36・早くも出来上がった
連発銃は意外と簡単に開発されてしまった。
が、前世の20番散弾カートリッジに相当する15mm薬莢を5発ともなると、弾倉は長さ10cmを超える大きさになっている。この長さがあれば、7.62mmNATO弾なら10発は装填可能な大きさである。
そのため、一般的なボルトアクション小銃と違い、着脱式弾倉になっているのは、まあ、仕方がない。いや、先進的だ。
「完成はしましたが、運用者が困っております。これまでは弾入れを腰に付けていれば良かったのですが、このような箱を装備するとなると、兵士が個々に行うのか、補給の際に輜重で行うのか。いずれにしてもこれまでとは組織や編成を変えていく必要が生じてしまうとの事でした」
特に操作上の不具合もなく、さすが翔と思っていたらこれである。
「資村さま、ちなみに、この箱はどれほど必要になりますか?銃だけの製造ならば良かったのですが、このような箱も同時に必要となれば、製造にもかなりの規模を要します」
何と・・・
迂闊だった。そして、今更に思い出したことがある。
知り合いのミリオタに聞いたのだが、5.56mmNATO弾の威力や射程の不足から新しい弾薬が開発されたという。当然、口径が大きくなり、銃身を交換しないといけないのは当たり前なのだが、もし、7.62mm弾の様に、根本的に5.56mm弾と同じフレームが使えないというのでは、銃の更新にも多大な支障があるという事で、5.56mm弾のサイズを前提にし、弾倉や銃のフレームを極力供用出来る前提で、その弾薬が開発されたのだという。
そのため、5.56mm弾用の標準的な30発弾倉に20数発装填して、銃身と機関部の部品を交換するだけで、5.56mm小銃のフレームをそのまま使用できるようにしたんだとか。
そこまでやるのも、銃一丁に付き、弾倉は4個程度は必ず必要になるためなんだとか。
なんせ、銃を新たに作ると弾倉も当然新しくしなくちゃいけない。しかし、既存の弾倉が膨大に備蓄されていると、それはすべて廃棄となり、弾倉の数がある程度揃うまで、銃を前線に出すことも出来ない。
そのため、極力5.56mm弾用のモノを供用しようとしていたんだとか。
まあ、そこまでやっても5.56mm弾の備蓄が問題となって、現行の銃の命中率を上げるためにスコープやドットサイトといった照準器具を配備することで問題に対処しているそうだ。
そうなると、今の生産能力では、一丁当たり4個もの弾倉を持たせ、後方で弾を弾倉に装填させるというのは、ただでさえ先込めから元込めへの銃の更新とそれに伴う部隊改編が行われているところへ、新たな混乱を招くことになりかねない。
「なるほど。わかった。ところで、この弾倉は銃に取り付けたまま、銃の上から5発装填することは可能か?」
固定にしたのでは都合が悪い。連発銃は撃ち残しの弾を下から取り出せる構造になっている。弾倉式の場合、弾倉ごと取り外すことが出来るのが利点だ。
利点を残して、使い方を変えることが出来れば、このまま使えるかもしれない。
「はい、銃本体の構造には根本的に手を付けていませんので、上からの装填はこれまで通り可能です。もちろん、押し込めば弾倉にも込められます」
というので一安心。が、一発づつ手で押し込んだのでは単発銃と変わりがない、連発銃なのだから、挿弾子も同時に開発してもらう必要がありそうだ。
「そうか、でだ、銃にしろ、弾倉にしろ一発づつ押し込むのでは時間がかかる。必要数の5発をひとまとめに出来る器具を作れば、一気に装填可能だと思うが」
俺がそう言うと、翔も何やら閃いたらしい。
「それでしたら、5発ひとまとめに箱に入れてしまえば・・・・・・」
うん、それはエンブロック・クリップな。それだと弾倉ほどではないが、製造に手間がかかるんだが。
「それだと結局、新たに箱を必要としないか?弾の後端の縁を挟み込む器具さえあれば十分可能だと思うが」
俺がそう言って、弾とクリップを書くと、翔もなるほどと頷く。
「確かに、これならば製作も簡単です。銃の方に少々細工をすればすぐにでも使えるでしょう」
そう言って僅か数日で仕上げて持ってきた。射撃場で装填から射撃までを実演してくれたが、うん、これなら即採用できそうだ。
「これならば、弾薬嚢を新たに作らずとも、5発ひとまとめの状態で納め、銃へと迅速に5発を装填し、射撃することも可能です。これまでよりも飛躍的に効率が良くなりますな」
実演には武将も呼んでいた。その彼もこれには満足なようで、即採用と相成ったが、単発銃の配備がある程度進んだ歩兵隊への配備では混乱をきたすので、まずは先込め式を装備している鉄砲隊の更新から始めることとなった。
「この銃であれば、これまでとは違い、鉄砲隊が十分に歩兵隊の支援に回ることが出来ます。棒火矢と共に、支援部隊を編成するのが今必要な事だと思われます」
武将の進言に従う事にした。
そうなると、先込め式が余って来るのだが、これは他の東の地方へと供給する事にしようか。本当なら、キタンが受け入れてくれればいいのだが、銃より弓を信頼しているのでは無理があるだろう。




