20・とうとう来てしまったが、何とかなりそうだ
長崎の鼻へ行くと言い出したのがついこの間の事だったと思う。
「ほう、これはなかなかすごいの」
思い付いたら即実行とばかりにさっさと長崎の鼻へと向かう事が決まった。そして、初秋には長崎の鼻砦に居を構えることになってしまった。
そして、ウルプは毎日のように周辺を散歩している。
いや、散歩と言うには語弊があるか。海岸沿いを歩いたり、そこから山へ登ったり、かなりレンジャーな毎日だ。俺は初日でリタイヤした。付いて行けない。
長崎の鼻は屋島から突き出した半島の形をしており、その姿から長崎と呼ばれ、その突端部を長崎の鼻という。
長崎の鼻は周囲は険しい岩場になっているが、砦の前がちょうど入り江になっている。そして、半島の付け根から南には海岸線が広がり、遮るように山が海にせり出すように海岸線が終わっている。北を向いても同じような地形だ。
そのため、半島の長崎の鼻砦と南にある南砦、北には北砦と三つの砦が連携した形になっている。
で、今ウルプが眺めているのが、この三砦の周辺の地図だ。しかも、測量も出来るという事で通貫を無理やり連れて来ている。
その成果があって、非常に精巧な地図が出来上がった。それこそ前世で通用するようなシロモノだ。
「なるほど、距離も分かるから図上で正確に色々と分かるの。これならば敵にこちらの行動や意図を悟られることなく緻密な作戦が可能じゃ」
そう言ってああでもないこうでもないと武将を交えて様々な作戦案を練っている様だ。
俺はというと、歩兵隊や鉄砲隊が射撃訓練に使う木里の宮という、少し内陸に入ったところにある社の周辺へと数日おきに通っている。1200メートルなどというチートは無理だが、400メートルは狙えるようにしろというウルプの指令で射撃訓練に励んでいる。
当然だが、俺の親衛隊となるライフル持ちも全員、同じ訓練をやっている。
長崎の鼻へやってきて今更だが、本当に屋島を離れて良かったのか?
そんな疑問をウルプや武将に投げかけたことがあったのだが、一笑に付された。
「旦那様は心配性じゃな。確かに、屋島に玄の軍船が来る可能性はあるぞ?上陸されるやもしれんな」
そう言ってウルプは笑う。
「それでは屋島が落とされてしまうではないか」
そう、それが常識だ。
「そうじゃの、そうなるやもしれんが、敵はそこから身動きが取れんようなる。何故かわかるか?」
そんな事を言われたが、俺に分かる訳が無かった。
「ワシじゃよ。ワシはキタンから屋島へ嫁いだ。もし、屋島の都に敵が攻め込めば、キタンが動く。内海を中に奪われた諸にはまともに水夫も水軍も残っとらんじゃろう。急いで船だけ作っても、キタンの軍勢と正面からぶつかるような練度はない。屋島の都まで攻めたとなれば、せっかく維持しておるなけなしの水軍は分散され、各個撃破の的じゃな。玄に支配されたとはいえ、諸もそれが分からんバカではあるまい」
ウルプは海軍にも詳しかった。ヤッテーンマキッは陸軍だけかと思ったが、どこかの秋山家よろしく、海に陸にも優秀な人材を抱えているそうだ。どうも、長兄は水軍の一団を率いているそうだ。
「諸はヤッテーンマキッの女子が屋島に嫁いだことで荒てていようの。玄の言うがままに手を出したのでは、キタンの思うつぼ。そうならん為には、諸の水軍がキタンを抑えておるうちに、この長崎の鼻を制し、屋島に橋頭保を築くしかない」
なるほど、嫌でもここへ来るしかないのか。確かに、ここは半島だから、海上兵力が無きに等しい屋島では、占領されてしまえば取り返すのは難しい。
ほら、第二次大戦でも海上から補給ができた事で周囲をソ連軍に囲まれながら最後までドイツ軍が踏みとどまったクールラントという半島があっただろう?きっとあんな感じになってしまうんだよ。
つまり、諸はここを取る以外に成功の可能性が見いだせる策はなく、こちらはここを守り切れば良いらしい。割と簡単なお仕事に見えてきた。




