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29・戦い終わって、平常に戻った

 輝に続いて音野もやって来たが、襲われる事はなかった。無かったが、ウルプにいろいろ言われたので、お互い合意の上で・・・


 その後、音野は何が変わったという事も無く、翔と共に工房で頑張っている。強いて言えば、翔が以前にもましてやる気を出している事だろうか。


 玄の侵攻を退けたことで、鉄砲に偏っていた鍛冶の仕事も従来通りに戻して行っている。そのため、蒸気機関の開発が好調である。一方で、一時的な進展の後、取り残されたのが、大砲だった。


 鉄砲と共に重視されてそれまで砲金と言われる真鍮とか青銅が使われていたのが、鉄に移行している。


 以前はただ重いだけで脆かったのだが、坩堝炉製の鋼鉄をいくつか試して、砲に使える配合を見出し、それを型に入れて作るようになった。

 しかし、それで出来るのはあくまで砲身の原型であって、鋳型から出した砲身はさらにドリルで規定の口径に切削され、銃と同じように施条が施されている。

 使用される砲弾も釣鐘弾だが、中実ではなく、中の空洞に火薬を詰め、棒火矢のように導火線を仕込んであり、一定時間で爆発するが、棒火矢とは初速が違いすぎるため、調整が非常に困難を極める代物となっている。

 かといって、着発信管をと言っても、銃と同様に砲口のみの施条では弾の安定が悪く、最終的に必ず釣鐘の先端が着弾するとも限らない。

 鋼鉄を砲身材料にしたことで、射程が伸び、試験では10㎞近く飛ぶモノが完成しているが、その距離になると砲弾が不安定な動きをして、腹から着弾することもある。当然、そうなると弾頭に付いた信管は作動せず、不発となってしまう。


 そうかと思うと、発射加速度に負けて、砲身内部や飛翔直後に爆発したりと、未だ安定していない。


 通貫も解決策の一つは砲身内全施条だと言っているが、砲の種類分のライフリングマシーンを製作する必要があるため、実現していない。


 そんな時に予算も人員も減らされたのだから、開発が進まなくなるのは当たり前。


「まずは必要性、優先度を検討して開発すべき砲の種類を削減いたします」


 通貫がそう言ってくれたので何とか助かった。


 なにせ、砲の開発は完全に迷路に入っていると言って良いだろう。


 元込め式にするには、高精度高強度のネジ切りと作成が必要で、しかも、90度程度の回転で完全に密閉し強度も出さないといけない。これが、蝶栓式と言われる方法なのだが、階丹、階納の技術が高いと言っても、今の段階では量産できるほどのものではない。1週間で1門程度しか作れない状態では、部隊配備も出来ないし、複数種類の口径の大砲を揃えるなど夢物語でしかない。


 そこでもう一つの方法が、強度のある閂で栓をする鎖栓式。

 強度のある角材を使えば可能なのだが、言うは簡単、作るのは難しい。しかも、薬莢式でないとガスが後方に吹き抜けるので、危なくて使えない。


 さらに問題となっているのが、発射薬だった。


 銃の火薬は改良されたらしい。大砲にも応用されているのだが、まだ改善が必要だという。銃より大型だけに、やるべきことも多いというから大変だ。


 蒸気機関はというと、数か月内にキタンの協力もあって、船が提供されて外輪船の制作が始まっている。スクリューの方が効率も良く、船の外装に制約を与えないのだが、舵との関係や推進軸の防水、軸の材質など、これからやるべきことが多いらしい。しかし、外輪船ならこのまま作ることも可能だそうで、中型船に合う蒸気機関の量産ならばすぐに可能だという。

 同じものに車輪を付けて蒸気機関車も作れないものかと尋ねてみたが、それは階丹がやる事だからと、弦能は笑って言った。


「我々の技術は階丹へも提供しておりますので、陸の事はアチラに任せて心配ございませんよ」


 との事だった。



 そんな平穏が取り戻せたと思った頃に、玄からの使者がやって来た。しかも、長崎の鼻ではなく、領都の屋島へと向かう事を希望しているという。


「屋島来訪は許可できない。長崎の鼻での交渉ならば受ける」


 輝からの助言もあってそう返答したのだが、勝手に長際の鼻を発ってしまったので、慌てて拘束する事態となった。


「今回の使者は講和の使者ではなく、再度の服属要求を主張しております。こちらの意向を無視する行動をとる以上、処刑ないしはキタンへの引き渡しを考えざるを得ません」


 という武将からの書状付きでの報告だった。


 キタンにおいても豪雪期が終わり、馬の行動は難しいが、キタン人ならば問題ないという季節がやってきており、川が凍結しているうちに出来るだけ敵を後退させておきたいと、攻勢に出ている時期だった。


 それに伴いキタン海の状況も屋島侵攻の隙を突かれて拠点を失った諸の水軍は勢力を盛り返す余力もなく、さらに追い打ちをかけられていた。


 俺は使者をキタンへ引き渡す決断をした。武将が言うには、疲弊した水軍の再編には少なくとも2~3年はかかるので、その間に体制を整えるべきで、出来ればキタンへの更なる支援を行って屋島侵攻自体を諦めさせるべきだという。


 俺もそれに同意している。


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