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14・外交スキル?そんなものは持っていませんが、何か?

「はぁ?来年来ると言わなかったか?」


 真冬である。東暦1793年だ。そう、新年だ。


 使者が来たのはまだ残暑が残る時期だった。つまり、まだ3,4か月しかたっていない。「来年」というのだから最低でも半年以上は開けるもんだと思うだろ?それがどうだ、コレだよ。



 返事を受け取りたいと言っているらしい。


「どうしたら良いんだ?」


 俺は何も思い付かないのでデキる秘書、輝に聞いてみた。


「そうですね。屋島が独自に玄と交渉して良いという法はありません。東へ知らせを出しておりますので、その返事が来るまで何もできないと正直に言うべきではないでしょうか」


 う~ん。それ、明らかにフラグな気がするんだけども・・・


「それで使者は納得するだろうか?」


「直接、東へ行くよう言ってみるのも良いかも知れません」


 確かに、正規の交渉が出来るのは東なのだからそれが正解だが、それで良いのだろうか?



 そうは思ったが仕方がない。俺は長崎の鼻へその旨を伝達した。


「使者一行は来年、再訪した時に返事を聞くとのことです」


 どうやらフラグは立たなかったらしい。



 しかし、事はそう簡単に収まる訳もなく、大陸情勢に関する報告を聞いて天を仰ぐこととなった。


「それで、その諸という屋島と交易を行っていた国が玄に征服され、今回、使者としてやってきたと」


 何ともアレな話だ。


 つまるところ、その屋島海峡の向こうにあった国が玄に変な事を言わなければ来る事も無かったかもしれないというのだ。


 昔習った話だが、この諸という半島と多島海で構成された国を挟んで、同じような島国である中が存在している。

 そこにも鉄鉱石がとれる鉱山があり、東との交易によって高度な鍛冶技術が伝播しているらしいことは知っている。

 今回、使者一行と接した者によると、玄は今のところ中には興味が無いらしい。それどころか、玄は諸への侵攻において、半島西部に広がる多島海へ中からの援軍がやって来た際も素直に多島海から引くことで、戦闘を極力回避したらしい。


「では、なぜ島であるわが屋島へ使者を送ってきたのだ?中と争わないなら、我らも放っておいてくれて良いのだが」


 そうなのだ、放っておいてくれれば良いのに。


「中と争いが無かったわけではありません。諸を攻める前、玄は中へも侵攻を行いましたが、二度にわたる侵攻をことごとく撃退されたようです。船の扱いに慣れた中と征服民を徴発して船団を仕立てた玄では戦いにならなかったようです」


 そう言ってここ最近の出来事を語ってくれた。そう言えば権令を引き継いだ際にそんな話があったかもしれんが、あまりの忙しさに忘れていた。なんせ、遠い海の向こうの話だったのだから関心も無かった。


「それで、矛先を諸やキタンへと振り向けたわけか」


 武将が頷く。


「そうです。そして、そのキタンと関りがあるわが屋島が中の様に邪魔をしているのが目障りなんでしょう」


 それこそ迷惑にも程があるよな。いや、当然の行為かも知れないが、やっぱり迷惑だ。


 そしてだ、さらにもう一つの要素があるという。


「あと、諸が玄に服属したという事は、わが屋島が中と違い、独自の船団を駆使して交易せず、小豆やキタンの船団に依存している事も玄に知られたと思われます。そうであるなら、わが屋島は中とは違い、攻め落とせるとの目算をもって使者を送って来たという推論もなり立ちます」


 という、まさに予告された事態を口にした。


 天を仰がずにいられるか?



 ただ、俺はもう少し頭を使うべきだった。


 よく考えてもみろ。なんで3か月以上も東から返事が来ないのか。定期便は約2か月で往復しているのだから、返事が来ていないのがおかしい事に気が付くべきだった。仮に、返事が来なくとも聴取に誰か来てもおかしくはない。


「キタンからの使者が参りました」


 キタンとは交易を行っているので壇ノ浦の港だけでなく、直接屋島へもやってくる。そして、今回の使者は直接屋島の港へとやって来たのだった。


 やって来た一行は赤、いや、紅色というのか、そんな色の服を着た人や藍色の服を着た人、そして、斑な草木染で濃淡の緑に染め上げた動きやすい服の人が居た。迷彩服っぽい人物が武人らしいというのは前世知識以前に、その体格で分かったが、それ以外はよく分からない。子供が混じっている気もするが、まあ、外交使節なんだろうな。



「今回は玄に対する周到な対応、感謝いたします」


 あいさつの後、藍色の服を着た人がそう言ってきた。


「何、こちらは決まりごとに従ったまでの事」


 そう返して話をしたのだが、つい昨日届いた東からの返事にあったように、すでに東とキタンでの話は出来ているという。


「ついては、権令殿、我らと屋島の今後の縁の証として、ヤッテーンマキッ将軍の娘、ウルプを嫁がせたい」


 迷彩服の男が進み出てそう言った。先ほど疑問に思った子供がその隣へと並び、礼をしている。


 ヤッテーンマキッ将軍というのは今、最前線で戦っているキタン軍を指揮している人らしい。キタンでも非常に有能な将軍らしく、モッティ戦法もこの人物が考案したらしい。

 中世にもかかわらず緑の服を着た集団という、半ばエルフかよと言いたくなる連中だが、耳は尖っていない。ただし、美形揃いなんだろう。一行の面々は皆俳優かと思うようなイケメンや渋いオッサンばかりだし、目の前で礼をしている少女はめちゃくちゃ可愛い。


 が、俺は顔は平静を装い、威厳を保っている。


「なぜ、キタンはそこまでするのか?しかも、今、前線で戦う将軍の息女をというのは、屋島へ人質を差し出すに等しい。そこまでする必要があるのか」


 身を乗り出したい気持ちを抑えて平静に疑問を口にする。


「わがキタンの状況は、既に屋島に命運を握られているも同然。矢じりの供給が途絶え、もし、屋島が玄へと協力すればすぐにでも国が消滅してしまうでしょう」


 それは大げさだと俺は思うのだが、キタンにとってはよほど切実なんだろう。東からの返事にもキタンへの協力継続が重要だと書かれていた。

 もちろん、玄に協力する気はないが、それで人質代わりに子供を使うというのは納得しかねている。


「我々としても、キタンの存続こそ屋島の安全には不可欠と考える。支援をやめるつもりもなければ、玄に協力する気もない。ただ、人質を預かる気もない」


 だが、俺は抵抗しきれなかった。東自身が今回の事を認めている。それも、人質ではなく、正規の婚姻として。

 そのことを指摘されては断る訳にも行かず、初夏には正式に挙式を行う段取りが決まることとなった。


 これ、フラグやないか・・・






 


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