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28・なんやかんやで襲われた夜

 屋島に帰ると日常が待っていた。


 日常とはいいものだと言いたいところだが、そうはいかない。


「資村さまが不在の間、私が代行しておりましたが、決済が難しいモノがございます」


 輝が書類の束を差し出してくる。


 そうなんだよ、前線に居ればこれらの決済はやらなくて済んだんだ。確かに命の危険があるし、嫌なものも見ることにはなるけれど、コレが無いんだ。


 差し出された書類を見ると、キタンとの交易についてのモノ、階納、階丹関係や翔と弦能の新規事業が多かった。東や小豆との話は輝が進めて問題ないのだが、それらも入っていた。


「いえ、資村さまの決裁が必要です」


 そう言って譲らなかった。


 東や小豆の関係はサラッと目を通してサッと捺印して終わりだから良いが、キタンとの交易については少し考えなければならない。

 こちらから輸出するのはウルプが言う様に、矢じりを中心にした武器類で良いのだが、輸入するモノに少々問題があった。

 主要な輸入品はキタン海やカラプ半島の向こう、サシ海でとれる魚介類だった。


 何が問題かって?それは、交易品が釣り合っていない事だよ。だから、キタンは矢じり獲得のためにウルプを差し出してきたんだから。



 俺は弦能を呼んでキタンに漁業以外に何かないのか尋ねてみた。


「キタンにですか。私も行った事が無いので詳しくは分かりませんが、まず思いつくのが造船ですね。小豆のそれは遠洋向けのモノで優れてはいますが、我々がすぐに身に付けることは難しいでしょう。対してキタンのソレはキタン海やサシ海を中心とした沿岸用なので、我々にもなじみがあります。彼らの船に我らの蒸気機関を載せるというのは理に適うでしょう」


 という事だった。


 それが交易に直結するかはともかく、共同事業とできるならこれまでとは違ってくるかもしれない。

 なにより、帆船に動力を積むというのは、これまで商品や船員の食料を積むスペースだった部分を潰して、機械と燃料を積むことになる。発展していけばスペースの振り分けも決まって来るが、過渡期にはせっかくの容量を潰してしまうのではないかと思う。その点、沿岸船なら短期の航海で良いので、転換もすんなりいくかもしれない。


「弦能、うまく行けばキタンの軍船は諸を圧倒することになるな」


 そういうと、弦能もわが意を得たりと頷く。


「はい、今回、玄が攻めてきたのも、わが屋島の海防の欠落もさることながら、キタンの限界を突いたものとみることが出来ます。ならば、キタンの力を底上げし、わが方にもそれを分けて貰えば同じことは容易には起きますまい」

  

 なるほどな。


 ということで、まずは蒸気船の問題とキタンの問題が同時に解決した。きっと弦能の望み通りなんだろうけど。



 さて、あとは階丹、階納関係だが、勝手にやれば良いんでない?


 まずは、鉄橋関連についての建造許可だろう。


 ある意味再挑戦なので、これはすんなり許可をだす方が良い。


 そして、蒸気自動車というのがあった。きっと、弦能の蒸気機関に対抗したのだろうが、仕様を見ると、鉄橋整備と同時進行が必要な重量車だった。これなら鉄道にした方が良い。

 という事で意見を添えて差戻し。


 蒸気船は既に決済済みだから良しとして、次は数字や記号の羅列が多い見たくない書類が現れた。


「弦能・・・」


 俺は弦能にそれを見せた。


「それは石炭や銅の精錬のついでに出てきた物質を利用した化学製品の数々です」


 うん、だから、なんだ?


「使い方によっては肥料や爆薬の生成が可能となるモノですので、更なる予算を頂ければと」


 あれか、化成肥料や合成火薬か。それなら喜んで裁可しよう。


「すぐにとは言わんが、出来るだけ早く成果を見たい」


 そういうと弦能は喜んでいた。



 屋敷へと戻って書類と格闘する生活に戻ったが、相変わらずウルプにも付き合わされていたのだが、最近調子が悪いらしい。


「どうした?大丈夫か?」


「何でもない。少々疲れとるんじゃろう」


 ウルプは気にせず日課に励むのだが、どうもうまく行っていない。


 そんな折にウルプ付きの侍医の診察が行われた。


「資村さま、奥方様ご懐妊でございますよ」


 結果はフラグ通りだった。そんな気がした。


「やはり、人は危機に際して子をなす本能があるようじゃ」


 ウルプはそう言って笑っていたが、不意に真顔になった。


「ところで、ワシが相手出来んようになるが、側室たちの面倒は見ておるのか?ワシにぞっこんだからというてこれまで放置してきたのだろうが」


 と、なんか勘違いしている。


「いや、音野や輝は仕事の都合で側室の地位を与えただけで、そう言う意図はない」


 そう言うと、ウルプが怒りだした。


「バカか、側室の地位を与えておりながら何もせんとは、離縁よりたちが悪いわ。今夜二人とも連れて来るのじゃ」


 そう言ってプンプン怒っている。


 ウルプに言われるがまま、夜には音野と輝を寝室へと招いた。ウルプも居る。いや、まさか・・・


「来たか、二人とも。いきなり脱げとは言わん。どうせ旦那様の事じゃから夕飯の後に声を掛けたんじゃろうから準備も出来とらんよの。明日から相手をしてやってくれ。旦那様が嫌というても押し倒せ、構わん。ワシが許す」


 そう一方的に告げている。おいおいと二人を見ると、嫌そうではなく、俺を見ている。


 次の日、輝に襲われてから聞いたのだが、これで心の整理が付いたので、しっかり側室として俺の仕事を代行するという。

 どうやら、俺が手を出していなかったから十分な仕事が出来なかったらしい。え?俺のせいなの?


 






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