30・信管が出来た・・・と、思う
軍事費の削減は行ったが、すでに出来上がっている元込め銃への更新を止めるつもりはない。
そして、キタンと協力して蒸気船を開発している。
そうすると、やはり足りないのが大砲という事になってしまう訳だ。
大砲そのものはある。先込め式ならあるんだけどね。
だが、外輪式蒸気船は積める大砲の数に制限がある。なんせ、最も大砲が積みたい船体中央部に積めないもんだから、大型砲を諦めるしかないし、数も限られてくる。
大型帆船だとほら、戦列艦とか言って、複数種類の大砲をこれでもかと積む戦闘艦があるが、外輪船だとその主力となる部分の砲門を撤去して水車を設置してしまう訳だ。
これが結果的に元込め砲の開発を促し、口径も限定することに大きく貢献してくれた。
俺はイマイチ信管というモノが分からなかった。
通貫の説明によると、銃が雷管を撃針で叩くのと同様に、砲弾の頭に付けた撃針で、火薬の手前に設けた雷管を叩くのだという。要は、ビンラムネの蓋になっているビー玉を叩く要領だな。
だが、考えても見て欲しい。ビンラムネにはビー玉を押す栓を取り付けたまま売ってはいない。
そんなことをすればちょっとした不注意でそこら中で中身をぶちまけることになるからだ。
今の砲弾というのはそんな感じ。
仕様によって異なるそうだが、撃針を支える「栓」をバネやセン自体の摩擦力によって、雷管を叩かないようにしているそうだが、そんなものは大砲から撃ちだす加速度によって、栓が慣性で、或いは風圧で、雷管へと沈んでしまって、砲身内部や発射直後に砲弾が爆発する事故を度々ヤラカしている。
流石に、早期に危険性に気が付いて、発射まで栓を固定できる安全ピンは設置されている様だ。
当然だが、それによるけが人や死者すら出ている訳だ。
そうかと思えば、うまく飛んだ砲弾であっても、頭から落下しない場合には栓が雷管へと落ちて行かず、不発に終わる。
非常に信頼性が低い状態で、「信」管とは呼べない、「不信」管だよ。
不発に関しては、施条で解決できるだろうことは分かっているのだが、暴発については未だ解決のめどが立っていない。
だが、加速度で栓が雷管を打ってしまうなら、そうならない強いばねを使えば良いんじゃない?と思ったが、その様にすると、岩場ならともかく、土や砂地に落ちたら不発になるという。
通貫は説明しやすいようにカット模型を作っていた。
「なるほどな。ここを押す力の加減次第か」
そう言って遊んでいた。
「あ・・・」
簡易の模型だけあって、脆かった。T字型をしている栓の傘部分が折れてしまった。そして、バネと栓が飛び出して行く。
「通貫、済まない」
俺は謝って栓とバネを拾い、模型に放り込んで通貫に渡した。
「その方法がありました!」
通貫が突然叫んだ。
「どうした?」
俺が聞くと、興奮した表情で説明しているのだが、よく分からない。
「えっと、加速度を利用して、着弾した時に栓が慣性で前方に飛び出すのを利用するのか?よく分からんが」
まあ、いまいちよく分からなかったが、今までの不信管が信管として機能するものに変化したというのだから良しとしよう。
そして、数週間後に通貫に見せられた砲弾だが・・・
「ところで、これ、信管が無いではないか。信管が無いのに信管が作れたと言われても困るぞ」
その砲弾の弾頭に信管は無かった。どうやって起爆するのかよく分からなかった。
「信管は底に付いております」
何言ってんのか分からなかった。
「底?そんなところに付けたら発射の衝撃で爆発するじゃないか」
なあ、そう思うだろう?
「いえ、この信管は資村さまが行った仕草そのままですので、後部からの衝撃で爆発することはありません。砲弾が何かに着弾した際、撃針体に残っている慣性が砲弾の減速に逆らって前進、雷管を叩く仕組みになっております。弾頭装着型もすでに試作しておりまして、そちらもこれまでより遥かに安全です」
アレだな、自動車事故でシートベルトをしていない人がガラスや天井へ叩きつけられるあの現象を利用した信管だな。確かに、砲弾の速度があれば、着弾の減速時に動く物体が信管前方へと弾かれて強かに雷管を叩くだろうさ。
「何を言っているのか分かった。それは良い。よくやった!」
が、問題があった。
この時代の船って木製だから、板厚が厚い部分に当たれば、着弾から一瞬遅れて船内で爆発するんだが、薄い部分なら板を突き破って海へと抜けてしまう事態が発生した。
弾頭信管の場合、硬い岩や板厚が厚い部分に当たると不発になった。何故かと思ったら、信管が雷管を叩く以前に衝撃でつぶれたそうだ。
そのため、この方式の弾頭信管は速度の遅い砲にのみ使用されることとなった。それからすぐ、棒火矢から導火線が消え、この信管が装着されるようになったわけだが、それって、迫撃砲だよな?
こうして艦載砲の砲弾としては実用化できそうではあるが、陸用としては棒火矢を進化させただけに終わった。
いや、十分なんだけどさ。




