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17・偶に撃つ弾が無いのが珠に傷

 ウルプが練兵総監へという話を条件付きで了承した。


「兵の教育係か、受けても良いが、全体の基礎教育とは別に今やっておる奴らの様な見込みのある奴をもう少し選んで良いか?そ奴らをキタン流で鍛えてやる」


 というので承認した。武将も搦め手部隊が増えるならと快諾している。


 さて、その新兵訓練の中でウルプが選抜した160人にはボルトアクション銃が支給された。


 というのも、最初の50人へ射撃場にあったボルトアクション銃での訓練で、ウルプ程ではないが、皆が200メートルの的に当てることが出来、中には300メートルでもこなせる奴まで居る。ウルプは350も狙えるようだが、威力がずいぶん落ちていると不満顔だ。


「仕方がないぞ、今使っているのは量産を最優先にした弾だ、底は金属だが胴は紙を使っている。あまり強力にしてしまうと紙が焼けて内部にカスが残るから掃除しないと次の弾が込められなくなる。本当は全金属薬莢にしたいが、今の屋島の技術では需要に生産が追い付かない」



 銃の生産が始まって、俺は安心しきっていた。しかし、武将からある問題を持ち掛けられた。


 従来の先込め銃を持った鉄砲隊には一人当たり120本の早合を持たせると規定している。新たに槍隊から改編した歩兵隊で同様に120発持たせて演習を行ったところ、鉄砲隊より弾薬消費が多いので、途中で弾が足りなくなる兵が現れたという。


「それならば、持たせる弾を増やせばよいのではないか?」


 そう答えたのだが、供給される弾薬量と歩兵隊の携行数を計算すると、戦争に備えた備蓄分を考慮すると、訓練用の弾数があまり確保できないと言われてしまった。


「資村さまもご存知のように、鉄砲は数を撃って感覚を体で覚えなければ、実戦では当てることが出来ません。練兵総監自ら訓練されている連中など、特により一層の射撃が必要です」


 そう言うのだった。


 確かに、武将の言う通り、銃は数撃ってナンボだ。当たるようになったからと怠けていては、いざという時当たらなくなってしまう。銃に限ったことではないと思うが。


 そんなわけで、これがどれほどの大問題かを知ることになった。


 そして、通貫を呼んで、銃弾の生産状況を聞いてみたのだが


「足りていませんか。先込めの感覚では十分足りているという認識だったのですが、元込めでは3倍から5倍もの弾を使うとなると、今の計画では明らかに不足してしまうでしょう」


 そう言って悩みだした。


 全金属製薬莢というのは、板から打ち抜いた銅板を成型、絞りによって製造しているのだが、絞り段階での不良が無視できない数量発生している。

 職人仕事として製造する分には問題ないのだが、戦争に備えた大量生産、大量備蓄にはそれでは足りない。

 そのため、翔をはじめとしたメンバーが量産用の工作機械を開発しているのだが、現段階では一割程度、確実に不良が出る事が避けられない。


「いっそ、以前の紙巻薬莢に戻してはどうだ?寸法の上ではどちらも使えるだろう」


 そう通貫に聞いてみたのだが、全金属薬莢に比べて、厚紙の胴では火薬量に制約が出来てしまい、威力が低下するというのだった。


「金属薬莢での最大装薬ですと、500メートルでも鎧を撃ち抜ける威力を出せますが、同じ量の火薬を紙巻薬莢で行えば、胴が焼け、燃えた紙が薬室内に残ってしまいます。1発、2発なら問題ありませんが、連続射撃を行えば、いずれ弾が込められたくなってしまいます」


 というのだ。


「紙巻薬莢での威力はどのくらいだ?」


 と聞いてみると


「紙巻ですと、鎧に対しては300メートル程度が限界でしょう」


 というのだ。ちなみに、通常の丸球を使う火縄銃なら100メートル以内が標準で、強装薬で150~200メートル程度だ。そして、弓だと100メートルを超えると通常の射手では鎧を貫けなくなる。巧く狙える名手で150メートル。キタンの射手ならば200メートルも狙えるそうだが、運しだいの距離と言われ、標準は150メートル以内だそうだ。


「丸球で200行くかどうか、弓ならば150辺りだぞ?300もあれば少なくとも、相手が対策を持たない今回は十分ではないのか?」


 俺はそう通貫を諭した。


 すでに屋島においては塹壕線をはじめとした近代歩兵戦の研究が行われており、その中では交戦距離が300メートルを超えてくるという研究結果が出ており、銃開発はその研究結果を前提に行っている。


 しかし、屋島以外では100メートル離れれば戦場後方で、300メートルは安全圏という考え方のままである。


「今必要なのは、今回の侵攻への対処だ。もし、紙巻薬莢が戦争で余ったとしても、今後、屋島では兵だけでなく、猟師にも元込め銃を広めていくし、ゆくゆくは東の兵全てへと広めていくことになるだろう。そうなれば、腐る事はない。小豆や東で元込め銃が採用されれば、まずは生産が容易な紙巻を広めることになる。全く無駄にはならないだろう」


 そう言って通貫を説得し、彼も納得してくれた。そして、紙巻であれば、作業効率は改善し、不良発生率も大幅に下がるので、2倍程度には弾薬生産を増やせそうだという。


 ホント、輝には助けられてばかりだ。まさか、俺にはここまで広い視野での見通しは無かった。言われて初めて納得した。

 屋島以外でいきなり全金属薬莢が作れる訳もなく、東全域、場合によってはキタンにまで広まるとなれば、屋島の生産設備だけでは弾薬製造は追い付かなくなる。かといって、階納や翔の高度な工作機械を無思慮に屋島外へ広めるのは危険だ。

 そうなると、底部を金属打ち抜きで、胴を紙巻にした薬莢を広めた方が、屋島の高度な冶金技術の保全には都合がよい。


 さて、その上で考えて見れば、周辺世界でこのような高度技術を持つのは中だけらしく、中に元込め式銃の技術が漏れたとしても、すぐさま周辺に普及するという事はなさそうだ。

 元込め銃は21世紀からしたら「構造が簡単な銃」かもしれないが、多くの国が中世の技術水準であるこの世界では、1世紀程度の間に大戦争という事も無いだろう。


 これは体の良い言い訳かもしれないが。


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