33・さらに問題があったことを思い知る・・・
なかなか思い通りにいかない。これまでうまく行きすぎていたからだろうか?
これまでは知っている事を使うことが出来た、そして、通貫や弦能はそれを実現する能力を持ち合わせて居た。しかし、まずは電気分野でコケ、順調に思えた蒸気機関でも発展上の必要要素を飛ばしたことで、基礎が無いままに段飛びしてズッコケた。
順調に性能を上げてきた砲関連も、必要なものを見逃していたことで発展にブレーキがかかっている。
確かに、通貫は優秀だ。すでに独自に弾道学について考察している。このまま放っておけば俺などそろそろ不要になるだろう。
弦能もひじょうに優秀だ。電気こそ東の人間に頼ることになりそうだが、今のところは蒸気機関さえ実用化できれば問題ないレベルだ。その発展は弦能に任せておけば心配ないだろう。すでに高温高圧蒸気について理解している様だ。スクリューやタービン機関の原理についても教えたから、そう遠くないうちに実現してくれそうだ。
気分転換にふと考えると、では俺は何をすればよいのか、急に不安になってしまった。
そんな時、ウルプがやって来た。
「ウルプ、大丈夫なのか?」
すでにウルプのお腹もずいぶん大きくなっている。見ているこっちが気が気でない。
「大丈夫じゃ。それに、子の健康には親も寝転んでばかりではダメじゃからの」
そう言って笑っている。
「それで、どうしてこっちへ来たんだ?」
ウルプは妊婦なので仕事から外れてもらっている。とはいっても、時折こうして散歩がてらやって来ることもあるが、そろそろ歩き回るのも大変そうなので、安静にしていてもらいたかったのだが。
「運動じゃ。それに、夜は夜で相手も出来んしの。食事時にする話でもないから機会が無い、旦那様が暇なら相談に乗ってくれ」
そう言って、執務室に置かれた椅子に腰かける。
「のう、女子が生まれたらキタンへ嫁に出そうと思うんじゃ、ワシの子じゃから喜んで受け入れてくれるじゃろう」
いきなりそんな事を言いだすのでびっくりして声も出ない。
「驚く事か?キタンでは普通の事ぞ?それに、今はキタンと玄が戦い、屋島はキタンに組しておる。ならば、屋島を裏切れんようにする必要があろう?ワシ自身、屋島をキタンへ引き留めておくために来た人質じゃ。じゃから、お互いを更に結び付けるには、ワシの子をキタンへ嫁がせるんじゃよ」
いやまあ、理屈としては分かるけど、生まれる前に、その母親がいきなりそんな話をしだすなんてびっくりなんだが。
「これが生まれの違いかの。ワシの家、ヤッテーンマキッは、武の名門じゃがな、国を裏切らん証として、他家へ養子や嫁として送り出しとる。養子先や嫁ぎ先を乗っ取らんようにも考えて行動もしとる。じゃから、ワシは男を産めんのじゃ。男が生まれたら、旦那様はどうする?」
いきなりの話があまりに重すぎる。そりゃあ、飯時に出来んわ。
「どうすると言われても。ウルプが産んだ子ならば、男も女も関係なく育てたい」
そう言うと、どこか悲しそうな顔をした。
「優しいの。じゃが、それではヤッテーンマキッが屋島を乗っ取るぞ?そうならん為には・・・」
「それでもだ!」
ウルプの言葉をさえぎってそう言った。
なるほど、ウルプが盛んに輝や音野と子を作れと言っていた理由はこれか。ヤッテーンマキッという家がどれほど凄いのか、実感がわかないが、そうかといって、ウルプの産んだ男児が俺の後を継いだからと言って屋島がヤッテーンマキッの配下になる訳ではないと思うんだが。
「優しいが、甘いの。ヤッテーンマキッにその気はない。じゃが、キタンでは乗っ取ったと警戒されかねん。分かるか?」
分かるかと言われても困るんだが。
「先に言うておくが、ワシは男が生まれたら養子に出すぞ。旦那様の子じゃから殺しはせんが、これだけは曲げられん」
ウルプがそう言ってくる。それならできるだけ女の子であって欲しいもんだが、女の子でもキタンへ嫁がせるんだよな?
「じゃから、早う輝か音野に男を頼むぞ。長男でなければ問題にならんようする」
産むまえから第二子宣言?
「分かった。ウルプがそこまで言うならそうしよう」
21世紀日本では考えられん話だが、これがこの世界の常識なのかもしれん。
まさか、こんな所にまで問題があったとはな。




