21・まだ攻めてこないのが不穏だ
長崎の鼻についてしばらくした頃だった。屋島から船が来たというので、出迎えに向かったのだが、降りてきたのは弦能だった。
「弦能、どうしたんだ?」
ニコニコやって来た弦能にそう尋ねた。
「資村さま、出来ましたぞ。水中爆弾です」
なんだ?
そう思っていると水夫が箱を担いでやって来る。
「慎重に下ろせよ、中身は火薬だからな」
などと言いながら小舟へと下ろしていく。
「もしかして、機雷か?」
俺がそう言うと、弦能は思い出したような顔をする。
「そうです。確かその様にお聞きしておりました」
機雷について話したのはいつだっただろうか。たしか、大砲の説明ついでだったような気もする。
元込め式の大砲についてはまだ試作段階だ。薬莢を使うタイプなら素早くできるかとも思ったが、銃とは違い、その爆発力を受け止めることに苦労しているらしい。
大砲の尾栓方法は大きく分けて二つ。ネジを用いた蝶栓式と閂の様に蓋をする鎖栓式。
ネジ式と言っても何回転もするのではなく、名前の様に蝶の羽根の様に切り欠きを設けて90度程度の回転で締めることが出来る様になっている。
しかし、これを作るにはかなりの工作精度と強度が要求されるわけで、そう簡単に出来はしなかった。
もう一つが閂式だが、これもそううまく行っていない。どちらも完成にはもうしばらくかかりそうだ。
そして何より、信管が完成していないのだから、元込め式の使い道はない。先込め式でも十分だ。
そんな時に、信管の一種として、機雷の触角を紹介していた。
前世、呉にある「てつのくじら」館で図解付きで説明されていたのでよく覚えている、ただ、薬品が何だったかまでは知らないが。
機雷の触角は、中に薬品が入っており、触角に衝撃が伝わると、薬品が反応して電気が発生する。その電気でもって起爆するという仕組みだった。
弦能にそれを説明したが、ポカーンとしていた。そら、発電機がいまいちわかっていないのだから仕方がない。
ただ、電気でなくても良い訳で、熱や火ならば可能ではないかという話になった。
そうして試行錯誤の末に完成させたのが、この機雷だ。
「なんじゃ?この浮き球は」
ウルプがやってきて箱の中を覗く。そう、見た目は浮きそのものに見える。浮き球は木で作るが、これは鉄製だ。そして、普通の浮き球と違うのが、表面についている突起物。だが、今はそれは無い。触角は別に製造してねじ込むようになっているので、今はただ蓋が付いているだけだ。
「機雷と言って、水中に仕掛けて敵の船を破壊する爆弾だ」
そう言うと感心しているが、疑問があるようだ。
「水の中に仕掛けるのは良いが、船が来なければ意味が無いぞ?投石器で投げつけた方が良くないか?」
なるほど、そんな方法もあるな。
「それも良いが、こいつの役割は、船底に穴をあけて、船を沈めることにある。入り江の入り口や海岸は必ず船が寄って来るだろう?そこに仕掛けるんだ」
投石器で放り投げる方が、命中率は高いかもしれない。もし、魚雷が作れたならば、それが確実なのかもしれないが、電気がよく理解できないのに、モーターは作れないし、直径50センチ程度の物体に内蔵可能な蒸気機関など造られていないので、自走させることが出来ない。
「船底をか。なるほどの。それならば確かに強力じゃ。船が通ってくれればじゃがな」
やはり、そこが引っかかるらしい。
だが、無いよりはあった方が良いだろう。問題は、回収が意外と難しい所だが・・・
マトモな信管が未だできていないので、榴弾は無いが、手榴弾ならある。それをもとに銃から撃ちだせる棒火矢も考案されている。今はこのくらいで良しとするしかないんだろうな。
そろそろ雪が降る季節になったが、屋島海峡は意外と穏やかな事が多い。対岸にそびえる山脈が風を遮っているせいで、海が荒れることが少ないのためだ。
そう、コレが諸が冬に攻めてくるという予測を成立させる根拠となっている。
視界が悪い日に攻めてくればかなり接近するまで発見できない。諸がそんな無謀な事をするのかって?
連中は多島海を走り回っていた訳で、屋島で考えるよりも悪天候を余裕で操船できるウルプが言う。
「まだ早いかもしれないが、機雷を設置しよう」
ウルプの発言によって俺は機雷の敷設を決断した。
機雷は陸上から指示を出しながら、等間隔に並べていく。入り江には外と入口の二段構えで敷設している。海岸沿いにも、武将らの意見を取り入れて上陸予想地点周辺に敷設を行った。
あとは、本当に諸が大船団を率いてやって来るかどうかという話になる。来るんだよな?




