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25・何とか一日目は無事に終えることが出来そうだ

 手持ちの弾が無くなったので射撃を止めた。残弾が無いのは俺だけらしい。


「権令さま、一度退避しましょう」


 参謀役にそう言われたので部隊を一旦、補給が可能な場所まで後退させることにした。


 俺は異常にハイな状態で飛び跳ねる様に塹壕を走って行った。そして見てしまった。

 目の前を遺体を乗せた担架が横切ったのだ。カバーなんて掛けていないソレを見て正気に戻ってしまった。


「ウルプは?ウルプは無事なのか?」


 正気に戻ったつもりだが、そうではないのかもしれない。


「ご安心ください。奥方様より権令さまへの伝言です。『数撃てば当たるというのは見ていて愉快ではない。次の敵はこちらへ譲れ』だそうです」


 参謀役がそう言ってくる。確かにウルプが言いそうだ。


「分かった。ウルプらしい伝言だ。敵はまだ居るのか?」


 俺がそう聞くと、まだ沖に相当数居るらしい。そして、先ほどの大型船とは別の一団が向かってきているという。


「まだ居るのか。よし、ではまた行こう。こちらに来ればまた仕留めてやる」


 そう言うと、新たな銃弾を受け取って俺は前線へと向かった。


 そこから見下ろした湾口は無茶苦茶だった。


 先ほどの大型船が他の船を邪魔するような形になっており、わが方の攻撃から逃げる小舟をことごとくに邪魔をしている。


 そのためか、棒火矢隊も大型船は一切狙わず、周りの船ばかりを狙っている。


「何と言うか、地獄だな」


 冷静になった俺の感想がそれだった。


「新たな船団が来ます!」


 その声に湾外へと目を向けると、同じように大型船を従えた船団が向かってきていた。


 そして、まだこちらに炮烙など届かないのに撃ちだしている。


 と思ってみていたら、湾口で邪魔になっている大型船を中心にした船団へと撃ちこんでいる様だ。


「何だあれは?味方じゃないのか?おい」


 俺があ然として見ているうちに、大型船の周り、そして大型船に炮烙が直撃して燃え上がった。


 そして、新たな船団がこちらへとその矛先を向けだしたころには、棒火矢隊も湾内の残敵ではなく、新手の船団へと攻撃を振り向けだした。


 船団は逃げ惑う味方を盾にするようにやってきている。中には大きな船にぶつけられ、転覆するものまで出ている。本当にあれは味方同士なんだろうか?敵の事ながら心配になってしまう。


「権令さま」


 参謀役の声で我に返り、あらためて周を見ると、鉄砲隊がすでに交戦を始めていた。


「よし、投石船を最優先で狙え!」


 俺はそう、号令を出すと、手近な投石船へと銃口を向けた。


 パパパン


 狙いが同じものが多いようだ。と思っていると、炮烙を持った敵兵にでも命中したのだろうか、いきなり投石船が燃え上がった。


 そして、新たな船へと銃口を向けて撃ちだす。


 どのくらいそれを繰り返しただろうか。周りでは射手を失ったり指揮官を失って戦闘できなくなった敵船がそこら中に浮かんでいる。それらにも棒火矢が降り注いでさらに燃える船を増加させていく。


 それなりに広い入り江だと思っていたが、そこら中に船がいて、きっと目を凝らせば遺体が浮かんでいる事だろう。わざわざ見たくもないが。


 ドン、ドン


 音のした方を見ると水柱が崩れ落ちるところだった。


 どうやら上陸しようと岸に近づいた船が新たに触雷したらしい。


「湾内は鉄砲隊や槍隊に任せましょう。我らはアチラに加勢した方がよさそうです」


 参謀役がそう言うので、新手の湾外の船団を狙うべく、さらに外へと塹壕を移動した。


 そこから見た光景はこれまでとは違い、沖合で船同士が戦っているようにも見えた。


「どうやらキタンの軍船が間に合ったようです。数は多くない様なので、牽制程度の効果しかないようですが」


 確かに、海を埋め尽くすかに見える船のごく一部しか味方ではないようだ。


「よし、沖合は彼らに任せるしかないな。まずは、眼下の敵だ」


 俺たちは鉄砲隊の射程ぎりぎりで大きな身振りをしている見栄えの良い鎧を着こんだ敵を重点的に狙撃して回った。


 どれぐらい経っただろうか。すでに空が赤くなりかけている。


 無理やり上陸しようとして機雷で吹き飛ばされる船を何隻も見た。そして、上陸しようと小舟で近付く兵の中で、見栄えの良い鎧武者を数えきれないほど射殺して回った。鎧のせいかあまり遺体は浮いていない。


「日が暮れますな」


 参謀役がそう言う頃には、敵のほとんどは上陸を諦めて船の中から出て来なくなった。


「権令さま、一度、砦までお戻りください」


 そう言われて、後ろ髪をひかれながら砦へと戻ることにした。


 朝、砦を飛び出したときには見えなかったが、こちらもそれなりに被害が出ているらしく、遺体やけが人を運ぶ姿がそこら中で見られた。


 炮烙の飛距離は500メートル程度の様だが、それでも完全に侵入を防げている訳ではなく、各所に被害が出ている。破壊されて燃えたらしい前線の櫓が燻っているのも見た。


「随分やられたんじゃないのか?」


 そう聞いてみたが、参謀役の印象はそうでもないらしい。


「見た目は酷く見ますが、この防塁は丈夫なので大きな被害は出ていないでしょう。ただの石と土であったならば、炮烙と投石でもっと破壊されていたと思われます」


 周囲を見ながらそう言う。


「旦那様!なんじゃあれは!あんな撃ち方を教えた覚えはないぞ」


 砦に近づいたところで聞きたかった声が聞こえた。


「ウルプ!良かった。何処も怪我してないか?」


 俺は一目散にウルプの元へと向かった。


「良かった良かった」


 俺はウルプの手や体を確認して抱きしめた。


「こら、こんな所でそんなことするでない。しゃきっとせんか!」


 そう言ってウルプに引きはがされたら、それでもうれしくて仕方が無かった。 


 

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