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27・再侵攻はなさそうなので屋敷へ戻ることにした

 来襲してきた諸の軍船が居なくなったと聞いて、俺は呆然としていた。今更ながらに昨日の戦場の怖さがぶり返しているという事もあった。


 しかし、そんな俺をよそに武将やウルプはテキパキと残務処理を話し合っていた。


 そして、その日の夜は約束通りにウルプが夜番だった。俺は一人寂しく床に就いたのだった。


 残務処理や残骸の撤去などがそれから半月かけて行われたが、諸の軍勢が再来してくることはなかった。


 時期が冬であったため、敵兵の生き残りも非常に少なく、そもそも浮かんでいたのは水夫か水軍の将兵だけだった。陸兵は鎧を着こんで泳ぐ訓練など受けていないので浮く事すらできずに溺死している。

 それはそれは悲惨な光景だった。砦から周囲が見えるので、遠目ではあるが、そうした遺体の数々を目にすることになった。


 さらには有力な将であろう立派な鎧を着た遺体に関しては、武将や俺たちが検分するという事まで行われた。

 誰が好き好んで水でブクブクに膨れたり、手足を吹き飛ばされたり、頭が半分吹き飛んだ遺体を見るというんだ。

 眉一つ動かさずに検分する武将や、見た後で平気で食事をするウルプが信じられなかった。俺は三日もまともに食い物がのどを通らなかったんだがなぁ~


「旦那様。なんでも慣れじゃ。ワシも最初は泣きじゃくっておったぞ。初めて熊を仕留めて解体した時も、初めて戦場に連れていかれて人を殺したときもじゃ」


 それを聞いて安心した。俺だって火縄銃の改良が出来て、狩りに連れて行けとせがんで鳥を撃ちに行ったときは自分でとった獲物だというのに気持ち悪くて喜べなかった。それはウルプも同じだったらしい。


 そうこうしているうちにキタンの船団から知らせが入り、長崎の鼻が攻められている間に、諸の沿岸補給線を潰してまわったことで、今や玄軍は屋島侵攻どころではない状況に陥っているという。


 現在、キタンと玄が戦っているヌプリ川というのは大河であり、キタンの庭ともいえる内陸の山岳地帯を抜けるか、船で河口の湿地を迂回して進まなければ、大規模な移動路が確保できないという。

 当然だが、山岳部では突進してきた玄の騎馬部隊が各所で各個撃破されている状況だ。沿岸部はこれまでのところ、諸の船団によって補給が維持されていたが、屋島侵攻に投入された船や水夫、将兵が大量に失われ、隙を突いてキタンが攻撃してきたことで、補給が困難になっている。


 今の玄にとっては、いち早くヌプリ川の戦線を盛り返すことが第一で、屋島へ侵攻する余力は無いだろうという。


「そうすると、ヌプリ川の戦いにおいてキタンが優勢になれば、おいそれとは屋島へ攻めても来ないという事で良いのか?」


 俺は武将にそう問うてみた。


「そうですな。仮にキタンが元の境を越えて玄の領域を侵す危険が出てくれば、玄としてもキタンへの備えを優先するしかありません。ヌプル川を越えればそこは諸の配下となりますので、資村さまの申す通り、屋島へ攻め入る余裕は無くなりましょうな」


 なるほど、それなら屋島がキタンをより支援すれば良いわけだ。


「ウルプ、キタンの将兵は銃を扱えるか?」


 問題はここだ。ウルプは何のためらいもなく弓から転換したが、そうではないかもしれない。


「どうじゃろうな。既存の火縄銃なら間違いなく使おうとせんぞ。アレは火縄の匂いや煙で敵に存在を知らせることになるからな。ワシらが使う元込めなら喜んで使うじゃろう」


 なるほど。しかし、それは少々困ることになる。


「やはりそうか。しかし、施条銃だけでなく、歩兵隊が持つ元込め銃を今の時点で東以外に広めるのは得策とは思えん。玄の支配下に翔たちほどではないにしても、それなりの腕を持つ鍛冶師たちや弦能の様な者が居れば容易に模倣してくるだろう。出来ればわが方が完全に施条銃をモノにしてからでないと外には出せない」


 確かに、ボルトアクション式を採用した屋島の銃を正確に模倣し、実用化するには技術が必要になる。しかし、薬莢と元込め式のアイディアさえあれば、スナイドル銃の様に銃身後部を削って蝶番式の蓋を設けることで元込め銃を作り出すことは可能だ。

 確かに、スナイドル銃ではボルトアクションの様な速射は望めない。火縄銃の様に撃鉄を引き起こして、蝶番を開いて、排莢や装填を行うので、ボルトを起こして引けば勝手に排莢できてしまうボルトアクションより一行程か二行程余分にかかる。しかし、それでも先込めよりは断然速射力が上がるので、強大な敵がそんなものを早々と装備することは望ましくない。


「言いたいことは分かるぞ、玄に翔や通貫、或いは弦能みたいなものが居れば、キタンに渡った銃を模倣されるというんじゃな?その危惧はワシも持っとる。それに、釣鐘弾だけならば、キタンの弓でも今のところ勝負ができるでな、最近造られ出した、あの硬く重い矢じりの供給を増やす方が現実的じゃろうの」


 ウルプはどうやら理解しているらしい。そして、中途半端な兵器を供給して前線に混乱を招くよりも、今は既存の武器の改良を優先すべきという。その通りかもしれない。


 そうして、屋島を取り巻く現状を把握した事で、俺たちは屋敷へと戻ることに決めた。武将はしばらく残って今後のために砦の強化や改良を行という。

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