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18・とうとう使者がやって来た

 すでに真夏である。ウルプが順調に新兵選抜を行い、優秀な射手も育ち始めている。

 鉄砲生産の方も順調で、元込め銃が毎月部隊単位で配備できるほどだ。弦能の生産方法は前世に通じるものがあるようで、驚くほど不良率が低い。ただ、遊びが大きいので時折隙間で泥や砂が噛んで動かなくなることが問題だろうか。

 ただ、それも設計の良さから、すぐに掃除が可能になっている。


 それで思い出したが、どこでもいつでも動くと言われるAK47とベトナム戦争で散々不良が出たM16。

 確かに、M16は故障が多いという印象が強いが、AKとの比較実験では逆転した結果が出たこともあるという。


 というのも、M16の不良原因は主に火薬にあった。試作時に使用した火薬と制式採用され、使用されていた火薬が別物だったそうだ。


 もともと、作動部に直接発射ガスを吹き付けるM16のリュウングマン式という奴は、ガスの残渣で汚れて作動が難しくなる。なので、試作時には残渣の少ない火薬を使用していたのだが、採用され、前線に渡った時には、量産性の都合で試作時とは違う残渣の多い火薬が使われていたという。

 結果は言うまでもない。作動不良の嵐だった。


 当然、これが問題視され、火薬を試験時と同じ種類へ変更することで大幅に改善されたという。


 ただ、この時のイメージがそのまま残り、後に「AKはいつでもどこでも引き金を引けば撃てるが、M16は掃除しなければすぐに作動不良が起きる」という伝説として広まることになった。



 しかし、この二種類の銃を砂に埋めて、取り出して撃ってみるとどうなったか。


 AKはすぐに作動不良を起こしたのに対し、M16は弾倉を撃ちきることが出来たという。


 なぜか?


 それは、AKが外からゴミや砂が入りやすい構造になっており、しかも、その寸法自体に遊びが多いことから、砂が可動部に侵入してしまった結果だそうだ。

 それに対し、M16では銃自体が密閉式の構造で、排莢カバーをすれば砂などが簡単に入り込みにくい構造になっていた。

 独特の構造のため、ガスの残渣には弱いが、適切に管理すれば外の環境が悪影響を及ぼす可能性はそこまで大きくは無いという。


 AK神話にとってはかなり衝撃的な実験だが、本来、AK47といえど、撃ちっぱなし、放りっぱなしでいつでも使えるわけではない。マイカーをキーやボタン一つでエンジン掛ける感覚で、装填して引き金引けばでは、やはりAKだって作動不良を起こすことに変わりはない。

 

 さて、そんなわけで、ボルトアクション銃として超えるべき課題が実戦配備して現れてしまった。


「通貫、作動不良の件だが・・・」


 久々に会った通貫は少し痩せて居たが、目がギラギラしていて少し怖かった。


「その点でしたら問題ありません。すでに対策を行う手はずは出来ております。初秋には既存の銃にも部品供給が可能となるでしょう」


 というのだった。


 何をやったかって?三八式みたいなカバーが付いたらしい。既製品への対応までできるとかすごいな。本来なら設計からやり直しなんだろうが、今はそうもいかないという事情もあることは確かだ。これが戦時下という奴か。

 多少の不具合はありながらも、これと言って大きな欠陥もないので、そのまま生産が続いている。


「銃は随分威力が増した。だが、1万そこらの兵で最大5万を迎え討つにはやはり不安があるな」


 それが俺の正直な感想だった。


 それに応えたのは武将だった。実は、槍隊に銃を持たせるにあたって、銃撃と突撃以外の攻撃法を模索していたんだという。


「資村さま、多くが保管へと回った兵筒を利用して爆弾を投擲したいのですが、よろしいでしょうか」


 どんなものかと思ったら、棒火矢のようなものだった。


 鉄砲に火薬と棒を差し込んで、棒の先に火薬が詰めてある。戦国末期に開発されたそれは、条件によっては3km飛んだという記録もあり、武将の試験でも1km飛んだこともあるという。威力のほどは所詮、銃から発射できる程度のなので、手榴弾の域を出るものではないが、未だ大砲用信管が完成していない現状では、これを使うのが最善だと思う。


「歩兵隊で使うには十分な威力があるようだな、既存のモノを使うのであれば、冬までにモノにできるだろう。成果を期待している」


 俺は正規の試験を許可した。


 そんなことをやっていると、ようやく玄からの使者がやって来たという。

 

 手紙の内容がこれまた凄かった。


「玄からの書状によると、ウルプの頸をもって俺自らヌプリ川の前線へとはせ参じよだそうだ。しかも、冬までに」


 つまり、考える余地も準備する余地も無く、今すぐ動けという事だ。


「それが叶わないなら、攻め滅ぼすという。屋島の兵が今すぐ支度して大陸へ渡らない限り、これを守ることは不可能だな。が、守るには、キタンの軍船を排除し、小豆の船を雇い入れなければならない。出来るか?」


 俺は武将に問うてみた。


「小豆の船を雇う事は可能でしょう。しかし、大陸へ渡るためにキタンの軍船を排除する方法など、我々はありません。仮に、屋島が玄に恭順を示そうにも、冬に奥方様の頸をもってヌプリ川に軍勢を進めるは不可能です。書状は我らの状況を把握したうえで、攻め滅ぼされろと言っているようにしか見受けられません」


 うん、それには同意見だ。初めから妥協の余地も交渉の余地もない。そもそも、使者が来るのがここまで遅れたのだって、諸へ屋島侵攻の指令を出して、実際にその行動に入ったことを確認してから最後通告を行ったからだろう。


「現在の諸であっても、屋島海峡を抑え、侵攻するくらいの軍船と水夫は容易に揃えられるでしょう。中と並んで鉄が豊富なこの地を欲しがるのは分かります。しかも、屋島を陥落させれば、目と鼻の先にキタンの都があります」


 そう、キタン海峡の向こうにはキタンの都がある。確かに距離はあるが、屋島を抑え、屋島、壇之浦の港が使えるならば、状況はまるで違ってくる。森を超える必要なく敵の本拠地を叩ける。そして、武器の供給も絶てる。これほど良い作戦は無いだろうな。


 もちろん、そのためには屋島が弱くなければならないが、諸が16世紀の軍事力なのに対し、屋島は19世紀中盤の装備を持っている。

 しかも、相手は船でやって来る。準備さえ怠らなければ負けはしないだろう。



 

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