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26・そうそう命中するもんではないらしいが、だからと言って無駄撃ちはしない方が良いらしい

 俺はウルプや参謀役に落ち着くように宥められながら陣屋へと向かった。


「おめでとうございます。資村さま」


 陣屋では武将が待っていた。


「本当じゃ、まさか、旦那様が一番首を上げるとは思わなんだぞ」


 ウルプもそれに続いてそう言う。俺は何のことか分からない。


「権令さま、我らが最初の大型船の大将を仕留めたのですぞ」


 横からそっと参謀役がそう教えてくれた。なんか、そう言えばそうだった気もするが、あまりの衝撃の連続で未だに頭の中が混乱している。


「ああ、ありがとう」


 俺はみなにそう礼を言った。


「資村さまと奥方様のご活躍で敵将3人を討ち取れたと思われます。他にも北砦と南砦でも上陸しようとした船団を撃退し、かなりの戦果を挙げております」


 武将は浮かれた様子もなくそう報告してきた。流石、本物の武将だ。


「そうか、それは良かった。それで、これからどうなりそうだ?」


 まさか、夜戦があるのだろうか。

 

 そう言っていると、爆発音が聞こえた。


「何だ?」


 そう思って外を見ると、水柱が船を巻き添えにして崩れ落ちるところだった。


「まずは、あのように水中爆弾の仕組みを知らずに近づく船が次から次とやられるのを見ているでしょうから、夜のうちは警戒して陸には近づかないのではないかと思われます。念のため、夜目の利く者たちを監視にあたらせるよう手配し、隙を見て上陸した者どもの掃討も行っております」


 という事の様だ。


「よし、では我らもここで夜番じゃな」


 ウルプが元気にそう宣言する。


「奥方様、資村さまがお疲れでしょうから、付き添われてはいかがでしょうか。まだ戦は始まったばかり、後、幾日続くかわかりません故、まずは休息が必要と存じます」


 武将が俺を心配してそう言ってくれた。


「そんな軟弱でどうする!」


 ウルプは元気にそう返す。


「まず、今夜は私が夜番を受け持ちます。奥方様には明日の夜番をお引き受けいただけますかな?」


 そう諭すと、ウルプも拒否は出来ないようだ


「分かった。明日じゃな」


 そう言うと、後は大人しく武将の報告を聞き、明日以降の作戦について打ち合わせを行い。今日の所は俺たちは休息という事になった。


「旦那様、あんな乱暴な撃ち方をしてはいかんぞ、船は逃げ場が少ないからまだ戦果を挙げることは出来るじゃろうが、陸上ならばまるで無駄に弾を浪費するだけじゃぞ」


 ウルプにそう叱られた。


 実際、火縄銃が戦場に現れてこの方、銃の性能は時代を経るごとに良くなっている。何処に当たるかわからなかった火縄銃にライフリングが刻まれ、命中率がよくなり、火薬が黒色火薬から無煙火薬に代わり、弾丸の性能がよくなった。


 そう考えると、どんどん命中率は上がっていきそうなものだが、現実はそう簡単ではない。


 確かに、銃の威力が上がるごとに戦場での犠牲はうなぎのぼりになるのだが、それに比例して弾薬消費も増えていく。

 機関銃が登場して更に消費量が増えた。


 弾薬は大量に消費されるが、消費弾薬から見れば、戦死戦傷者数はそこまで増えていない。


 先込めが元込めとなり、自動化されるにつれて、一発ごとの狙いは悪くなる一方で、命中率自体はどんどん悪化していったという統計があるらしい。


 そして、そのことから狙撃を任務としない兵士の銃にも狙いやすくするために照準器具が装備される傾向が見え始める。


 弾倉が銃把握より後ろにあるブルパップ銃などは照準をしようにも、銃の全長が短いので一般的な銃の様な方法では、命中率に影響が出やすく、真っ先に照準器具が標準化されていった。英国のL85やオーストリアのAUGなどがそれにあたる。

 そして、もうすぐ21世紀に入ろうかという頃に採用されたドイツのG36にも標準で採用されている。


 そして、米国でもアフガン戦争では命中率が大いに問題視され、2010年代には軍が使用する銃の多くで、照準器具の取り付けが容易なように、標準化された「レール」を備えられている。まあ、予算の都合や思想的な遅れで未だに普及していない先進国があったりもするが・・・・・・




「ワシらの銃は簡単に弾を込める事が出来る。だからと言って狙いを疎かにしてよい訳ではないぞ?」


 ウルプに滾々と説教されてしまった。


 しかし、それはもっともな話だ。簡単に次が撃てるからと乱射すればただの無駄使いにしかならない。


 その夜は疲れていたが、ウルプを抱き枕にすることだけは忘れず、ぬくぬくと眠りについた。



 次の日、ウルプが布団をはぎ取ったことで目が覚めた。


「静かじゃ、静かすぎるぞ」


 そう言うウルプを寝ぼけ眼で見ながら、ボケっとしていたら、伝令が部屋へやって来た。


「申し上げます!敵が撤退したようにございます」


 伝令が何を言っているのか分からなかったが、俺は昨日同様、ウルプに促されながら着替えを行い、櫓の陣屋へと向かった。



「どういうことだ?」


 櫓へ上って周囲を見渡すと、燃える船や壊れた船の残骸を残して船団が忽然と消え去っていた。


「今朝がたまでに入った情報を整理してみましたところ、少なくとも6~9隻の大型船を破壊、もしくは船員を死傷させております。少なくとも5千人規模、多いと1万人規模の部隊を指揮する指揮官を失ったという事になりますでしょう。一日でこれだけの部隊が行動能力を失ったのなれば、3日後には上陸軍の機能自体が大きく損なわれることは確実です。敵にはこちらの損害が正確には分かりませんし、資村さまや奥方様の長距離射撃の理由も分からないでしょう。更に、少数成れどキタンの軍船が加勢したとなれば、長期戦は不利に傾くことは必定。元々戦意の低い諸の将軍たちが撤退を決断したという事だと思われます」


 それを聞いてほっとした。


「とはいえ、すぐさま体勢を建て直すやもしれん。半年は様子を見るべきじゃと思うが」


 ウルプが警戒心をあらわにそう言う。


「はい、使者が来ることも考えられますゆえ、長崎の鼻の体制は極力維持しておくべきでしょう。逃げ帰ってそのまま尻を叩かれ舞い戻るという事も考えられますゆえ」


 うん、どっちなんだ?

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