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24・戦場は本当に酷い場所だった

 俺はがむしゃらに武器庫へと走った。


 そして、愛用のライフル銃を手に取る。そして、腰に下げるポシェットの様な弾薬入れが幾つかついたベルトを締める。

 服装は異なるが、まるで昔の歩兵だ。いや、実際には19世紀後半の装備なんだろうが。


 そして、続々と同じように武器を手にした者たちが整列した。


「よし、準備は出来たな」


 と、ここで、どこへ向かえば良いのかよく分からなかった。ウルプを追えば良いのか、それとも別行動するべきなのか?


「参謀は居ないか」


 どうすればいいのか分からないとはさすがに言えない。


「はっ!私が仰せつかっております」


 一人が名乗り出た。良かった。俺では何も分からない。どうやら武将はそれを見越して参謀役を寄こしてくれたらしい。


「何か策はあるか?」


 いかにも上から目線で聞いてみる。


「はっ!現在のところ、敵、大型船が入り江に近づいておりますので、我らはその乗員を狙撃するのが良いと思われます。現在、奥方様は南へ向かわれたとの事なので、我らは北へ向かうべきと存じます」


 どうやらウルプは南の突端へ行くようだ。そして、俺らが北へ行けば、2km程度しかない湾口は、射程1km強のライフル銃の火制圏内という事になる。


「よし、それを採用する。北へ向かうぞ」


 俺たちは砦を飛び出し北へと向かう。


 こちらに到着してすぐは土塁と泥の道だったが、今では弦能が考案したコンクリ製の防壁、べトンと言うんだったか?そんなものがそこにあって、通路も走りやすく整地されている。

 時折、敵の投石器が投げる炮烙が炸裂しているのか、近くで爆発が起きたりしている。


「棒火矢ぁ~、構えぇ~」


 走っている横の陣地では棒火矢が放たれようとしていた。


ドンドンドン


 俺たちにはお構いなく棒火矢が発射される。


「移動準備ぃ~」


 どうやら一発撃つごとに移動するらしい。まるで近代戦の陣地転換みたいだ。


 そう思っていると、照準を間違った敵の炮烙が近くに着弾した。


 だが、塹壕のように掘られた通路には影響なく、頭上を爆風が吹き抜けていく。俺たちはそれでも構わず走り続けた。


 こんなことが出来るのも、こっちへ来て毎日ウルプに尻を叩かれながら訓練した成果だ。それでも、昼も夜も俺がヘトヘトになってもまだ元気なウルプが恨めしかった。

 そんなことを考えながら走り続けてようやく、目的地へと到着した。


「権令さま、対岸で狙撃隊と思われる鉄砲部隊が発砲しております」


 そう言われて目を凝らすと対岸で発砲煙が上がっているのが見えた。


「どうやら大型船は射程外のようですね。より北岸に近い船を狙っている様です」


 なるほど、たしかに大型船に目立った動きは見られない。


 そして、まるで真下に見下ろすような位置に居る敵船に対して鉄砲隊が射撃を始めたらしく、銃声が激しくなり、視界に煙が立ち込め出した。


「少し移動しましょう」


 参謀役がそう言うので俺たちは移動を開始した。


 その時、直下で炮烙が爆発した。

 それだけなら良かったが、目の前までどう見ても人の一部が飛んできた。


「お、おおいおいおい」


「権令さま、落ち着いてください」


 狙撃隊の面々は目の前に遺体が飛んできても眉一つ動かさずに平然としていた。


「対岸にも炮烙が着弾しています!」


 言われて、見てみると、各所に着弾しているのが見えた。中には先ほど狙撃隊が居たと思われる場所も含まれている。


「ウルプ!!」


 塹壕を飛び出そうとする俺を親衛隊が止める。


「おい、あそこにウルプが居るかもしれんのだ、早くいかねば!!」


 俺が混乱してもがくのを無言で抑え込む親衛隊の面々。


「権令さま、落ち着いてください!!」


 参謀役にそう言われるが、落ち着ける訳が無い。


 死体を見た直後に、対岸での着弾を見てしまったのだ。きっと向こうでも同じような光景が広がっているだろう。本当にその中にウルプが居ないと言えるのか?


「落ち着いていられるか!ウルプがどうなってるか分からないんだぞ!!」


 俺がそう怒鳴り返すが、参謀役は冷静に返答をする。


「奥方様がご心配ならば、まずはあの大型船を仕留めるのが先でございます。あれを仕留めることが出来れば、奥方様を探しに行くことも出来ましょう」


 そう言うのだった。


「言ったな?アレを仕留めればいいんだな?」


「はい」


 参謀役がそう言って頷いた。そして、俺の中で何かが切れた。


「旗はあるか?俺の旗だ。連中の注目をここに集めろ」


 何を言っているのか分からないと思うが、俺も何がやりたいのか分からない。とにかくあの大型船を、いや、あの船に乗っているであろう指揮官さえ仕留めればいいのだ。

 やってやろうじゃないか。長距離狙撃だから何だというんだ、そんなことは関係ない。撃ってりゃ当たるさ。人数だっているんだ、どれかは当たる。


「撃て撃て、撃ちまくれ、狙いはあの大船だ!他は狙う必要ないぞ」


 そう言って大型船を撃ちまくった。船上で騒ぎが起きているのかここからでも人だかりが分かる。とはいえ、俺にはこの距離で個人を狙う様な腕はないので、とにかくその辺りを乱射した。


 しばらく乱射を続けていると歓声が上がりだした。だが、歓声なのか銃声なのか、俺にはよく分からない。


「権令さま!やりましたぞ!!」


 撃ちまくっていた俺の肩を誰かが叩いてそう叫ぶ。


 俺がよく分からないという顔でそちらを向くと参謀役だった。


「我らが敵の大将と思しき人物を射殺しました。大型船が混乱しております」


 そう言われて大型船を見るが、正直、誰が誰か分らない。他の船を見ると、それまで組織立って動いていたものが不規則な動きを始めている。敵が混乱しているのは明らかなようだ。


「お、おお!!止めだ、止めを刺せ!」


 俺はそう言って更に残りの弾を大型船へと撃ちこんだ。


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