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34・問題の一つは解決した

 ウルプの子が産まれた。女の子だった。


「名前を決めないとな」


 俺はどんな名前にしようか悩んでいたら、ウルプが案を出してきた。


「ビルギッタはどうじゃ?」


 ん?


「びるぎった?」


「そうじゃ!」


 いや、キタンでは普通の名前かも知れんが、屋島では絶対あり得ない。


「いや、それはちょっと・・・、ウルプが言う様にキタンへ嫁がせるとしてもだ、これから十数年屋島で育てるんだぞ?そのことを考慮してほしい」


 そう言うとどうやら不満そうだ。


「ウルプ、蛍なんてどうだ?」


 そう言うと、あからさまに嫌な顔をする。


「キタンでそんな名前はあり得んぞ。嫁いだ先でいじめられかねん」


 やり返された。


「ウッラはどうじゃ?」


 うん、これまた問題ありだ。


「それも、屋島ではなぁ~」


 そもそも、キタンと屋島は近くて遠い国だ。


 まず、俺たちの国であるあずまが屋島を手に入れたのはほんの300年前の事。そして、キタンがレタル、まあ、前世でいえばツンドラとかシベリアとかそんな地域を越えてやって来たのもその頃だ。


 もともとは遥か西に住んでいたキタン民族は暖かい地を求めて東へ東へとやってきた歴史がある。何故南へ行かなかったかって?


 南にはすでに玄を築いた遊牧民族が闊歩していたからだ。彼らを避けて北方を流浪し、ようやく南下してきたのが今のキタンという訳だ。


 そのため、西方の習慣を持ったキタンと東の文化は全く持って相容れない。東の習慣や言葉の語源は玄に征服されてしまった伍や南方に逃れた基、或いは独立を保っている中にあると言われる。

 そんなわけだから、名前一つとっても全くもって双方が納得するものとなると難しい。


「なんでダメなんじゃ、ならば、センニはどうじゃ?」


 まるで分らん


「それもなぁ~。灯ではダメか?」


「意味は分かるが、キタンでは通じんぞ?」


 うん、それは分かる気がする。


「お互いの文化が違うからな。子供の名前を双方が納得するというのはなかなか難しいな」


「そうじゃな。じゃが、双方で通じる名前が良かろう?」


 そう言うウルプの言葉に頷いた。


 わが子がウルプほどしっかりしていれば、名前がどうだろうと問題ないのかもしれん。しかし、親としては出来るだけ苦労はさせたくない。


「欲張っているのは分かってるが、どうしても譲れない」


「ワシもそこは同意じゃな」


 という事で、さらに考えることにした。


かしことか」


「ダメじゃのう」


 ダメらしい。


「ロッタ」


 もう一捻りあれば俺は良いんだが


「それもさすがになぁ」


 なかなか名前が決まらない。


「マリカはどうじゃ?」


 うん、いけそうだな。


「それなら行けるだろう。鞠華とかな」


「じゃあ、マリカじゃ」


 結局、名前が決まるまでに半日を要した。疲れた。



 俺は鞠華を眺めては頬が崩壊していた。輝に執務を促され、ウルプに尻を叩かれながら毎日を過ごしていた。


「資村さま、安全で確実な起爆が可能な弾頭信管が完成しました」


 最近、測距儀に掛かりっきりの通貫にかわって翔が砲や信管の開発を主導している。蒸気機関については階丹と協力して弦能が行っているので、翔は遠慮している様だ。

 蒸気機関については既に地上での試験は順調に行われている。


 既に蒸気機関車や蒸気自動車の構想もあり、片や船舶用には二段膨張式の研究まで始まっている。


 さて、弾頭信管についてだが、これは新型の施条砲とセットらしい。


「砲については資村さまの考案された切り欠きネジを用いた元込め式です。施条より高度な技術が必要になりますが、口径10センチクラスの砲であれば製作可能です。それより大型のモノは耐久性試験がまだ終わっておりません」


 という事だった。ようやく元込め砲の量産に目処がついた感じだ。


「そして、信管についてですが、非常に簡単なカラクリで作ることが出来ました。これです」


 そう言って手渡されたカットモデルは本当に簡単な構造だった。


 基本構造は通貫の弾頭信管と何の変りもない。同じように先端に付いた棒が突かれることで、そこにある雷管を発火させる。


 大きな違いは施条砲としたことで、遠心力で確実に回転を与える様になった事。この遠心力を安全装置の解除に利用している。


「このバネで押されている閂が砲弾回転の遠心力で外れ、通貫さまの信管と同じ構造となります。所定の回転力が得られるまで、閂が外れることはありませんので、砲身内や発射直後に暴発するという心配はありません。外筒と閂によって、意図的に起爆させようとしない限り、よほどの事では暴発しなくなっております」


 翔はカットモデルを押したり机に押し付けたりしてその仕組みを説明してくれた。なるほど、これなら大丈夫そうだ。


 こうしてようやく、砲の運用に展望が開けた。問題は、今の技術では大量生産が難しい事だろうか。 

 


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