられます」


 完成したのは良いが、初期の試作で判明していた外輪船の欠陥についてはほとんど解決策が見つかっていない。

 というか、その様な欠陥があるからこそ、動力船はスクリューへと移行していったわけだ。


「とりあえずは風のない時に航走できるというだけでも十分だと思うぞ?これから多段機関の開発や高効率ボイラーが出来上がれば大きく改善されていくだろう。ところで、スクリューはどうだ?」


 そう問うと、


「資村さまの言われた形に成型しているのですが、非常に難しいの一言ですね。効率が良いのは模型試験で分かったのですが、実用品となると金属の精密加工が必要になります。加工を間違えると定常回転が出来なかったり、振動で軸をゆがめたり壊して暴れ出すという結果が出ておりますので、加工技術の習熟と量産技術の確立にいましばらくの時間がかかるかと」


 スクリューは重量物だけに、様々な問題を抱えている様だ。



 そんな湿っぽい話もあるが、まずは完成した蒸気船の試走だ。


 俺も乗り込んで蒸気船が動き出した。


 この船は帆船と言うには少々小さく、大きさとしてはちょっと贅沢な釣り船といったくらいだ。なので、帆を張ることは出来ない。純汽船と言えば良いのかな?


 そして、砲ではなく銃を大型化したような艦載砲?が備え付けられている。口径は40ミリ程度だろうか。



 こいつは捕鯨のキャッチボートよろしく、砲艇として沿岸で使用する目的を持って作られているらしい。


 試走では屋島の港を出て沖合まで走り、全力運転を暫く行う。


 その時、キタンからの高速船、当然帆船だが、が、蒸気船を追い抜いて行った。


「・・・・・・」


 俺はそれを眺めていた。


「資村さま、如何なさいました?」


 弦能にそう聞かれたので、帆船に追い抜かれた話をしたが、その意味を理解できていないらしい。


「ええ、あれは高速船ですからね」


 そう言って平然としている。


 確かに、この蒸気船は櫓漕と比べれば速いし速力が平均している。が、高速帆船に比べれば未だ見劣りする程度でしかない。


 それも仕方がない面はある。外輪船なので効率の面でたかが知れている。機関を強化したからと言って高速帆船を出し抜くのは無理があるだろう。高速化にはスクリューの実用化が必須だ。


 

 そんなことを思いながら帰港した。


「どうでしたか?」


 弦能にそう聞かれたので、好評しておいた。なんせ、急がせたからと言って良いものが出来るわけではない。まずは技術の習熟や蓄積からだと考えている。もう、俺が細かく指示を出せる範囲を超えている訳だしな。後は専門家に任せるしかない。




 そうこうしていると、通貫もモノが出来たとやって来た。


「出来ましたぞ。これならば砲の射程距離以上の測距も可能です!」


 そう言って持ってきたのは、前世、体験航海で乗艦した掃海艇に据え付けられた測距儀によく似たモノだった。


「そうか、それは良かった」


 そう言って俺も覗いてみたが、前世でもそうだったが、俺にはよく分からなかった。


「よし、これならいけそうだ。早速量産に入れるように準備してくれ」


 そう言うと、通貫は喜び勇んで駆け出して行った。


 こうして蒸気船と測距儀が出来た。沿岸からの射撃や船上からの射撃においてもより、砲の性能が生かせるようになるわけだ。



 そう思っていたのだが、どうやら事はそう簡単ではないらしい。


 今、弦能と通貫が俺の前で思い悩んでいる。


「船に装備した測距儀を用いて砲撃を行ったのですが、思いのほか当たりません。距離自体は大きな誤差が無いんですが・・・」


 二人してそう言う。


「そうか、そもそも、動く船から遠く離れた目標を狙うのは難しいからな。目標との距離だけでなく、時には船の速度まで考慮に入れなければ目標に当てられない。相手が動く船となればなおさらだ」


 そう言うと、通貫が何かに気が付いたらしい。


「そうです。それです。動体目標を狙う場合、地上における砲撃計算がそのままは当てはまらないんです」


 そう言って何やら余計に悩みだしている。


 いや、そんなの当たり前でね?と、俺は思った。


 大砲であっても、所詮は投擲兵器に過ぎない。ミサイルみたいに誘導できるわけではないから、動く目標にはその移動量も加味して見越し射撃しないと当たらない。


 その辺りの話をすると、何故か二人が頭を抱え出した。


「資村さま、そうしますと、まず必要なのは、今ある各砲の砲弾速度という事になりますな。口径ごとに砲弾速度を計測し、その上で射撃計算に距離や相手の移動量を加味していかなければ・・・、簡易な計算ではどうしようもありません。専用の計算機を作らねば・・・・・・」


 まだそんな交戦距離ではないと思うが、もしかして、無煙火薬と黒色火薬って初速からして違ってくるというのだろうか?


 問題が解決したようで、何も解決できていない・・・・・・

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